日時:2020年6月22日(月)~24日(水)
場所:オンライン開催
Jules Kroll Stresses That Practitioners Can't Grow Without Innovating
第 31 回の ACFE Annual Global Fraud Conference (ACFE 年次総会) 初日の開会基調講演で、ジュールス・クロール (Jules Kroll) 氏は、欧州の大手銀行のコンプライアンス責任者たちとの会話で衝撃を受けた、と述べました。
「私が『今年の第1四半期は、不正や詐欺にどんな傾向が見られましたか?』と尋ねたところ、彼らは『不正や詐欺が 600% を超えて増加しています。私たちは切り詰めながら仕事をしています。この状態がすぐに健全に戻るとは思えません』」
2020 年のクレッシー賞 (Cressey Award; 不正に対して素晴らしい成果を上げた人に ACFE が与える賞) を受賞したクロール氏は、自らが現代の調査機関やセキュリティー業界の先駆者であったころに行っていたように、専門家は不正と闘う新たな方法を探し出すためにも常に革新し続けなくてはならない、と語りました。
バーチャル (オンライン) で行われた基調講演で、クロール氏は、自らの 50 年にわたる調査経験を振り返るとともに、参加者には革新的な戦術 (イノベーション戦術) に関するいくつかの助言を行いました。
「最初に、ACFE からこのような生涯功労賞をいただいたことに感謝いたします。この賞は、私にとって大きな意味があります。私は、かねてから、ACFE と (ACFE の創設者である) Joseph T. Wells 博士が掲げる使命を崇拝していました」
クイーンズにある病弱な父親が所有する印刷会社を管理することになったクロール氏は、そこで業界の制度的な購買における腐敗を目にし、1972 年に J. Kroll Associates (後の Kroll Inc.) を設立します。
「私は、この腐敗をどうにかしようと誓いました。そして、調達の領域における腐敗、不正、浪費を調査する事業を始めました。従業員はひとり、私だけでした」
1 年後に、アシスタントをひとり採用しました。
「私たちは、ニクソン大統領の弾劾や、国を越えて行われている汚職に関する数々の物語、そして、公職選挙における不祥事などの状況の中で、この事業を発展させてきました。当時、腐敗と不正に関する問題は、階級や人種の差別を取り巻き、とてもありふれていました」
金融機関からクロール氏の会社に、当時としては比較的新しい概念である「デュー ディリジェンス (due diligence)」と呼ばれる仕事の依頼が来るようになりました。クロール氏の会社は、敵対的買収に関与した企業の企業価値水増し疑惑の調査を始めます。表には出ていないであろう事象 (訳注:架空・虚偽・隠蔽など) を発見するために、またしても革新的な取り組みを行わなくてはならなくなりました。
たとえば、ドローンの時代になる前には、悪名高いビクター・ポズナー (Victor Posner) が敵対的買収で手に入れたシャロン・スチール(Sharon Steel)社が所有している鋼板 (が実在すること) を確認するために、パイロットを雇って資材保管場所の航空写真を撮りました。クロール氏は、ポズナーがシャロンの価値を (実際には存在していない鋼板で) 水増ししていたことを暴きました。
クロール氏は、FBI と協力して、米国内の組織犯罪の調査を行いました。それから、米国からの援助金の横領疑惑があるフィリピンのフェルディナンド・マルコス一族 (Ferdinand Marcos family) や、ケニアの (元大統領) ダニエル・アラップ・モイ (Daniel arap Moi)、ブラジルの (元大統領) フェルナンド・コロール (・デ・メロ)(Fernando Collor)、ペルーの (元大統領) アルベルト・フジモリ (Alberto Fujimori)、その他大勢を調査しました。
「前の会社である Kroll と新しく設立した K2 Intelligence は、60 人を超える元国家元首や元汚職官僚の調査を行いました」
1990 年 8 月 1 日のサダム・フセインによるクゥエート侵攻の後、クゥエート政府は、フセインの悪しき収入源の調査と、調達における汚職の仕組みの解明のために、クロール氏の会社に依頼します。サダムに対する調査は、世界各国の政府で行われる同様の業務の先駆けとなり、「一部の国では、今日でも同様のことが行われています」とクロール氏は述べました。
それからクロール氏の会社は、2002 年のエンロン社が最も知られていますが、ビジネス上の不正行為や不適切行為により破産した企業の再建を手掛けます。
「私たちは、グレート リセッション (Great Recession; いわゆる、2007 年から 2010 年ごろに発生した、世界金融危機からサブプライム住宅ローン危機を含む一連の恐慌) をもたらした債券格付機関が、国を本当にダメにすると感じていました」
そのため、格付け事業も始めます。
2019 年には、規制対応、コンプライアンス、リスク管理、資金洗浄対策 (AML) などのサービスを提供するため、K2 Intelligence は Financial Integrity Network を合併しました。クロール氏は引き続き K2 社の取締役会 会長を務め、彼の息子であるジェレミー (Jeremy) 氏が K2 社の代表取締役社長 兼 共同出資者を務めています。クロール氏は、クロール債券格付機関 (Kroll Bond Rating Agency) の会長、サイバー セキュリティ会社 Blue Voyant の取締役、John Jay College of Criminal Justice Foundation の会長も務めています。
クロール氏は、世界中にある自分の会社で働く数百人の従業員が CFE 資格を持っています、と述べました。
「不正に対処するための分析の大部分を提供してきたのは、CFE 資格を持つ個人やグループでした。多くの場合、ひとりの個人、それは会計士だったり、弁護士だったり、法執行機関経験者だったりしますが、公共部門や民間部門にいる我々のような専門家が、何かが行われていのではないかと問題を見付け出すのです」
クロール氏は、父親の印刷会社を食い物にした腐敗との闘いを始めた 1972 年に自らがそうしたように、公共部門や民間部門で革新的な取り組みを行う、勇敢な不正対策の実践者たちを讃えました。
「この種の不正行為は、通常、主要な法令には載らず、通常、会計事務所が見付けることもありません。ACFE などから受ける訓練が非常に重要です」
クロール氏は、カンファレンスの参加者たちと直接顔を合わせることができなかったことを残念がっていました。
「もし (ACFE 創立者の) Wells 博士が次回も招待してくださるなら、コーヒーかビールを飲みながら、また別のお話をしてみたいです」
クロール (Jules Kroll) 氏については、“Fraud Magazine” January/February 2020 号の “Indefatigable investigator: Jules Kroll still revolutionizing corporate investigations” [英語] でも取り上げています。
ACFE JAPAN 会報誌「FRAUD マガジン」では、VOL.73 (MARCH/APRIL 2020) 号に邦訳記事「飽くなき調査員 ジュールス・クロールは今も企業調査業界において革命をもたらしている」を掲載しています。