日時:2016年6月13日(月)~15日(水)
場所:ネバダ州ラスベガス
2日目の朝の基調講演は、Body Language ExpertであるSteve Van Aperenです。彼は元警官で、FBI、ロサンゼルス警察、シークレットサービスの訓練を受け、面接における行動やボディランゲージを読み取り、嘘を見抜いたり、誘導催眠で行動を変えさせたりするエキスパートとして、著作を行い、コメンテーター、トレーナーなどとして活躍しています。68件の殺人事件と2件の連続殺人事件の調査に参加し、大企業、警察、規制機関などを顧客としています。CNN, Access Hollywood, The News Roomなどの番組に出演して「人間うそ発見器」として有名だそうです。ユーモアを交えながら喜び、不快、怒り、恐怖などの表情、自信、戸惑いなどのジェスチャー、会話の特徴などを解説してくれました。
2日目午前中の分科会はEY(アーンスト・アンド・ヤング)のFraud Investigation and Dispute Services(不正調査・係争サービス)のPartnerであるVincent Walden(ヴィンセント・ウォールデン)による"Aligning data analytics with COSO's 2016 Fraud Risk Guidance"に参加しました。2016年にCOSO(Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission, 米国トレッドウェイ委員会組織委員会)とACFE は、不正リスクを考慮するための"Fraud Risk Management Guide as a supplement to COSO's Internal Control Integrated Framework (2013 Framework)"を公表します。2013年に改定となったCOSOフレームワークにおける17原則の8番目で"The organization considers the potential for fraud in assessing risks to the achievement of objectives"[※1] と、有効な内部統制のための不正リスクへの対応が明記されたのに対応したものです。
このセッションは、これに対応して、フォレンジックデータ分析がどのように不正リスク分析、防止と発見、調査と是正に生かせるのかにフォーカスしたものです。Proactive Data Monitoring(積極的なデータ監視)をはじめとして、Predictive Modeling(予想モデル)やText Analytics(テキスト分析)やStatistical Techniques(統計技術)などの不正防止ツールを不正リスクの対応に使用する試みがなされていますが、これによって新しく起こりうる問題も生じること、例えば従業員のEメールのキーワード検索などが様々な問題も含んでいることに留意することが必要であると論じていました。
ACFEのProgram DirectorであるBruce Dorris(ブルース・ドリス) の開会宣言、Board of RegentsのChairであるTiffany Couch(ティファニー・クーチ)の挨拶、President & CEOであるJames Ratley(ジェームス・ラトリー)による不正と闘う会員の協力を訴えるスピーチに続き、最初のGeneral Session(全員が参加する基調講演)はU.S. District Judge, Southern District of New York(米ニューヨーク州南部地区連邦判事)であるJudge Jed S. Rakoff(ジェド・ラコフ連邦判事)です。今年のCressey Award(ACFE創立の父でもあるドナルド・クレッシー博士の名を取って創設されたクレッシー賞は、不正の防止と抑止に取り組んだ業績者を称えます)はラコフ判事に授与されました。
彼はワールドコム(WorldCom)に110億ドルの不正会計疑惑で、7億5千万ドルの罰金を課しました。2002年7月の同社のChapter11(日本の会社更生法に相当する連邦破産法第11条)の適用申請での負債総額410億ドル(約4兆7000億円)は2001年12月に破綻したエンロンを大きく超え、2008年に経営破綻したリーマン・ブラザーズに抜かれるまでアメリカ合衆国史上最大の経営破綻でした。ハーバード大学ロースクールで法学博士の学位を授与されているラコフ判事は、コロンビア大学のロースクールでホワイトカラー犯罪、科学と法律、集団訴訟、民事および刑事法の相互作用などのコースで教鞭もとっています。
ラコフ判事は世界金融危機後の巨大金融機関の経営者が個人的に訴追されず、責任を問われない事が刑事訴訟制度にとって大きな失敗であると主張しました。2009年のBank of Americaや2011年のCitigroupとのSEC(証券取引委員会)の罰金と和解を(甘いと)退けています。ラコフ判事は、企業を訴追して素早く検察側が勝つことを考えるのではなく、経営者個人に対する訴追を行うべきであるとの決意表明をしています。彼は、経営者であれば、遅かれ早かれ会社の不正行為の状況に気づくはずで、経営者があえてそれを無視し、それ以上は追及しないとすれば、"Reckless Disregard(重大な見落とし)"や"Willful Negligence(未必の故意)"の状態で不正行為を認識していたのと同様であるとも語っています。この厳しさは、米国と比べると経済犯罪に対して甘い日本からの参加者にとっては驚きです。我々は、来るべき司法取引を含めて、企業の経営者による経済犯罪の取り扱いを考える必要があると思います。
