執筆者:Debanjan Chatterjee
イギリスの金融当局は、コロナ禍で苦しむ人々の支援策を発表した。住宅ローンなどの支払いの最大3カ月の先延ばしや、手数料なしでの定期預金の解約、キャッシング手数料の払い戻しも請求できる。また、キャッシング限度額の一時的な引き上げも検討されている。銀行は、コロナ禍でダメージを受けているビジネスに対する更なる支援を検討している。
このような政策は、顧客が現金を手にしやすくなり、コロナでもたらされた財政難を和らげる作用がある。
銀行の最終的な目標は、それぞれの顧客の状況を理解し彼らの財政状況をなんとかするための手段を提案することだ。しかし、銀行はどのようにしてコロナ禍で損失を被っている顧客を見分ければよいのだろうか?
詐欺師はこの危機を利用し、人々が最も弱っている時を狙って詐欺を行っている。世界的な緊急事態は、情報窃盗犯罪を促進する恐れもある。本稿で取り上げる不正リスクマネジメントは、詐欺師が悪意を持ってこの状況を利用することを阻止するのに役立つだろう。
詐欺師は、新型コロナウイルスへの警告を装ってマルウエアに感染させたり、他の不正を行う方法を既に探し当てている。WHOは、WHOの関係者をかたってフィッシングメールを送る詐欺が横行していると警告している。
ある調査により、2020年初め以降に登録された「corona」や「covid」といった単語を含む 4000以上ものコロナ関連ドメインの存在が明らかになった。同時期に登録されたドメインと比べて、悪意があるものが50%以上にのぼるとみられている。恐ろしいのは、悪意あるサイトの大半がフィッシング詐欺に使用される恐れがあることだ。
詐取された機密情報にもよるが、ソーシャルエンジニアリングへの集中攻撃は、Eコマースやオンライン支払いを狙った詐欺を増加させる恐れがある。近い将来、個人情報窃盗やアカウントの乗っ取りも増えるだろう。
データサイエンスは、デバイスの脆弱性やマルウエアの攻撃などの確認に活用できる。安全ではないデバイスにひもづけられたクレジットカードなどの金融商品は、高リスクとなるだろう。さらに、フィッシング詐欺に引っ掛かり易い顧客を分類できる。こうした情報は、リスクの高い人たちが銀行にまつわる何らかの行動をとる時に警戒するきっかけとなる。担当部署はデバイスと顧客の脆弱性の視点から、どの取引が詐欺でどの取引が本物か、情報に基づいて判断できる。
訳注
Friendly Fraud:Chargeback Fraudとも呼ばれ、消費者が自分のクレジットカードで商品を購入した後、商品を返品せずに返金手続きを取り、商品を詐取すること
顧客が詐欺行為を働くこともある。貸し付け方針の緩和につけこみ、実際には必要のない財政支援を申請しようとする恐れがある。この施策は、本当にお金に困っている人と犯罪行為とを区別することを難しくさせる。
ここでは、行動分析が犯罪行為を見つけ出すのに有効活用できる。どんな商品を購入したのか、顧客の支払い全てを分析することが、このような詐欺の発見に役立つだろう。例えば、顧客がローン支払いの猶予を求めたのにクレジットカードの支払いが高級ブランド品ばかりなら、レッドフラッグ(不正の兆候)となる。
詐欺師は通常、ブラックマーケット(闇市場)で売れるような再販価値の高い商品を買う。現在の世界的なコロナ危機によりオンラインのグレーマーケットの需要が高まっており、マスクなどの通常では違法ではないコロナ関連商品が、薬物などの違法な物品に代わって売られている。
ウェブスクレイピングのアルゴリズムは、グレーマーケットの成長を迎え撃つ形で利用できる。こうした技術は違法行為を行うウェブサイトの特定を体系的に行える。得られた情報は、マーケットを閉鎖させるため法執行機関に報告される。
上記で述べた医薬品小売業界に味方する傾向が不正に関するデータに影響し、不正が行われる加盟店業種コード(MCC)の構成が、劇的に変化する可能性に留意すべきだ。データ分布の急激な変化は、既存の不正対策モデルに影響を与える可能性があり、モデルの刷新が必要になる。
不正対策は、犯罪者がどのように新たな機会を利用して詐欺を行うかの詳細な研究によって支えられている。こうした研究は、顧客教育のプログラムにも活用でき、消費者が自身の資産を守る力になる。
昨今の厳しい状況では、金融機関は顧客に共感を示すことが極めて重要である。一方で詐欺師は、不正の機会を最大限に利用して最大の損害をもたらそうとする。そのため、この危機から抜け出すためには不正リスクマネジメントはますます重要になる。
英文タイトル :The Importance of Fraud Risk Management in Times of Coronavirus
英文記事リンク:https://acfeinsights.squarespace.com/acfe-insights/the-importance-of-fraud-risk-management-in-times-of-coronavirus
原文掲載日:2020年4月2日
Debanjan Chatterjeeは、グローバルバンクで不正分析の専門家で12年以上の不正対策ソリューション開発の実績があります。
翻訳:ACFE JAPAN事務局
※わかりやすさを優先させるため、意訳を行っています。ACFE JAPAN (一般社団法人 日本公認不正検査士協会) 公式の邦訳とは異なる表現を使用している場合があります。