執筆者:Hallie Ayres, Contributing Writer
原文掲載日:2020年11月13日
「Love Fraud」は全4回のドキュメンタリー番組で、ありふれた前提がある。結婚詐欺師がマッチングアプリでたくさんの女性と出会い、熱烈に求婚し、彼と結婚しようと心を決めた女性から金をだまし取り、姿を消す。だが、ディレクターのHeidi Ewing氏とRachel Grady氏は、作品にひねりを加えた。結婚詐欺師に焦点をあてるのではなく、被害に遭った女性たちが一致団結して報復しようとする様子を追ったのだ。
(訳注:「Love Fraud」は、アメリカのケーブルテレビ局SHOWTIMEで2020年8月から9月にかけて放送されたドキュメンタリー番組)
第1回は、ミズーリ州カンザスシティーに住むRichard Scott Smithという結婚詐欺師の男が行った詐欺行為を振り返る女性たちのシーンから始まる。女性たちは、Smithが自分を良く見せようして、さまざまな嘘をついていたと話す。あと少しで儲かる訴訟に勝つところだった、自分はパイロットだ、自分は起業して成功している――。それから、Smithがどうやって車や家を買うための金を自分からだまし取ったのか、彼女たちは詳しく説明した。彼女たちは自分たちの貯金を使い果たすところだった。このドキュメンタリーの特徴は、Smithの過去の経歴を調査した私立探偵のナレーションが入ることだ。Smithは、SSN(社会保障番号)を10個も持っていたほか、43の電話番号と58もの住所を持っていた。
女性たちは、被害者の1人がSmithの結婚詐欺被害を世間に広めるために始めたブログを介して知り合ったと説明する。現在も存在しているブログは、Smithに狙われた女性たちが彼の行動を追跡する情報交換のフォーラムへと発展し、最終的にSmithに法の裁きを受けさせることができた。
Smithを見つけだす手助けをしたいと考え、報酬なしで女性たちを支援した賞金稼ぎ(バウンティーハンター)の高齢女性Carlaの存在もあり、女性たちはSmithを牢屋に入れるために動き出した。被害女性の1人でSmithに10万ドル近くだまし取られたSabrinaは、「卑劣な男の記憶を乗り越える一番良い方法は、仕返しすることよ」と語る。
(訳注:バウンティーハンター アメリカにおいて、保釈保証金を踏み倒して逃亡している者を捕まえる、州から認可を受けている民間業者)
ドキュメンタリーの中盤でディレクターのEwing氏とGrady氏は、最近の結婚詐欺のかたちに焦点をあてる。分かりやすいのは、CarlaがSmithの手口を説明するシーンだ。「あいつは何百万ドルも抱えて逃げ出すわけじゃない。新車やハーレーダビッドソンを買える程度の金が欲しいだけなの。熟練した詐欺師だけど、大金を動かす詐欺師ではないわ。小金稼ぎの詐欺師ね。そして、自分の見栄えを良くできる程度の中流層の女性を狙っている。つまり、彼女たちが一生懸命働いて貯めた、なけなしのお金を残らず吸い取るの」。
Carlaは、Smithは一度の高額の詐欺で金持ちになろうとはしていなかったと言及している。そのうえ、彼の行動からは、詐欺をさらに巧妙にしようと腐心していた様子と、法的手段、すなわち結婚によって目標を達成したいという願望がみてとれる。結婚しようとSmithにまるめこまれてしまった女性は、家計を一緒にして、彼は高額の買い物をし、女性には合法な共有名義の口座やローンが残される。Grady氏は、「Smithは天才ではなかったが、苦しい状況にある人の弱みに付け込むのがうまかった。そのため、多くの人をだましながら逃げ続けられたのだろう」とVoxのインタビューの中で述べている。
あるシーンでは、Smithの元妻たちが、地元の保安官とのやり取りについて証言している。保安官は、Smithが逃亡して自分の管轄外の地域にいることから、彼女たちの申し立てに時間を割くつもりはないと言ったという。これに対してCarlaは被害女性たちに、「私たち以外に、積極的にあいつを見つけようと思っている人はいないのよ」と言い放つ。全編を通して、ディレクターは私立探偵を雇い、法執行機関が全く関心を持たなかったSmithを追い続けた。
Vanity Fairのインタビューの中で、Ewing氏は、Smithを探し出すうえでのCarlaの貢献について強調している。「彼女は法律をよく理解していて、Smithを追いかけるのを助けてくれ、どうしたら彼に法の裁きを受けさせられるか分かっていた」。Ewing氏は、Carlaの専門知識だけではなく、Carlaが詐欺に係る法律を熟知している人物と共に行動することの重要性に何度も言及していたと強調する。被害女性たちが法執行機関に助けを求めてもこうした人物を見つけられず、代わりにバウンティーハンターと私立探偵を頼ったことは、詐欺と闘うにあたってある意味で先見の明があり、世間から広く共感を得た。
「Love Fraud」のディレクター陣は、詐欺との闘いは極めて重要なことだと考えている。そして彼らは、結婚詐欺師に狙われた被害女性たちを勇気づけ、一歩前に進めるような番組になればと願っている。さらに彼女たちが経験を恥としないよう公平な扱いを受けることを望んでいる。Ewing氏は、このドキュメンタリーが特にオンラインでデートを重ねる女性にも注意喚起できたらいいと考えている。「Richard Scott Smithみたいな男は腐るほどいるんです。母親は娘に、『怪しいところがないか、注意しなさい。良すぎる条件の男は、多分詐欺師よ』と伝えられるでしょう」。
英文タイトル :Showtime's "Love Fraud" Explores the Dark Pull of Romance Scams
英文記事リンク:https://acfeinsights.squarespace.com/acfe-insights/showtime-love-fraud-explores-the-dark-pull-of-romance-scams
翻訳:ACFE JAPAN事務局
※わかりやすさを優先させるため、意訳を行っています。ACFE JAPAN (一般社団法人 日本公認不正検査士協会) 公式の邦訳とは異なる表現を使用している場合があります。