ランチョンセッションでは、Investigative JournalistとしてThe New York Times上海のDavid Barboza(デビッド・バルボザ)の登壇です。彼は2014年の香港でのACFE Asia-Pacific Conferenceで中国政府高官に近い人々の腐敗行為に関する基調講演[レポート] を行いました。2014年当時はまだかなり中国政府からの圧力が強い時期でしたから勇気のある行動であったと思います。
今回のカンファレンスで彼は、ACFEが不正と戦うジャーナリストに与えるGuardian Award(ガーディアン賞)を受賞しました。彼は2013年にWen Jiabao(温家宝)元首相の親族が所有する数十億ドルの隠し資産を含む中国での腐敗行為を暴いて国際報道のPulitzer Prize(ピューリッツアー賞)を受賞しました。彼は、首相の親族の名前が友人、職場の同僚やビジネスパートナーが関与するパートナーシップや投資ビークルの背後に隠れていたことを発見しました。中国の急成長する経済の中で、政府とビジネス界の癒着を詳細に調べ上げてきて発見できたと当時を語りました。
分科会の前半は、リスクコンサルタントFrank, Rimerman & Co. LLPのSenior Manager、Steve Morangによる"Volkswagen AG: What Were They Thinking?" に参加しました。フォルクスワーゲンAG、FIFA、LIBORのカルテルなどの例が、法規制が執行され、罰金が巨額になっているにもかかわらず、大規模な組織が倫理的に誤った選択を行ってしまうことがあることを示しています。心理学、社会学と人間と組織行動の組み合わせにより、組織に倫理的ジレンマがあるときのレッドフラッグ(危険信号)を識別し、組織の倫理的な温度を監視する方法を論じ、多国籍組織に倫理フレームワークを浸透させる実例を示しました。
ビデオでフォルクスワーゲンの排出ガスに関する試験の不正事件を振り返り、東芝や三菱自工の記者会見でのお詫びの仕方を見せたうえで、会社の事件後の対応の違いを見ていきました。官僚的なリーダーシップ、従業員に対する異常に強いプレッシャー、意思決定に透明性がない、「会社のため」という正当化、内部通報がしにくい組織であるというレッドフラッグを自社の組織に当てはめてみるべきであると説明しました。また、倫理とコンプライアンスが企業のビジネス戦略に中心的なコンポーネントであること、倫理とコンプライアンスのリスクが評価され管理されていること、経営者が倫理観を醸成していること、不正行為の報告を奨励していること、対処する手順を持っていること、という5つの要諦を強調しました。
セッションが終了すると13か所ある次の会場へ移動する会員で一杯になります。
分科会の後半は、BDO ConsultingのManaging Director - Global ForensicsであるGerry Zack(ゲリー・ザック)による"The Return of the Tone at the Top" に参加しました。東芝、フォルクスワーゲン、Hertz(ハーツ)の例のように、内部統制における統制環境が優れていると思われた会社の「経営者の意向、姿勢」がどう崩れてしまったのかを議論しました。彼はWorldCom(ワールドコム)のBernie Ebbers(バーニー・エバース)の例をあげたうえで、上司の「意思」に逆らえず、経営者がシステム的に加担する東芝の不正はWorldComと似ていると指摘しました。ACFEのカンファレンスで東芝がケースとして使われるのは少々不思議な気持ちになります。その後、Tesco(テスコ)、Hertz、Marvell Technology Groupなどのケースを学びながら"Tone at the Top(経営者の姿勢)"の重要性に関して議論しました。
午後の後半の分科会は、MGM Resorts International (以後 MGM RI) の内部監査担当重役であるRobert Rudloff(ロバート・ルドルフ)による"Internal Audit and Fraud Departments: Working Together"に参加しました。Senior Vice President(上級副社長)というOfficer(執行役・経営者)クラスによるセッションは珍しいので選択しました。30年以上にわたり遊興産業(カジノ)の世界で生きてきてドナルド・トランプ氏にも仕えたことがあるそうです。
5時からはNetwork Receptionです。多くの他国の会員と知り合える良い機会です。朝食から夕方まで一日中会議場の建物から一歩も出ていませんから、夕方の日の光がまだ眩しいです。6時半からはラスべガスらしく、チャリティ・ポーカートーナメントがあり、参加費でACFE Foundation Ritchie-Jennings Memorial Scholarship Program[※2] をサポートします。トーナメント成績上位5名には来年ナッシュビルで行われる第28回ACFE Global Fraud Conferenceの参加権が与えられます。
ACFE JAPAN 理事長 濱田眞樹人