日時:2020年6月22日(月)~24日(水)
場所:オンライン開催
Your Responsibility to Uphold a High-Trust Society
第 31 回 ACFE Global Fraud Conference 2 日目の基調講演で、スクリーンに登場した WIRED Magazine 編集長 ニコラス・トンプソン (Nicholas Thompson) 氏は、微笑みながら、ACFE 会長 ブルース・ドリス (Bruce Dorris) による (冒頭の) 紹介に、温かい感謝の言葉を述べました。(スクリーン向こうの) トンプソン氏の後ろには、アコースティック ギターのネックや、草木の芽吹いている様子が窺え、本棚にはたくさんの本が収められています。本に囲まれていると、とても落ち着いた気持ちになれますよね。
そんな居心地のよさそうな部屋とは打って変わり、トンプソン氏は、日常でのテクノロジーとの向き合い方や活用方法について、今こそ考えなくてはならない、決して心地はよくない、一連の質問を用意していました。トンプソン氏は、信頼性の高い社会を維持するために不正対策の実務者たち (fraud examiners; 不正検査担当者) が担う役割を真剣に考えるように、参加者に促しました。
「これは、私の基本的な信念であり、また、WIRED (Magazine) の編集者であり続ける理由でもありますが、より多くの会話を交わして、より深いレベルで議論をすることが、よりよい選択肢をもたらします」
本質的に、不正対策の実務者には、何が真実であり、何が真実ではないかを決定する責任があります。それは単純に聞こえても、単純とは程遠いことは、皆さんご存知でしょう。トンプソン氏の講演が始まるわずか数分前まで、カンファレンスの参加者は、真実を追求し続けたために殺害されたジャーナリスト、ダフネ・カルアナ・ガリツィア (Daphne Caruana Galizia) 氏の話を聞いていました。ダフネ氏の悲痛な物語が示すように、真実の追求には、しばしば耐え難い重責が伴います。
トンプソン氏は講演を通じて、この真実に関する質問を何度も取り上げながら、日常生活でインターネットとの関わりが深まるにつれて、この問題は日に日に顕著になっている、と指摘しました。
不正とテクノロジーについて、トンプソン氏が考え (そして、皆さんにも考えるように促し) た、11 の重大事項を取り上げます。
姿を隠す (行方をくらます) ことがいかに難しいか?
How hard is it to disappear?
2009年に、WIRED はインターネットで実験を行いました。行方不明者 (失踪者) の傾向 (訳補:行方不明者が急激に減少し続けていること[※1]]) に気付いた私たちは、デジタルの時代に姿を隠す (行方をくらます) ことがどれほど難しいかを調べようとしました。11 年も前の実験ですが、当時でさえ姿を隠すのは困難でした。WIRED が、記者のひとり (Evan Ratliff 氏) に懸賞金を掛け、1 か月以内に彼を見付けることができたら 5,000 ドル出すと読者に呼び掛けたところ、ある読者が彼を見つけてしまいました。今日では、姿を隠すことはさらに難しくなっています。
「インターネットや IT 機器に触れる方法が増えるにつれて、私たちに対する不正やハッキングの方法も増え、また、私たちを発見する方法も増えました」
不正実行者たちにとって、みなさんの情報は、あたかも新しいツールを手に入れるように、簡単に手に入れられます。たとえば、インターネットに接続している機器 (IoT) とアクセス ポイントの信号の強さだけで、「誰かさん」の所在を追えます。お掃除ロボットと (お掃除ロボットの) ベースの間を通ると、お掃除ロボットはあなたがその部屋にいたことを記録し、その部屋を歩いた頻度を記録していきます。これは、調査においてとても役立つ情報のひとつとなります。あなたを追跡しようする人や会社にとって有用なのです。
テクノロジー (そのもの) には、明確な良し悪しはありません。私たちが、それをどのように利用して、(そのために) 何を犠牲にしてもよいと考えるかにかかっています。
そう投げ掛けて、トンプソン氏は次の質問に続けます
セキュリティーとプライバシーについてどう考えるか?
How will we think about security and privacy?
