日時:2021年6月21日(月)~23日(水)
場所:オンライン開催
Opening General Session 登壇者
新型コロナウイルスが世界で猛威を振るう中、昨年に引き続き今年もオンライン開催となった第32回ACFE年次総会は、冒頭で理事長に就任したKenneth R. Dieffenbach氏が挨拶した。
Dieffenbach氏は、「公務員への贈収賄、学校経営者と納入業者の契約に関する入札不正、基準値を満たしていない航空機の納入、NPO団体の帳簿担当者による募金の着服など、汚職や詐欺は全ての人を傷つけます。企業や政府が毎年数兆ドルものコストを不正対策に充てているのに、これらの機関は信頼を失い、非効率性や不平等、不正が拡大しています。不正は企業の倒産や社会環境、ヘルスケア関連の発展を妨げるおそれがあります。不正は社会に損害を与えたり、国家を不安定にさせる恐れもあるのです」と不正や詐欺が我々の暮らしに与える影響について言及した。その上で、「世界が必要としているのは、皆さんのように客観的かつ正確に証拠を集めて分析し、事実を伝えられる人間です」と呼び掛け、活動範囲が地方に限られていても国境を越えて活躍していても、不正や詐欺に使われるITのトレンドを追いかけて、世界をより良い場所にするために不正を防ぎ、発見し、罰していこうと訴えた。
また、Dieffenbach氏は、2020~2021年で理事を務めるメンバーを紹介した。今期は、5人の理事のうち3人が女性となり、黒人であるHannibal Ware氏も選出された。また、Dorris会長を含め3人がアドバイザリーメンバーとなっている。
2020-2021 ACFE Board of Regents はこちら
Dorris会長は冒頭、昨年来調査がオンラインに限定されたり不正対策予算が削減されたなかでも活動を続け、コロナ禍の新たな不正や詐欺を見つけ評価するソリューションを開発するなど活動を続けているACFE会員をねぎらった。
また、「昨年の年次総会の段階では、皆この先どうなるかわかっていませんでした。我々は、新型コロナウイルスの大流行がCFEの専門家としての責任や、人々の生命、企業や不正対策プログラムにどのように影響するのかという問題に直面しました」と振り返った。
Dorris会長は、今年実施したアンケート調査をまとめた報告書「Covid-19-Preparing-for-a-Post-Pandemic-Fraud-Landscap」を紹介した。この調査はACFEとグラントソントンが共同で実施し、2021年3月下旬から4月上旬にかけて、83677人のACFE会員に15の質問を送り匿名での回答を求めたところ、1539件の有効回答を得たものだ。本報告書の主な調査結果は、ACFEのサイト で紹介されている。
Dorris会長は演説の中で調査結果に言及し、「回答者の71%が今後不正が増えると予想している」と警鐘を鳴らし、特にリスクが高い手口としてサイバー犯罪やソーシャルエンジニアリングをあげた。また、53%が不正対策の拡充が必要と回答したほか、63%がすでに不正対策のレベルを引き上げていることも紹介された。
Dorris会長は、「この年次総会を他の会員と知り合う機会として活用して他の会員が得た学びを知り、自身の活動を成功に導いてほしい」としたうえで、「たった一人で不正と闘うことができる人はいません。一人ではできないし、一人で行うことでもありません。我々のつながりは強固なものです」と結んだ。
今年、ACFEのクレッシー賞を授与された南アフリカのThuli Madonsela氏は、2009年から2016年にかけて護民官(Public Protector: 民主主義を守るために南アフリカ憲法で規定されている独立機関。他国ではオンブズマンにあたる)を務め、南アフリカの腐敗撲滅に尽力してきた。ズマ元大統領の様々な汚職を告発するなどして「南アフリカの腐敗と闘う十字軍」と英BBCで紹介されたほか、2014年にはTIME誌の「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれるなど彼女の発言力は大きい。現在は、南アフリカのStellenbosch University法学部で教鞭をとっているほか、民主主義を実現するため倫理的なリーダーシップ教育に焦点をあてた財団Thuma Foundationを設立して精力的に活動している。
Madonsela氏は、「不正や汚職、公務のガバナンスにおけるあらゆる不正を撲滅するためには、あらゆる人々の協力が必要でした」と振り返り、「南アフリカの護民官を支える部署や報道機関、内部告発者らを代表してこの賞を受け取りたいと思います」と受賞の所感を述べた。
護民官としての任務や退官後の活動を通じて、Madonsela氏は「不正について調べる前に、文化をリセットしなければならないという結論を得ました」としたうえで、「人々に良い行いをさせる文化、過ちを受け入れ社会復帰の機会を与えられる文化の醸成が必要です」と訴えた。また、透明性が高くオープンな組織づくりのため不正検査士の業務に人々が組織を 改革できるような支援をすることも含める必要性に言及した。