2019 ACFE Fraud Conference Asia-Pacific の詳細は、次の公式サイトをご覧ください。
2019 ACFE Fraud Conference Asia-Pacific [英語]
https://www.fraudconference.com/asiapac2019.aspx
日時:2019年9月25日~27日
場所:シンガポール
ACFE Asia-Pacific Fraud Conferenceが2019年9月26日と27日の二日間、シンガポールのMarina Bay Sandsで開かれました。今年はACFE Japanの評議員である濱田眞樹人が参加報告をさせていただきます。Asia-Pacific Fraud Conferenceは、例年、集客や設備の関係で香港かシンガポールでの開催を繰り返してきました。今年は香港で大規模な民主化デモが続いていますので、シンガポール開催の順番で安心しました。今年もアジア太平洋地域の30か国から260名ほどのACFE会員が集合しています。日本からは私を含めて6名の参加でしたが、ACFEのシンガポール支部のVice Presidentを務めておられる佐藤剛己CFEと会場でお会いすることができました( 掲載ページはこちら )。
写真はホテルに隣接するSands Expo and Convention Centerです。巨大な会場では多くの企業が同時に催事や会議を行っています。
カンファレンスでは朝とランチタイムに全員が参加すべき基調講演(General Session)があり、午前と午後には各自が興味を持つ分科会を選択して参加します。基調講演には著名なスピーカー(Key Note Speaker)を招聘しますが、分科会は基本的にはACFEのFaculty(講師)か各国のACFE会員が自分の専門領域に関して発表を行います。
朝7時半という早い時間からネットワークセッションが始まり、朝食を取りながらアジア各国から参加した会員と情報交換を行います。そして、8時半よりBruce Dorris ACFE会長の開会の挨拶でカンファレンスがスタートします。Dorris会長はACFEに加わる前は、米国ルイジアナ州で13年間検事を務め、主に金融犯罪捜査に従事していました。
CFEでCPAでもある彼は、ACFEでは、副社長兼プログラムディレクターを務めた後に2018年より現職に就きました。日本の会員の皆さんはFraud Magazine毎号の最初のコラムでご存知かと思います。彼は、今年の10 月 4 日に御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンター (ソラシティホール) で開催される第 10 回 ACFE JAPAN カンファレンスで講演「不正の世界的な傾向と ACFE の取り組み」を行い、ACFE JAPAN藤沼亜起理事長と「日本の不正と世界各地域の不正との違いと CFE が組織を不正から守るためにできること」というテーマで対談も行います。
最初は、オーストラリアのメルボルンのMonash大学ビジネス・スクールの教員であるGraeme Samuel氏による基調講演です。Samuel氏は、オーストラリア連邦銀行の倫理調査を行う会議のメンバーであり、連邦政府の行動規範の監視の役割など多くの公的な役割を果たすとともに、数々の企業・団体の役員を務めています。アジア太平洋地域における米・英の大企業は、不正調査や監査の本部をオーストラリアにおいている場合が多々あり多くの調査会社やコンサルティング会社が存在しています。
基調講演はやはりオーストラリアの調査会社KordaMentha Forensic社のパートナーであるRobert Cockerell氏との対談形式で行われました。
話題は英国のEU離脱から金融機関のガバナンスや説明責任に至るまで幅広いものでした。
議論は、金融機関のリスク管理に関する取締役会の委員会や会長の役割、規則違反や不正に関する情報開示、組織の風土、倫理観、内部・外部監査、利害相反などにガバナンスの基本的な考え方から現実に切り込むという厳しいものでした。
午前中の分科会は、オーストラリアの調査会社KordaMentha社のアジア太平洋地域担当パートナーであるMatthew Fleming CFEによる“Cross-Jurisdictional Investigations inthe Asia-Pacific Region(アジア太平洋地域における多国籍間調査)” を選択しました。
Flemming氏は、KordaMentha社の前にはビッグ4会計事務所で不正調査に携わっていたそうです。シンガポール、インドネシア、香港、中国での勤務生活を経験しており、資産・収益不正や腐敗行為の調査と分析に豊富な経験を持っているそうです。
彼のセッションは、アジアにおける国境、法的管轄を越えた不正調査の複雑さの実際に関するものでした。
