米国 ACFE 本部の Vice President である John D. Gill が執筆したコラムを邦訳いたしました。「不正のトライアングル」が今なお有効であること、その理解が不正の抑止・防止に役立つこと、などについて述べられています。
不正対策の基本となる考え方です。その理解にお役立てください。
by John D. Gill, J.D., CFE, 米国 ACFE 本部 Vice President - Education
残念なことに、不正は、あらゆる国、あらゆる業界で行われている。現在も続いている不正との闘いで最も興味をかき立てるのは、不正を犯した者の心情の移り変わりを理解することである。金銭的な問題に直面した者が、他に真っ当な方法があるにもかかわらず、雇用主から窃盗するのは何故なのか? 犯罪者になるという最初の意思決定を下したときに、どのような心情の移り変わりがあったのか? 自らの犯罪行為に対して、どのように自分を正当化し続けているのか?
不正防止の専門家として、これらの質問に対する答えを探求することは重要である。不正行為者に至るまでの様々な動機と転換点を完璧に把握しないかぎり、不正を効果的に抑止することはできない。私は、不正実行犯へのインタビューが、彼らの心情を正確に理解するための最もよい手段であることに気付いた。自ら進んで、カメラの前で自らの罪について話そうとする人が現れることに、私はいつも驚かされている。インタビューには一銭も支払わないにもかかわらず、自らの過ちについて包み隠さず話したいと申し出る人が少なくとも毎年数名は存在するのだ。
どの話も各々の真相は興味を惹くが、それぞれを結びつけてみると、不正実行犯にとって、犯罪の実行前・実行中・実行後とで、ある共通した思考のパターンが見えてくる。また、何が人々を不正に駆り立てるのかについて、過去から現在に至るまでに専門家から提唱された様々な理論について検証を行うことも重要だ。
不正実行犯について理解を進める中で確信を得たのは、「不正のトライアングル」が今なお有効であり十分機能している、ということである。ことあるごとに、不正のトライアングルは、すでに今日では有効性を失いつつあり、改訂する必要がある、と言われてきた。しかし、ここ 4~5 年の間に行ったインタビューを考慮してみれば、クレッシーが不正のトライアングルを提唱した日と何ら変わりなく有効である。彼が掲げた基本理論は、今もなお実効性を有している。つまり不正は、金銭的渇望や借金問題などの「動機」があり、それを解決できる「機会」があり、自分の行為に対して罪の意識がなかったり弁明する気持ちを持ったりして「正当化」が成されると行われる。
しかしながら、不正検査士として個々の事件を評価する場合は、論理的な注意を払って臨むことを忘れてはならない。このことは重要である。なぜなら、これまでに取り上げてきた不正実行者の特徴は、犯罪に手を染めることのなかった人々にも当てはまるからである。ただ、不正実行者たちの心理的な兆候を観察し理解することは、被疑者の捜査だけではなく、将来の不正検知の可能性となる警告の識別にも大いに役立つ。
ACFE JAPAN では、本稿で取り上げられている「不正のトライアングル」「不正実行者の心理」の理解を深めるためのセミナーなどを予定しております。ご期待ください。