日時:2017年6月19日(月)~21日(水)
場所:テネシー州ナッシュビル
第 28 回 ACFE グローバル・カンファレンスが開幕しました。今回も 3,000 人を超える ACFE 会員が世界各国から集まりました。今年の会場はテネシー州の州都ナッシュビルのミュージックシティ・センターという巨大なコンベンション・センターです。我々日本人には馴染みが薄いですが、ナッシュビルはカントリー・ミュージックの中心地、「音楽の街」として、そして、テネシー・ウィスキー「ジャック・ダニエル」の醸造所で有名です。ミュージックシティ・センターには、ブリヂストンの名を冠した NHL アイスホッケーチーム、ナッシュビル・プレデターズの本拠地アリーナやカントリー・ミュージック殿堂博物館が隣接しています。
米国内からの 2,700 名以外にも 60 か国からの参加者が訪米しています。今年のキャッチフレーズは"Where Heroes Unite(不正と闘う仲間の団結)"です。
ACFE Pennsylvania Chapter のリーダーとしてご活躍の Jun Iwata 氏と再会しました。
朝は 7 時半からカンファレンスがスタートします。不正関係の著書などを販売する ACFE Book Store、過去の不正事件に関する様々な資料の展示がされる Fraud Museum、各スポンサーの展示などがなされる会場で、簡単な朝食も提供され、各国からの CFE の仲間たちと再会します。
ACFE の Program Director である Bruce Dorris(ブルース・ドリス)の開会宣言によって最初の General Session(全員が参加する講演)が始まります。
今年の最初の Key Note Speaker(基調講演者)で Cressey Award(ACFE 創立の父でもある犯罪学者ドナルド・クレッシー博士(1919年~1987年)の名を取って 1989 年に創設されたクレッシー賞は、不正の防止と抑止に取り組んだ業績者を称えます)の受賞者は、The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Limited(HSBC)の金融犯罪対策のグローバルヘッドであり、Financial Crimes Enforcement Network(FinCEN, 米金融犯罪取締ネットワーク)の前局長としてマネーロンダリングや仮想通貨事業者の取り締まりで有名な Jennifer Shasky Calvery(ジェニファー・シャスキー・カルベリー) です。彼女は、FinCEN の前には、司法省でマネーロンダリングと 15 年以上闘ってきました。米国の公的機関における長いキャリアから、英国ロンドンの銀行でのリスク専門家へと転身したが、彼女の金融犯罪との闘いは変わらず続いているそうです。写真の演台の横に置かれているのがクレッシー賞のトロフィーですが、この名前のついた受賞が彼女の不正との闘いに掛けた人生にとってどれだけ栄誉であるかを強調していました。
新しい Board of Regents の Leader である Leah Lane(リア・レーン)から各ボードメンバーの紹介の後、President & CEO である James Ratley(ジェームス・ラトリー)の不正と闘う会員の団結を訴えるスピーチがおこなわれ Opening Remark が締めくくられました。 今年の Board of Regents の過半数を女性が占めたのは素晴らしいことだと思います。
ACFE カンファレンスの特徴は朝と昼に行われる有名な講演者による基調講演だけではなく、公募により会員によって行われる 70 種類の Breaking Session(分科会)が 13 会場で同時に行われることです。第 1 日目午前中の分科会はコンサルティング会社 BKD, LLP の Director である Jeremy Clopton(ジェレミー・クロプトン), CFE, CPA, ACDA による"Effectively Communicating Complex Data"に参加しました。彼は不正の防止と発見、リスク評価等の為のアプリケーションを使用してデータ分析をする専門家です。IT と会計の両分野にまたがり、フォーチュン 500 企業への継続監査プログラムの開発と導入に関与してきました。反トラストや反腐敗行為の監視や刑事犯罪企業の調査に関して、豊富な経験を有しています。
