日時:2020年6月22日(月)~24日(水)
場所:オンライン開催
‘Accidental Whistleblower' Decries Corporate Irresponsibility
2020 年の ACFE Cliff Robertson Sentinel Award (1970 年代の後半にハリウッドで行われていた不正を告発した俳優クリフ・ロバートソンの名を冠した、ACFE が不正と闘った告発者に贈る賞; クリフ・ロバートソン・センティネル賞) の受賞者であるハワード・ウィルキンソン (Howard Wilkinson) 氏は、どちらかと言うと自分は、たまたまそうなった内部告発者である、と考えています。もしウィルキンソン氏の雇用主がもっと責任を果たしていたなら、彼が内部告発者になる (内部告発者として取り上げられる) ことはなかったでしょう。
「2012 年の夏のことです。ダンスケ銀行 (Danske Bank) エストニア支店で (トレーダーとして) 働いていた私は、いくつかのクライアントの財務情報の入手を手伝うことになりました」
ランチ セッションに登壇したウィルキンソン氏は述べました。
「そのクライアントは、イギリスの有限責任事業組合 (LLP) でした。私は、イギリスの企業の情報や財務諸表を管理している行政機関である企業登記局 (Companies House) のサイトを開き、1 ポンド支払って、この会社の財務諸表をダウンロードしました」
ウェブサイトによると、その会社は休眠状態で、取引も資産もありませんでした。しかし、ダンスケ銀行の記録では、まだ (有効な) 顧客であると示されていました。「何かがおかしいと感じて、私は支店に報告しました」 「その会社の情報は間違いみたいだ、と言われました。支店では正しい財務諸表を記録するだけでした。そのことについて何の懸念もありませんでした」
1 年後の 2013 年 9 月に話を進めます。
「そのイギリスの会社は、数多くの関連会社と数人の個人を含めて、アンチ マネー ローンダリング (資金洗浄防止) を理由に、その支店にあるすべての口座が閉鎖されました」
ウィルキンソン氏は、数か月待ち、企業登記局のサイトを確認して、そのイギリスの会社が (銀行の記録上は) 依然として間違いのままであることに気付きました。ウィルキンソン氏は、現地の支店で何らかの共謀が行われているのではないかと考えました。「私は、コペンハーゲンにある本店の最高幹部宛に内部告発の報告書を作成しました。宛先には、取締役会のメンバーもひとり含めました」
それからウィルキンソン氏は、その支店にある LLP として設立された大口顧客 15 社の財務諸表について丹念に調べました。
「すべての会社が、すべて同じ住所で登記されていて、口座 (開設依頼書など) の署名も同じでした。つまり、それらは (すべて) 同一であるように思えます。そして、それらの口座は、ひとつとして銀行が把握している水準に見合う事業活動の実態がありませんでした。(訳補:銀行が記録している入出金に見合う事業活動が行われているようには見えませんでした。つまり、お金が動いているだけであり、何らかの不適切な行為が行われている可能性があるように見えました。)」
ウィルキンソン氏は、これらの会社に関する内部告発の報告書をさらに 2 通作成し、それから、4 通目であり最後となる、エストニア支店の顧客であり同様の問題を抱えた有限責任会社に関する報告書も作成しました。
そうこうしているうちに、本店はこの件について、内部監査人を配置しました。
「内部監査人たちは、調査を進めていて、本当に順調に進捗しているように見えました。そして、本来であれば、この話はここで終わるはずでした」
「(すべてが正しく行われていたなら) 皆さんは、私のことなど知ることもなかったでしょう。支店で何か悪いことが行われて、私たちは皆、悪いことは起きるものだということを知っています。内部告発者が報告して、内部監査人が調査して、経営幹部に報告されます。経営幹部は必要な措置を行い、必要な報告書を作成して、必要なことをすべて実行します」
しかし、そのようにはなりませんでした。
「経営幹部は、2 人の取締役会メンバーが含まれていたにもかかわらず、現時点まで、その次の段階に進むことができませんでした」
