日時:2017年6月19日(月)~21日(水)
場所:テネシー州ナッシュビル
「我々は、不正実行犯が、自分が罪を犯したことを正当化した数多くの事例について耳にします」。ハーバード大学ビジネススクール准教授で、不正の研究者であるユージン・ソルテスは火曜日の朝の講演で、立派な倫理ではなく、自分に異を唱える賢明な顧問弁護士の声に耳を傾ける謙虚さによって、ある素晴らしい経営者が刑務所行きを免れたと語った。
2002 年、シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタリストであるベン・ホロウィッツは、才気あふれる最高財務責任者(CFO)を雇用したところ、彼女は同社の役員に最大限の報酬を与えるためストックオプションインセンティブを最大に活用することを助言した。ソルテスの 2016 年の著作"Why They Do It"のために、ホロウィッツがソルテスに語ったところによると、その新しい CFO は、「自分が以前勤務していた企業ではストックオプションの価格をその月の最安値に設定する慣習で、我々の会社よりはるかに有利な結果を従業員に付与していた」と報告した。彼女は「この方針はその企業の外部の顧問弁護士によって設計され監査人の承認も受けており、完全に法を遵守していた」とも言った。
しかしながら、新しいプランの実施前にホロウィッツが自身の顧問弁護士と協議したところ、彼は次のように言った。「私は法律を 6 回読み直してみましたが、このやり方が法津を守っていると言える点はありません」
2 年後、ホロウィッツの CFO は、前職に在職中に他の役員と共に受け取ったオプションの日付の不正確な記録に関与していた。彼女は、不正な日付の遡りに関する脱税で、4 か月間刑務所で服役し、公開企業の役員や取締役に就くことを禁じられた。「私が刑務所に行かずに済んだ理由は、少々運が良かったのと、有能な顧問弁護士と、正しい組織設計だった」とホロウィッツはソルテスに語った。
ソルテスは、出席者に向かってこう述べた。「ビジネススクール、管理職向けプログラム、書店の売り場、企業のトレーニングで、我々は正しい価値を持つこと、正当性、道徳的指針について何度も語ってきました。しかし、〔ベンの〕事例で非常に説得力のあるのは、現実にはこういったことは何の関係もないということです」
「ベンは他の皆と同じです。同じ性向、限界を持ち、財務会計の方針についての正誤に対する直観も同じです」
しかしながら、ベンと他の多くの企業経営者の違いは、彼が自分自身の意思決定の能力に限界があることをわきまえていたことである、とソルテスは述べた。「そして、彼は自分が何か変更に着手するいかなる時もチェック機能としてはたらく決まった手続きを定めていました。このことは、自分の会社と自分自身に悪影響を及ぼすであろう危険な道に進む前に仲裁に入ってくれたのです」
通常の倫理トレーニングは、困難なジレンマに正しく対応できるという自信を経営幹部に与えることが多い。「しかし、いくつかの例は、するべき正しいことを分かっていても、プレッシャーや時間の不足などの影響を受けると違う対応をしてしまうことを示しています」とソルテスは言う。
「自信ではなく、謙虚さを養うことが必要です。我々はベンのようにならなくてはなりません。我々は多くの点で劣っています。我々は、自分の行動の結果がいつも分かるとは限りません」
(米国の医療機器金融会社) DVI Inc. の元 CFO であるスティーブ・ガーフィンケル(Steven Garfinkel)は、ソルテスにこう言った。「我々は皆、自分が道徳的に大きな課題に直面すると普段は見せない底力を発揮できると思っている」。しかし、彼は今になって、自分の自信が見当違いだったと分かった。ガーフィンケルは、虚偽の担保報告に署名し、資産を二重に担保として差し入れたとして有罪判決を受け、26 か月服役した。「我々の多くは、普段は見せない力を発揮することなどできないのです。自分が重罪犯になることなどまったく分かっていませんでした」とガーフィンケルは言った。