企業におけるデータの種類と量は増え続けていますが、不正の調査においてデータ分析を活用する場合には、その結果をどのように伝達するかが大変重要で、情報の使用者にどのように結果を提供するのかを例を用いて説明しました。社内の調査人なら、経営者、監査委員会、法務、内部監査、人事、経理など多くのコミュニケーションの相手がいてそれぞれ要求が違うのです。社外の各ステークホルダーとのコミュニケーションでも同様です。結果のプレゼンテーションに関する基本的な知識とルールなのですが、実際に例を見せられると成程と納得のできるものでした。不正調査人は長年にわたり、調査人としてのコミュニケーション能力を磨いてきました。また最近では、データ分析能力を磨いています。この両方の能力を合体して提供することが、今後の不正調査にもとめられることであると強調しました。
ランチセッションでは、まず、今年の Cliff Robertson Sentinel Award(1970年代にハリウッドの不正を告発したプロデューサーの名を付した ACFE が不正と闘った告発者に贈る賞)が医療機関での不正を暴いた Samuel Foote(サミュエル・フート)医師に与えられました。
そして、著名な非言語コミュニケーション専門家である Cliff Lansley(クリフ・ランズレイ)による基調講演が行われました。ボディランゲージを分析して、感情や嘘を読み取ることについて解説しました。
彼はドキュメンタリー"Lying Game:Britain Fooled Britain"や BBC の行動分析アナリストとしても活躍しています。
嘘を表す行動、表情の持つ力、それらを不正の調査に生かすことを目的としたプレゼンテーションでした。「何故女性は男性よりも嘘を見破れるのか」、「何故犯罪者は嘘を見破る能力が高いのか」、「最も信頼できる嘘を示す行動は」などと質問をしながら、これが訓練可能な能力であることを語ります。
彼は、「嘘」を"A deliberate attempt to mislead, without prior notification(予告なしに意図的に誤導すること)"と定義し、人間の反応は時間とともに意図的に操ることが可能になり Reflex (反射)、Reaction (反応)、Response (応答) と分けることができると分析していました。Pixar Movie の"Inside Out"(邦題「インサイドヘッド」)を見せながらの、怒り、不快、軽蔑、恐れ、驚き、悲しみなどの表情やジェスチャーの解説は興味深いものでした。
午後の前半の分科会は、Berkeley Research Group の Managing Director で、デジタル・フォレンジックと事件対応コンサルティングの専門家である Robert DeCicco(ロバート・デチッチョ)による"Maintaining and Protecting Electronic Evidence in Fraud Examinations"に参加しました。
ACFE 会員による講演で、IT によるフォレンジックと従来の調査手法との統合についてのトピックが増えています。これらの異なった技術および人材の軋轢に関する問題は新しい世界共通の問題かもしれません。DeCicco 氏は、技術チームと非技術チームの協力が行われないことによって重要な要素がどのように見逃されているのかを説明し、電子的データが物理的な場所や行動を裏付ける具体例を示しました。
午後の後半の分科会は、監査法人 Grant Thornton LLP の Director である Linda Miller(リンダ・ミラー)と同 Senior Manager である Paul Secker(ポール・セッカー)による"Using a Risk-Based Approach to Combat Fraud with Data Analytics"に参加しました。Miller 氏は Government Accountability Office(米国会計検査院:GAO)での長い経験があり、Secker 氏は IBM での長い経験を持つデータ分析技術手法の専門家です。
彼らの主張は、現代の不正との闘いにおいて、ビッグ・データと新しいアプリケーションの手法に飛びつき大きな投資をする傾向に対して、やはりまずは不正リスク分析が何よりも大切だと強調しました。
夜は Jim Ratley の招待による各国の Chapter 代表を集めての ACFE President's Reception に参加しました。1874 年に建設された教会を保存した The Bell Tower でカントリーのライブ・ミュージックを楽しみながら旧交を温めました。
ACFE JAPAN 理事長 濱田眞樹人