日時:2015年6月15日(月)~17日(水)
場所:メリーランド州ボルティモア
今年の第26回ACFE カンファレンスは、アメリカで最も古い都市の一つであるメリーランド州のボルティモアで行われました。ボルティモアと聞いてもよくは知らない方が多いと思います。場所はアメリカの東海岸で首都ワシントンDCに近い港町、上原浩治投手がいたMLBオリオールズの本拠地です。
今年も3,000名のACFE会員が60か国以上から集まりました。米国の東海岸の荒天による移動のトラブルで濱田の現地到着が遅れたため、残念ながら今年は2日目からのレポートであることをお許しください。
今日の最初のGeneral Session(全員が参加する基調講演)は昨年の6月からオバマ政権におけるSocial Security Administration(社会保障局;SSA)のActing Commissioner(長官代理)であるCarolyn Colvin(キャロライン・コルビン)です。SSAはカンファレンスが開催されているメリーランド州に本部があります。老齢年金、障害年金や生活保護を取り扱うSSAでは、実に年間12万件という多数の不正受給の申し立てや通報と格闘しており、CFEを含むACFEによる訓練を受けた多くの局員が不正事件の調査、摘発に従事して不正の撲滅に努力しているそうです。米国は、現在は65歳以上の人口が10%ほどですが、2030年には20%に達するそうです。医療費の偽装、存在しない年金受給者の年金を詐取する、年金情報を盗む、医療関係者や弁護士による不正の幇助などが増えているそうです。不正実行者へ「我々は必ず摘発して、最大の罰を与え、アメリカ国民から奪ったお金を取り返します」という強いメッセージを発信し続けると強調していました。
基調講演の二人目の講演者はサイバー犯罪の分野で著名なジャーナリストであり、2015年のACFE Guardian Award(守護者賞)を受賞した Brian Krebs (ブライアン・クレブス)です。Guardian AwardはACFEによって毎年、不正と闘う人に与えられます。彼のサイバーセキュリティに関するホームページである"Krebs on Security"( http://krebsonsecurity.com/)は有名で、サイバー攻撃の標的となったHome Depot(ホームデポ)などの会社内のサイバーセキュリティに関する違反行為について深い分析をしています。
企業はサイバーセキュリティ―に実に多くのお金を費やしていますが、ほんの少数の社員のセキュリティ違反や緊急性の未認識により事故が起こるそうです。また、サイバー犯罪事件の調査結果の多くが対策に関するちょっとした企業の妥協が原因であることを示しているそうです。これは企業のトップの重要性の認識の欠如によるものだと指摘していました。また、事故が起きた企業からのどのような被害だったかについての情報公開も社会全体で攻撃者から身を守るために必要だと主張していました。
分科会は13のセッションが同時に進行し、参加者は事前に参加するものを申し込んでいきます。
人気のセッションはすぐに満員になってしまいます。濱田は、今年、サイバーセキュリティに関するセッションを中心に選択しました。午前中の分科会は、元FBIの特別調査官のGregory Coleman(グレゴリー・コールマン)による"Bitcoin:Fact. Fiction. Fraud"に参加しました。彼はニューヨークのFBIで市場操作やマネーロンダリングなどの財務犯罪の調査を25年以上担当してきており、マーティン・スコセッシ監督でレオナルド・ディカプリオ主演の"The Wolf of Wall Street"で描かれたFBI特別捜査官のモデルです。
今日の論題であるビットコイン(Bitcoin)については、その歴史や危険性について語りました。BitcoinがSatoshi Nakamoto(筆名:中本哲史)という日本人の論文からスタートしていることを初めて知りました。彼は、ユニバーサルカレンシーとして有名だが、実は多くの人がその実態を知らないBitcoinというものの価値について会場の参加者と議論を行いました。
ネットでは実際の金貨(コイン)をイメージさせ、「安全で使いやすい。現金と同じ様に機能する」とマーケティングしているが、実態は単なるコンピュータプログラムであり、需要と供給で値段の決まる金貨とは本質的に違う、誰もその価値を保証していない、兌換を止めた通貨と同じではないか、貨幣とは異なり流通量が把握できない、多くの優秀な人間や金持ちが支持しているから価値が生じる、MicrosoftやAmazonがBitcoinを使えるので正当だと誤認させている、などと議論百出でした。彼は、確実なのは、この利便性や匿名性を利用した金融犯罪が増えていることだと強調しました。