文化の違い、言語バリアー、地理的・距離的制約、システム的制約、アジア特有の問題、不正の徴候とその確認などに触れ、証拠の収集に関する内部リソースと外部リソースの特定、調査チームのコミュニケーションと提携と支援、調査マトリックスについて詳しく話してくれました。実際の体験をもとにして、証拠収集のベストプラクティス、一般的な間違いや落とし穴、および海外調査における制限について論じてくれました。
他国の参加者と話しながらスタンディングでのブッフェ・ランチを取った後は、ボディランゲージの専門家であるChristian Chua氏による講演です。個人的には米国本土よりアジアでの食事が好みに近くホッとします。
さて、専門家として20年以上のキャリアを持つChua氏は、シンガポール在住ですが、身体と顔のプロファイリングの専門家・指導者として様々な国の多くの有名イベントやテレビ番組で講演して特別なスキルを披露しています。その講演はパフォーマンスとも言えるアクティブなもので、ビデオを見ながら驚き、怒り、罪悪感、などを一緒に読み取ったり、嘘をついている人間の反応、答え方の特徴を指摘したり大変楽しいものでした。
ACFEのカンファレンスでは、調査・面接に役立つボディランゲージの専門家の講演は多いのですが、Chua氏の「嘘を見抜く」「顔を読む」場合の、左側、右側、パーツ、肌、皺(しわ)などに分けての解説はとてもユニークなものでした。
午後の分科会前半は、Annamaria Kurtovic博士による”Understanding the Fraudster’s Mindset (不正実行者の心理を理解する)”を選択しました。分科会のセッションは、参加者の選択の意思決定の為に、各々CPEカテゴリー(Field of Study:このセッションは Behavioural Ethics)とレベル(Level:このセッションBasic)、そして求められる予習(Recommended Prerequisites:このセッションは不要)が明らかになっています。
彼女は勿論CFEであり、オーストラリアのIntegrity Forensic Accountants and Fraud Investigatorsという団体の代表として、法執行官や検察官、連邦政府の調査官に対して、財務調査や詐欺の調査に関する助言や専門家意見を提供しています。
博士は、人は嘘をつくもので、その多くが自分や他人を守る為だと主張します。何が人を不正に駆り立てるのか、普通の従業員が犯罪者にどう変身するのか、人間行動の共通の特徴を理解することが、不正検査士に対して貴重な洞察を提供し、調査のあらゆる側面に知見を追加するのだと強調しました。このセッションでは、人間行動の議論と有罪判決を受けた詐欺師とのビデオインタビューで、多くの不正実行者に共通する動機や性格特性、行動のレッドフラッグや外部要因について学びました。不正の三角形を適用する場合に、犯罪者の心理を「不正前」「不正実行時」「不正後」に分けて考えるという整理は新鮮なものでした。
午後の分科会後半は、Control Risks 社のCompliance, Forensics and Investigations担当副ディレクターであるDiana Ngo女史と同社のアジア太平洋地域責任者であるAllanna Rigby女史による ”Identifying Conflicts of Interest Using Data Analytics and Intelligence(データ分析とインテリジェンスを用いた利益相反の特定)”を選択しました。両女史ともに香港をベースにしており、Dianaは特にソーシャルメディアの調査に精通し、Allannaはアジア太平洋地域におけるデータ分析に関するリーダーだそうです。
彼らは、利益相反 (Conflicts of Interest:COI) は全ての組織でよりはっきりと問題にされるべきで、その影響は利益を失うばかりではなく、場合によっては横領に至ることもあるものだと強調します。
このセッションでは、COIとその組織への影響、COIをプロアクティブに検出する方法論、証拠を見つけるためのツールについて詳しく説明がありました。そして、COI の検出を行うのには従来の手法のみでは限界があり、監視の有効性を高めるための積極的な識別と検出の検討について、また、COIを示唆する可能性のある指標を検出するデータ分析、リソースが特定されたものに集中できるようにする能力を備えること等が肝要であると強調しました。例えば、きっかけの典型的な例として、内部通報をレッドフラッグとして分析して社外との不正な共謀関係を分析していくケースを解説しました。社内情報、取引先情報、そして公的情報とデータ分析を進めAIを活用、そして契約の監視、電子メールの監視にもリスクベース分析を導入することの有効性を解説しました。
一日中集中して英語を聞くのはかなりのストレスです。でも、16時半からはネットワークレセプションで様々な他国のACFE会員との交流を楽しみます。
レポート:ACFE JAPAN 評議員 濱田 眞樹人