日時:2018年6月18日(月)~20日(水)
場所:ネバダ州ラスベガス
メイン カンファレンスの最終日です。最後の朝食をとり、3 日目最初の分科会に向かいます。
最初の分科会は、"The Compliance Challenge of Multinational Companies and the Risk to Underestimate Culture" (多国籍企業のコンプライアンス チャレンジと文化軽視のリスク) を選択しました。講演者は、アンドレア・ロンド (Andrea Rondot) です。彼女は、不正およびコンプライアンスに関して、国際的な経験を積み重ね、今はデロイト (Deloitte) の金融犯罪チームのマネージャーとして汚職防止およびマネー ロンダリング排除へのソリューション支援を行っています。
多国籍企業がコンプランス プログラムを構築する際にどのように考えるべきかを、倫理的な側面、文化、一般常識の違いなどの観点から詳しく解説しました。そして、人の振る舞いや行動を変えるために効果的な方法について、子供が手を洗ってからカップケーキを食べるようにするにはどうすればよいかを題材にした実験ビデオを用いて説明しました。
ビデオでは、① 自発的な動機 (自分から進んで手を洗う) の実験では、誰も手を洗わずに一目散にカップケーキに手を伸ばし、次の ② 環境の変化 (除菌スプレーをカップケーキの近くに置く、「手を洗ってからカップケーキを食べる」と張り紙をする) でも、誰も除菌スプレーを使いませんでした。③ 訓練 (手の洗い方を教える) では、12 人のうち 3 人が手を洗い、そして最後に、①~③ をすべて行い、さらに ④ 社会 (リーダーに「食べる前に手を洗うように」と指示してもらう) では、12 人の子供のうち 11 人が手を洗いました。
人の行動を変えるためには、少なくともこれら 4 つの事柄を組み合わせることが必要であるという説明は、非常に興味深いものでした。
最後の分科会は、"At the Root of All Ethical Failures" (すべての倫理的な失敗の根源) を聞きました。このセッションでは、プロティビティ フォレンジックのディレクターであるパメラ・べリック (Pamela Verick) が講演しました。彼女は、不正管理システムや不正リスク マネジメント プログラムなどの構築の分野で 23 年以上の経験を積んでいます。
今年、最も気に留めなければならない倫理・文化や行動に影響を与える重要な事項は、公然と意見を表明する (Speak up!) 文化、テクノロジーの進化 (関係性や従業員の働く環境への感じ方に影響を与える)、ドッド・フランク法[※1] (Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)(最高裁の判決によるインパクト)、コンプライアンスの難問 (GDPR、不正防止、贈賄禁止条項など) であると彼女は述べました。
また、経営管理の誤りや不正を軽減するために行う企業文化の査定するアンケート調査で、従業員の本音を引き出すためには、決してアンケートの結果をよくしようとしない (clean result に導くような (好ましい結果を得られるような) 質問はしない) ことが大切だと説明しました。
グローバル カンファレンスの最後を締め括る対談には、ACFE 教育部門の責任者であるジョン・ギル (John Gill, J.D) と、有罪判決を受けた不正実行者であるライアン・ホマ (Ryan Homa) が登壇しました。ライアンは、3 年以上にわたって行った合計 1 億 3000 万ドル近くを横領した罪で、1 年 10 か月服役しました。この対談では、なぜライアンが不正を犯してしまったのか、また、そのときの機会や動機について、取り上げられました。
彼は会計士として、年間 60 億ドル規模の会社で、重要顧客への小切手を発行する責任者として働いていました。ある日、彼は会社の小切手を発行するシステムで、小切手を複製できる問題があることを発見しました。会社のオーナーにシステムの改善を促しましたが、改善には 3,000 ドルかかると断られてしまいます。
オーナーがそう言うなら仕方ないと思い、その後もライアンは真面目に仕事をこなします。しかし、徐々に会社での人間関係などから会社に不満を抱くようになり、イライラしたり怒ったりすることが多くなりました。そして、住宅ローン返済のためのお金を他の用途に使い、ローンの支払い期限が迫ったときに、ついに小切手を不正に発行してしまいました。
最初は自分の銀行口座に入金していましたが、その後、架空の会社を作り、その会社宛に合計で 130 枚以上もの不正な小切手を発行しました。不正な小切手の発行は、次第に頻度が増え、金額も上がり、エスカレートしていったのです。
会社のお金を横領することが日常業務となり、自由にお金を盗むことができるようになった一方で、ライアンは精神的なバランスを失っていきました。怒りっぽくなり、家では寝ずにゲームをし、お金を盗んだこと対して自己嫌悪に陥りました。不正がバレないかと怯えたり、どうせバレるならやめる必要なんてないと自問自答を繰り返したりして、自分を追い込んでいきました。
ある日、オーナーの前に立ったとき、汗がダラダラと流れ、止まらなくなりました。オーナーに勧められて精神科に通院しましたが、最終的に解雇されました。
会社の IT チームが、退職者による不正な情報の持ち出しがないかを確認しているときに、ライアンによる小切手の不正を発見しました。それまで会社はライアンの横領にまったく気付いていなかったのです。
不正が発覚したとき、「これでやっと終われる、もう嘘に生きなくてもいい」と、ほっとした、とライアンは当時を振り返って語りました。
出所後、彼は友人の会社でごみ収集係として 9 ドル 50 セントの時給で働き、今はプロダクト・マネージャーとして再びまじめに働いているそうです。
米国では不正実行者や犯罪者にセカンド チャンス (再挑戦の機会) を与えるので、ライアンのように自分が犯した過ちを多くの人の前で語れるのだと思います。不正実行者の心理を学習できる非常に良い対談でした。
報告者:ACFE JAPAN 事務局