Mt.GOX(マウントゴックス: Magic the Gathering Online Exchangeが社名の意味だそうです)の数億円の紛失事件が金融機関で起こったら行政機関も同じ対応ではないのにと主張していました。
ワーキング・ランチ・セッション(昼食を取りながらの基調講演)は、CBSテレビのドキュメンタリーとニュースの長寿人気番組 "60 Minutes" の記者を1991年から務めるLesley Stahl(レスリー・ストール)です。
彼女の報道は沢山の賞を受賞していますが、駆け出しの頃初めてTVに出演したのはニュースショーのキャスターは男性が当たり前だった1970年代のAffirmative Action(差別改善措置)によるものであり、ウォーターゲート事件が最初の大仕事であったことを回顧していました。彼女の本日の論題は時代の移り変わりに関してのもので、ITを含む技術革新による創造的破壊について語りました。新しい産業は、従来の産業を破壊するが、特に雇用に関しては創造が少ないと述べ、また、自分の周りのモノが何から何までインターネットに接続されていけば犯罪者もそれを利用することを指摘しました。そして、彼女が生きている報道の世界にはネット情報以外にも残さなくてはいけないものがあること、まだ若い人たちがネットだけではなく印刷物を読み、公共の図書館に行っていることに注目しようと主張しました。
会場は3,000人が一堂に会することができる規模です。300卓以上のテーブルに各自のランチがサーブされるのを見ていると米国のコンベンションというサービス産業の底力を感じます。
午後の前半の分科会はIBM のWorldwide Counter Fraud Managementの David Dixson(デビット ディクソン)と Red Cell IntelligenceのJohn O'Neill(ジョン・オニール) による"Big Data and Small Budget:How to Fully Use Internal and External Data for Fraud Detection and Investigation"です。
彼らは、犯罪組織の協働が特に金融機関での不正リスクを高めていることを強調し、Big Dataを不正の防止や発見のために自動的に分類して分析するための様々な知見を披露してくれました。Online Data, Transaction Data, Customer Data, Telephone Data等の内部データだけではなく、漏れた情報が隠されたDark Web, Social Media, Alert about Scam , 電子メールによるフィッシング(Phishing), 電話によるビッシング(Vishing, voice phishingの意)、テキストメッセージによるSmashing等の情報を監視する重要性を強調していました。
午後の後半の分科会は、Elder ResearchのGehard Pilcher(ゲルハード・ピルチャー)
による、同じくBig Dataに関する"There's No Such Thing as Big Data"です。政府機関と民間の両方で長い経験を持つ彼がBig Dataとは何かについて講義する基礎編です。会場の参加者のBig Dataに関する定義は「エクセルでは納まらない規模」「扱いが難しい」等様々で、ROT(Redundant=冗長で重複が多く、Obsolete=新旧が入り混じり, Trivial=雑多である)などの特徴が挙げられました。Big Dataの調査が挑戦であること、2012年のImpalaというツールのリリース以降の変化についてなどが講義されました。
セッション終了後にACFE Foundation Attendees Networking Reception(ACFEカンファレンス出席者交流会)が開催されました。飲み物とHors D'oeuvre(オードブル)が提供され、多くの他国の会員と知り合える良い機会です。写真はACFEの会長であるジム・ラトリー(Jim Ratley)と日本から出席している新日本有限監査法人の方達です。Ernst & Youngはカンファレンスのプラチナ・スポンサーです。日本でもACFE JAPANのカンファレンスのスポンサーをしていただいています。今年の10月9日に開かれるACFE JAPAN Conferenceでは、再び会計不正について掘り下げていきます。
今年から参加者は各自のMobile Deviceにアプリケーションをダウンロードして大会に関する情報を受け取ります。参加者同士を検索し、アプリケーション上でメッセージをおくることも可能です。今回からCFEのContinuing Professional Education(継続的専門教育:CPE)に関する申請も、従来の紙ベースからこのアプリケーションにより行うことに改善されました。
ACFE JAPAN 理事長 濱田眞樹人