日時:2017年6月19日(月)~21日(水)
場所:テネシー州ナッシュビル
2 日目の朝の基調講演では、FIFA の腐敗を暴いて有名になったジャーナリスト Andrew Jennings(アンドリュー・ジェニングス)へのGuardian Award の授与が発表されました。これは ACFE から、不正と戦うジャーナリストに与えられる賞です。残念ながらジェニングス氏は会場には来れずに Skype を通じてのスピーチとなりました。ジェニングス氏は 30 年以上にわたって悪人を追っており、1980 年代にはロンドンのギャングの親玉と警察幹部の癒着について、その後にはシチリアのマフィア達の密着取材をしてきました。彼は、FIFAの腐敗について"FOUL!(ファウル!)"と"The Dirty Game: Uncovering the Scandal at FIFA"(邦題「FIFA 腐敗の全内幕」)という 2 冊の本を著しており、Joseph Sepp Blatter(ヨーゼフ・ゼップ・ブラッター)前国際サッカー連盟会長の記者会見に彼だけが出席を拒絶されたそうです。
The 28th Annual ACFE Fraud Conference の各 Session は録画され、現地で参加できなかった会員のために on-demand で視聴できる Option が用意されました。
基調講演の二人目は、ハーバード・ビジネス・スクールの准教授 Eugene Soltes(ユージーン・ソルテス)です。ソルテス准教授の研究は、どのように企業または企業人が困難な状況に立ち向かい、克服できるかというもので、"Why They Do It: Inside the Mind of the White-Collar Criminal(何故彼らはやるのか:ホワイトカラー犯罪者の内面)"の著者です。著書の中で、何故、裕福で成功した経営者が詐欺を犯していくのかについて深掘りして、マドフ事件のバーニー・マドフ、タイコ事件のデニス・コズロウスキ、エンロン事件のアンドリュー・ファストウなどについて描いています。講演の後、ACFE Book Store で同書のサイン発売会が行われました。
2 日目午前中の分科会はセキュリティや調査に関するコンサルティング会社 Hetherington Group の代表である Cynthia Hetherington(シンシア・ヘザリントン)による"Advanced Online Investigations(先端のオンライン調査)"を選択しました。彼女は調査に関する 20 年以上の経験を持ち、2012年にはACFEのJames R. Baker Speaker of the Year Award(最優秀スピーカー賞)を受賞しています。彼女は、不正調査の準備段階におけるオンラインによる基礎調査の重要性について強調しており、2015 年には"The Guide to Online Due Diligence Investigations(オンラインによるデューデリジェンス調査ガイド)"を著しています。Google, Facebook, LinkedIn, Twitter, Instagram というようなポピュラーなツールの調査における使用方法以外にも、Pipl, Yasni, Namechk, WEBSTA などの日本では馴染みのないサイトの使用方法についても解説してくれました。
2020 年のオリンピックを控えた日本では、Meeting, Incentive, Convention, Exhibition の頭文字からミーティング、インセンティブ旅行、国際会議、展示会等を集積して提供する MICE ビジネスに注目が集まっていますね。毎年 ACFE のカンファレンスに参加する度にメイン会場や Bookstore の規模に驚き、個別セッションの会議室の運営に感心するのですが、3,000 人という規模の昼食がサーブされる様子は壮観です。米国の各都市は大規模なコンベンションというビジネスに長けていますね。
ランチョンセッションでは、FBI での経験をもとに、弁護士として調査・セキュリティ・コンサルティング会社である The Georgetown Group LLC を創業した Eric O'Neill(エリック・オニール)の登壇です。オニール氏が、FBI に 21 歳で入局して最初に与えられた仕事は、後に米国史上最悪のスパイと呼ばれたベテラン FBI 捜査官である Robert Hansen(ロバート・ハンセン)の部下として彼を監視する潜入捜査でした。ハンセンは 22 年の間、ソビエト連邦とロシアに米国の機密を売っていた罪で終身刑となりますが、この話をもとに 2007 年に"Breach"(邦題「アメリカを売った男」)というハリウッド映画が制作されたそうです。
FBI がオニール氏をこのスパイ事件の捜査担当に選んだのは、コンピューターとサイバー・セキュリティに長けていただけではなく、当時ハンセンの息子と同じロースクールに通っていたからだそうです。長い期間慎重にスパイ行為を続けてきたハンセンの信頼を得たうえで、逮捕につながる証拠となった彼のハンドヘルド・デバイスを盗み出すのにはかなり時間がかかったそうです。ロシアと米国の関係は現在でも複雑ですが、実際にスパイの逮捕に関与した FBI 捜査官の話には感慨を覚えました。オニール氏は、現代のサイバー攻撃の実際や IoT 時代の考えられる脅威についても詳しく解説してくれました。
午後の分科会の前半は、Forensic Strategic Solution の代表 Ralph Summerford(ラルフ・サマーフォード)による"The Auditor's Responsibility to Detect Fraud(監査人の不正発見責任)"に参加しました。サマーフォード氏は弁護士として、会社の取締役や保険会社の調査役として、そして、検察、FBI、IRS などからのエージェントとして、フォレンジックや資産調査などの長い経験を持っており、2010 年の Cressey Award の受賞者です。公認会計士監査、内部監査、政府による監査に分けて、オーソドックスに不正の発見に関する義務について、そして訴訟を受けた場合の責任について解説するものでした。テクニカルな解説が多くなりがちな当カンファレンスの分科会の中では、基本をもう一度振り返ることができる良い内容であったと思います。
分科会の後半は、"Educator Panel: How to Incorporate Data Analytics into Fraud Examination Courses(教育者によるパネルディスカッション:不正調査教育におけるデータ・アナリティクスへの対応について)"に参加しました。
モデレーターは Canisius College の准教授である Patricia Johnson(パトリシア・ジョンソン)が務め、パネリストは St. John's University の准教授である Chelsea Binns(チェルシー・ビンス)、Carlow University のディレクターである Diane Matthews(ダイアン・マシューズ)、West Virginia University の教授である Richard Rilley(リチャード・ライリー)そして、フォレンジックサービス会社の BKD LLP でビッグデータ分析とデジタル・フォレンジック担当のディレクターである Jeremy Clopton(ジェレミー・クロプトン)です。米国では、大学と大学院で不正やフォレンジックを専門とする研究と教育が行われています。
日本の大学の関係者としてはそれだけでも羨望してしまいますが、教員として彼らは、単純であった財務諸表などの企業不正が、世界中にひろがり、複雑化していくことを問題意識として抱えています。会計のバックグランドの学生と法律がバックグラウンドの学生の違いや、統計学と Excel, Access, ACL の技術の深め方など、立場も環境も教育の水準も様々で、議論はまとまりはしないのですが、このパネルディスカッションが実現すること自体が素晴らしいと感じました。
ACFE Global Fraud Conference はこれらの会社をはじめとする多くのスポンサーに支えられています。
17 時からは Network Reception です。多くの他国の会員と知り合える良い機会ですが、凄い人数です。朝御飯から夕方まで一日中会議場である Music City Center の建物から一歩も出ていませんから、夕方の日の光がまだ眩しいです。
ACFE JAPAN 理事長 濱田眞樹人