「面白いのは、この質問に関する私たちの考え方の変化です」
トンプソン氏は、苦笑いしながら述べました。
「おそらく、インターネットができてから 2018 年ごろまで、私たちはまったく気にしていなかったと思います」
トンプソン氏は、企業がいかにして私たちの情報を集め、私たちがいかにして自ら進んで情報を差し出していたかを説明しました。企業は、消費者からの抵抗をほとんど受けることなく、収集する情報の領域を広げていきました。2018 年には、トンプソン氏が “tech backlash” (邦訳例:情報産業への反発) と呼ぶ、プライバシーへの懸念に対する劇的な変化が見られ始めます。それは、(当時存在していたデータ活用を中心とした選挙コンサルティング企業) ケンブリッジ・アナリティカ (Cambridge Analytica) の記事が公表され、自分たちの情報が自分たちの理解も把握もしていない方法で収集されていて利用されていることに、人々が気付いたときでした。この反発には他の側面もありましたが、いずれにしても、(プライバシーについて) 人々が本当に気にするようになりました。しかしながら、(新型) コロナウイルスによって、人々の感情はさらに一転します。
トンプソン氏は、プライバシーと健康への懸念に関する人々の考え方を示す図を映しました。「ウイルスを追跡してその拡散を封じ込めるためなら、政府に健康や位置追跡に関する情報を通常時よりも多く提供しても構わない」という意見に対して、これに同意する回答者の割合を国ごとに集計したものです。
中国 | 91% |
インド | 78% |
サウジアラビア | 73% |
米国 | 50% |
全世界 | 61% |
「プライバシーと他の価値とのどちらかを選択させると、私たちは他の価値を選択しがち (プライバシーを犠牲にしがち) です」
とても興味深い相反関係です、と述べ、もしコロナウイルスの脅威がそれほどでもなかった場合にはどうなるか考えてみてください、とトンプソン氏は促しました。1 年後は? 2 年後は? プライバシーに対する考え方は、本当なら手放したくないもの (相手に渡したくない情報) さえ手放さなくてはならなくなるようになるのでしょうか。この問題には正解も間違いもありませんが、あなたの勤務先やコミュニティーでも話し合った方がよい問題ではないでしょうか。
では、これからはどこを監視すべきか?
So, where else will we surveil in the future?
WIRED では、オハイオ州のある学校が、生徒全員に Bluetooth のトラッカー (位置情報収集機器) を着け、生徒がお互いに 6 フィート (≒ 1.8m) 離れているかを確認できるようにする計画について取り上げました。これについて、トンプソン氏は警告します。それは本当に必要でしょうか?
一部の国ではコロナウイルスの管理がうまくいっていますが、それらの国では広く監視体制が受け入れられています、とトンプソン氏は指摘します。中国や韓国のような国では、(コロナウイルスの) 拡散を防ぐために、極端な技術による監視を展開しています。韓国に入国すると、追跡用のシステムをインストールさせられ、あらゆる行動が監視・分析されます。繰り返しになりますが、そのための犠牲という問題に戻ります。公衆衛生のためならプライバシーを犠牲にしてもよいと考えますか? 数年が過ぎて、世界的なパンデミック (大流行) が終息を迎えていたとしたらどうでしょうか? 私たちは、何に懸念を抱いて、何を受け入れるようになるのでしょうか?
トンプソン氏は、信頼性の高い社会を維持するために不正対策の実務者が担う役割と責任へと結び付く、8 つの示唆に富む質問を投げ掛けました。
これから先のみなさんの業務と責任
Your work and your responsibility going forward
不正対策の専門家の業務は、テクノロジーと密接に結び付いています。犯罪者たちは、テクノロジーを最大限に利用します。ならば、(不正対策の専門家である) みなさんも、テクノロジーを最大限に利用しないといけません。テクノロジーの将来の方向性について、みなさんとは相互に作用し合い影響を与えています。ここで取り上げた質問のいずれかに関わるような何かに遭遇した場合は、ぜひ連絡してください、とトンプソン氏は述べました。
「この講演をご覧になっているみなさん、この講演をお聞きのみなさん、もし何か話題がありましたら、スライドに書いた連絡先にご連絡ください」
トンプソン氏のメール アドレスは非公開にしましたが、トンプソン氏には Twitter の @nxthompson で連絡を取れます。