執筆者:GUEST BLOGGER, Liza Ayres, Contributing Writer
FTC(米連邦取引委員会)は、適切な規制を制定し調査結果を公表する機関だが、市場の新しい発見が得られる最良のリソースのひとつは消費者だ。消費者レポートを通じて、FTCはトレンドや疑わしい商慣習を直接体験した人の視点で確認できる。消費者レポートは、FTCが運営するConsumer Sentinel Networkが取りまとめている。Consumer Sentinel Networkは法執行機関が利用できる安全なデータベースであり、FTCがデータベースの情報を活用して不正防止法をより適切に執行できるようにするものだ。
2021年2月、FTCは前年に作成された470万件以上の消費者レポートを集計し29の主要カテゴリに分類したConsumer Sentinel Network 2020 Data Book を公表した。データは、FTCのコールセンターやオンラインで寄せられた未確認のレポートのほか、連邦政府、州、地方、国際法執行機関や、Better Business BureauやPublishers Clearing Houseなどの組織から提出された報告書も含まれている。Consumer Sentinel Network 2020 Data Bookは、コロナ禍で影響を受けた不正の手口や、今後数年にわたって不正と闘う専門家が予期しておくべき傾向の解明に役立つ情報を提供する。
2020年はこれまでで最多の報告がFTCに寄せられ、2019年の324万件から大幅に増加した。加えて、2020年は消費者から報告された詐欺と、個人情報詐取に基づいたなりすまし(Identity theft)の件数が最多となった。詐欺は2010年の82万72件から218万4531件に増加、個人情報詐取に基づいたなりすましも同様に25万1074件から138万7615件に増加した。
訳注:Identity theft 他人になりすまして給付金等を申請したりクレジットカードを作って買い物をするなどの詐欺
2020年の消費者レポートのうち、46%が詐欺、個人情報詐取に基づいたなりすましが29%、そのほかの違法行為が25%だった。様々な形式の個人情報詐取に基づいたなりすましに関する報告が最も多く、次に多かったのが振り込め詐欺(Imposter scam)、3番目はオンラインショッピングだった。
訳注:Imposter scam 信頼できる人物(銀行員や自治体の職員など)になりすまして被害者に送金させる詐欺
約220万件の詐欺に関する報告のうち34%にあたる約80万件で金銭が詐取されたことが示唆され、被害額は33億ドルにのぼっている。2019年と比較して15億ドル近く増えている。全ての詐欺の被害額中央値は311ドルだった。約4万件で1万ドル以上の被害が出ている。
詐欺師はどのようにして多額の金を盗むのか? 詐欺に関する報告のうち17%で、詐欺に使われた支払い方法が詳述されている。クレジットカード払いが最も多く、次いでデビットカード、それから決済アプリや決済サービスだ。ただし、被害額が一番大きいのは銀行振り込みで3億1400万ドル、次いで電信送金で3億1100万ドルとなっている。クレジットカードの被害額は3番目で1億4900万ドルだった。
約220万件の詐欺に関する報告のうち57%に連絡方法が記載されていた。電話が詐欺手口の端緒になっていたのは31%で、ショートメッセージが27%、Eメールが15%と続いている。被害額は、電話が4億3600万ドル、ウェブサイトやアプリが3億1600万ドルだった。
被害者の年齢別にみてみると、若い世代の方が年配の世代よりも金銭被害の報告が多かった。詐欺で金銭を失った20~29歳は44%を占める一方で、70~79歳は20%だった。そのうえ、80歳以上が占める割合は18%しかなかった。興味深いことに、70歳以上では被害額の中央値が他のどの世代よりも高かった。平均被害額は、70~79歳で635ドル、80代以上で1300ドルだった一方で、20~29歳で324ドルだった。
一人あたりの詐欺件数が最も多かった州は、ネバダ州、デラウェア州、フロリダ州、メリーランド州、ジョージア州だった。カリフォルニア州は31万8698件で全米最多だったが、人口が多いため一人あたりでは20番目だった。ノースダコタ州では3504件と全米で最も少なく一人あたりでは49番目で、サウスダコタ州をわずかに上回った。カリフォルニア州における詐欺被害額は4億ドルを超え、全米で最も多かった。詐欺被害額の中央値は407ドルだった。アラスカ州における被害額は600万ドルに満たないが、被害額の中央値は最も大きい500ドルだった。
個人情報詐取に基づいたなりすましは、カンザス州、ロードアイランド州、イリノイ州、ネバダ州、ワシントン州の順で多かった。カンザス州では10万人あたり1483件だった。最も少なかったのはサウスダコタ州で10万人あたり72件だった。
どの州でも、個人情報詐取に基づいたなりすましの報告が最も多かった。
個人情報詐取に基づいたなりすましは、いくつかのカテゴリに分類できる。
クレジットカード詐欺は2016年から一貫して最も多かったが、2020年は政府文書・給付金詐欺が上回った。申請及び受領に至った政府給付金のカテゴリにおいて、個人情報詐取に基づいたなりすましは2019年に比べて2920%も増加した。この形式の詐欺は、政府の援助が続く限り突出し続けるだろう。
被害は30~49歳で最も多く、雇用・税関連の詐欺や政府文書・給付金詐欺が上位を占めている。
新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした影響は、Consumer Sentinel Network 2020 Data Bookにはっきりと表れている。不正検査士なら知っていることだが、詐欺師は危機や不確実性に乗じる。Consumer Sentinel Network 2020 Data Bookは、コロナ関連詐欺が著しく増加していることを証明し、不正対策の専門家に対して個人情報詐取に基づいたなりすましと給付金詐欺が最も一般的であり続けることを示している。
FTCは、こうした傾向をさらに深堀りするためにダッシュボードを公表している。One illuminating dashboard は、COVIDやstimulus(訳注:景気刺激策の「刺激」にあたる単語)、N95などの単語を含む消費者レポートを調査している。新型コロナウイルスのパンデミックによりアメリカでロックダウンが始まった2020年3月初めに詐欺が急激に増加し始めたことがわかる。
他のダッシュボードでは、振り込め詐欺、消費者への補償、軍の支部間における不正などのデータを公表している。不正対策の専門家にとって、FTCのダッシュボードとConsumer Sentinel Network 2020 Data Bookの組み合わせは2020年以降の調査において極めて有用であることが証明されるだろう。
英文タイトル :An Overview of the Federal Trade Commission’s 2020 Consumer Reports
英文記事リンク:https://www.acfeinsights.com/acfe-insights/overview-federal-trade-commission-2020-consumer-reports
原文掲載日:2021年4月12日
翻訳:ACFE JAPAN事務局
※わかりやすさを優先させるため、意訳を行っています。ACFE JAPAN (一般社団法人 日本公認不正検査士協会) 公式の邦訳とは異なる表現を使用している場合があります。