「2014 年 4 月に、私はもう十分だと辞職し、最初の内部告発の報告書を受け取った 4 人に、対応が不十分であると手紙を書きました。私は彼らに、当局に告発することもできる、と警告しました。私が思うに、彼らはハッタリだと考えたのでしょう」
2017 年 9 月に、新聞で様々な資金洗浄の手口に関する報道が始まりました。そこには、ダンスケ銀行エストニア支店の 4 つの顧客が中心となったものも含まれていました。デンマークの報道機関からの圧力を受けて、ダンスケ銀行はデンマークの法律事務所に調査を依頼しました。
「2017 年 11 月、銀行は内部告発者からの警告があったと口を滑らせ、本当の意味で事態が動き始めました」
2018 年の初頭には、ジャーナリストたちは (その内部告発者である) ウィルキンソン氏を探し出し、質問を始めます。ジャーナリストたちは (情報源である) ウィルキンソン氏の秘匿を尊重しました。
2018 年 9 月、デンマークの弁護士たちは、2,230 億ドルがダンスケ銀行エストニア支店を経由して動かされ、彼らが言うには、その大部分が疑わしい、と報告しました。
「その報告書には、私が 2014 年に行った警告と、それがずっと無視され続けていたことが、事細かに書かれていました。その月の下旬、私の知らないところで、エストニアの雑誌が私の名前を公表し、そして、私について書き始めました。彼らは 4 人の匿名の銀行関係者の言葉を引用して、それからまさに大騒動が始まりました」
2018 年 11 月、ウィルキンソン氏は、デンマーク議会と欧州議会の委員会で証言しました。そのころには、米国の司法省や証券取引委員会、デンマークとフランスの検察官たちも捜査を始めていました。
「当局は、エストニア支店に勤めていたマネージャーと従業員、合わせて 12 人を逮捕し、デンマークの検察官は、銀行、元 CEO、元 CFO、元 CRO (リスク管理責任者)、法人向け金融部門の責任者、法務責任者、その他多くの経営幹部に対して予備的な訴追手続きを開始しました」
欧米の捜査は続けられています。
「ブリュッセルでの私の証言を受けて、欧州連合では (EU) 公益通報者保護指令が発効しました。これにより、EU では初めて、通報者に最低限の保護が一様に与えられるようになります」
ウィルキンソン氏が上げた 2013 年の内部告発に対して、ダンスケ銀行の経営幹部は、迅速な対応ができませんでした。
「(ダンスケ銀行の経営幹部たちが自分の内部告発を) カーペットの下に隠してしまおうとするなんて思いもよりませんでした」
「組織が何もしようとしないのなら、内部告発する意味がありません。社会は、組織内の悪事に関する報告を無視する経営層の問題に取り組む必要があります」
米国には、(証券取引委員会の公益通報窓口への) 公益通報者に対する独自の表彰制度 (訳補:通報により企業に課せられた制裁金の一部が通報者に支払われる制度) があり、経営者は悪事を隠蔽いんぺいすると経営上のリスクが高まります。
「しかしながら、この制度は、あらゆる公益通報に適用されるわけでありませんし、米国以外にはまったく存在しません。経営幹部たちが犯罪者に成り下がる様を見なくても (訳補:有罪判決を受けるまでには至らなくても)、隠蔽した悪事に対する (制裁金の) 支払いのために自分たちの住まいを売却しなくてはならない様を見たなら、気に掛けずにはいられなくなるのではないでしょうか。そのためにも、アメリカだけでなく、全世界で取り組む必要があります」
「ACFE のクリフ・ロバートソン・センティネル賞を受賞したことを大変光栄に思います。そんな著名な受賞者たちの仲間入りをさせていただいてもいいのだろうか、とさえ感じています」
ウィルキンソン (Howard Wilkinson) 氏については、“Fraud Magazine” March/April 2020 号の “The smoke detector - An interview with Danske Bank whistleblower Howard Wilkinson” [英語] でも取り上げています。
ACFE JAPAN 会報誌「FRAUD マガジン」では、VOL.74 (MAY/JUNE 2020) 号に邦訳記事「煙探知機 - 2020年 公認不正検査士協会 (ACFE) センティネル賞受賞者」を掲載しています。