日時:2019年6月24日(月)~26日(水)
場所:テキサス州オースティン
2 日目は、ACFE ガーディアン賞を受賞したバスティアン・オーベルマイヤー (Bastian Obermayer) 氏のライブ ビデオ講演から始まりました。オーベルマイヤー氏は、ピューリッツァー賞を受賞したドイツの捜査ジャーナリストであり、パナマ文書を世に知らしめた人物として知られています。
パナマ文書の調査を始めたきっかけは、匿名の告発者からの詳細なデータが添付されたメールが届いたことでした。その告発者は、オーベルマイヤー氏にコンタクトする前に、大手の新聞社に同じ内容で告発したものの、相手にされず、とても落胆したそうです。
パナマ文書は、大富豪かつ非常に強い権力を持つ者が関わっているため、調査は非常に困難で、なかなか思うように進められず、また非常にお金がかかったそうです。しかし、悪どい政治家や権力者と対峙しながらも、“本当の” 素晴らしい政治家から話を聞けたり、調査が進むにつれて多くの国家がよい方向に変わっていく様子を見られたりしたことで、ジャーナリストとしての充足感が得られた、と述べていました。
権力に屈することは簡単ですが、真実を追い求め、真実を暴くことに尽くすことも、ときとして、不正調査には大切なのかもしれません。
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2 日目 基調講演 1:パナマ文書の報道記者は、不正検査士は「権力者に責任を負わせている」と称賛する
午前の基調講演は、血液検査事業会社セラノス (Theranos) 社の内部告発者となった Tyler Shultz 氏と、コンプライアンスやリスク管理の記事サイトを運営する Radical Compliance 社の CEO 兼編集者である Matt Kelly 氏による対談が質疑応答形式で行われました。
対談によると、セラノス社で研究員として働いていた Shultz 氏は、研究結果の不正に気付き、創始者のエリザベス・ホームズに何度も研究データに対する懸念を伝えたが、聞き入れてもらえなかった。不正は他の研究員にも周知の事実であったが、セラノス社の企業文化が異を唱えることを許さず、声を上げた研究員は容赦なく退職させられた。
退職した Shultz 氏は、ウォール・ストリート・ジャーナルの医療不正の記者である John Carreyrou 氏からの質問に答えたことで意図せず内部告発者となり、結果的に家族からも批判されることとなった。最終的に Shultz 氏の語った事実がセラノス社の不正を立証する証言のひとつとなり、セラノス社は解散した。
Shultz 氏の話からは、告発がいかに精神的な苦痛を伴うものかを痛感するとともに、告発者を守る制度の重要性を感じました。
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2 日目 基調講演 2:セラノスの内部告発者は、自分の家族関係を危険にさらして不正を明らかにした
午前の分科会は、“How AI Is Helping to Transform the Detection of Suspicious Transactions in Financial Services”(金融サービスにおいて不審な取引の検出に AI がどのように役立つのか) を聴講しました。講師は、IBM で国際金融犯罪ソリューションのリーダーを務める Clarl Frogley 氏です。かつては、FBI で金融犯罪の調査を担当し、在日米国大使館にも駐在していた、金融犯罪の専門家です。
この講演はとてもハイ レベルで、すべてを理解することは困難でしたが、不正調査で AI を有効活用するためには膨大データを集めなければならない、と感じました。
午後の基調講演には、ロシアで投資・資産運用を行う Hermitage Capital Management 社の CEO Bill Browder 氏が登壇しました。
ロシア政府高官による 2.3 億ドルにも及ぶ巨額横領事件を取り上げ、告発したセルゲイ・マグニツキー (Sergei Magnitsky) 氏の身の潔白を明らかにするとともに、マグニツキー氏の死に関与した疑いのある人物へのビザ発給禁止や資産凍結を行うセルゲイ・マグニツキー法 (Sergei Magnitsky Act) が制定されるまでの経緯が話されました。
「悪人はお金のためにどんな悪どいことも行い、人を殺すことは何とも思っていない」という言葉はとても重く印象に残りました。
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2 日目 基調講演 3:ビル・ブラウダーはセルゲイ・マグニツキーの名の下に贈収賄と戦う
午後の分科会は、“Unconscious Bias and Its Impact on Investigations”(無意識の偏見が調査に与える影響) を聴講しました。講師は、軍用機製会社ロッキード・マーティン (Lockheed Martin) 社で倫理領域を担当する Roxane MacGillivray 氏と Wendy Evans 氏です。
この講演では、不正をしているのではないかと疑われているマネージャーにヒアリング調査をしているビデオを映し、このマネジャーは有罪か無罪かを尋ねました。ビデオは 3 種類用意され、1 つ目は質問に対してマネジャーが怒りの感情をぶつけて答えているもの、2 つ目は落ち着いて答えているもの、3 つ目は泣きながら答えているものでした。
1 つ目の怒りながらインタビューに答えているビデオに対して、参加者の多くは「間違いなく有罪」と答えました。2 つ目のビデオに対しては、「有罪とは断定できない」と答える人が多く、3 つ目は「無罪かもしれない」と答える人が多くいました。
しかし、インタビューをよく聞くと、マネジャーの回答はすべて同じで、どのような態度で回答しているかだけの違いでした。この 3 つのビデオによって、私たちは、いかに思い込みや偏見によって判断をしがちであるかを参加者に実感させていました。
午後の 2 つ目の分科会は、元 PwC パートナーのトム・ゴールデン (Tom Golden) 氏による “Winning Human Relations Techniques to Take You to the Next Level”(次のレベルに進むための人間関係構築テクニックの獲得) を聴講しました。
よい人間関係の構築には、まず心から他人に興味を持つことから始め、よい聞き手・話し手になることが重要で、既存の人間関係という意心地の良い場所 (空間) から離れることで、違う自分を知ることができる、と説明されました。
メイン カンファレンス 2 日目の終了後は、アメリカで CFE として活躍している日本人とその職場の方々と交流しました。
報告者:ACFE JAPAN 事務局