日時:2017年9月18日~19日
場所:香港
今年の ACFE Fraud Conference Asia-Pacific は、9 月 18 日と 19 日の二日間、香港の Kowloon Shangri-La で開催されました。台風とともに秋が近づこうとしている東京から、昼間汗ばむほどの陽気の香港にやってきました。
カンファレンスでは朝とランチタイムに全員が集う General Session があり、午前と午後には各自が興味を持つ分科会を選択して参加します。General Session には著名なスピーカーを招へいしますが、分科会は基本的には ACFE の Faculty(講師)か各国の ACFE 会員が自分の専門領域に関して発表を行います。写真は忙しい一日のスケジュールです。
初日は朝 7 時半からネットワーク レセプションです。朝食を取りながら各国から参加した会員と情報交換をします。今年はアジア大西洋地域 23 か国から 230 名の ACFE 会員が集合しました。香港とシンガポールからの参加者が最大勢力で、日本からの参加者は 3 名です。
最初の General Session は、Microsoft 社の Digital Crimes Unit (DCU) のアジア地区の責任者である Keshav Dhakad 氏による基調講演です。彼はシンガポール ベースで、Microsoft のアジアの法務部門の Assistant General Counsel でもあり、ニューヨーク州弁護士でもあります。General Counsel は、日本で言えば「法務担当役員」となるのでしょうか、欧米では、弁護士の資格を持ち、外部の弁護士事務所と連携しながら会社の法務リスクを掌る Officer(執行役)です。
彼はもともとニューデリーの法律事務所で IT や e-Commerce に関する知財を扱うパートナーだったそうです。DCU では、サイバー犯罪への対処、サイバー セキュリティやデータ保全に関する訓練や教育、外部との連携などを担当しています。
彼の、長い経験に基づいた講演は、アジア地域の目線からサイバー犯罪、知財、IT ガバナンスなどに関して語るものでした。欧米とアジア ローカル両方の目線を持つ彼の基調講演は、ACFE の Asia-Pacific のカンファレンスのオープニングを飾るのにとてもふさわしいと感じました。
サイバー セキュリティは Microsoft の No.1 プライオリティだと宣言し、それは IT そのものの問題ではなくオペレーションの問題でもあること、サイバー セキュリティは CEO レベルでの問題であることを強調していました。
プレゼンの初頭でスライドの技術トラブルがあり、Microsoft の人でもこのような事故が起こりうるんだなと少々安心しました。
午前中の分科会は Huawei Technology の法務部門の Allen Ting 氏による「Managing Compliance in the Global Space: Transborder Data Transfer」を選択しました。Ting 氏は ACFE 香港チャプター(支部)で 10 年以上活動しており、数年前にはチャプター代表も務めていました。彼は、香港で 20 年以上にわたって Independent Commission Against Corruption(反腐敗独立委員会)や Office of the Privacy Commissioner for Personal Data(個人情報プライバシー委員会)などの規制当局での経験を持っています。
彼のセッションは、EU で 2018 年に大幅に改正され施行される General Data Protection Regulation(GDPR:一般情報保護規則)についてのものです。今後は EU のサーバーにある個人情報を他国に送信することについて注意が必要になります。歴史的な法規制の変化について解説し、EU と米国の個人情報に関する協調と考え方の微妙な違いをも見て取る興味深いものでした。グローバルなコンプライアンスと国家間の個人情報移転については、今後も継続的な重要課題だと考えさせるセッションでした。
ランチ時の General Session は、香港警察の Chief Superintendent(警視正)である Lawrence Wong 氏による基調講演です。30 年以上警察一筋において、ここ数年は Commercial Crime Bureau(商業犯罪局)において貨幣偽造と闘う責任者で、Anti-Deception Coordination Centre(反欺瞞センター)での犯罪防止の為の啓蒙も行っているそうです。それ以外にも、香港警察と外の機関との橋渡し役を務めてきました。
2008 年に仏 INTERPOL(International Criminal Police Organization:国際刑事警察機構)に派遣され、組織犯罪と闘う活動も担当していたそうです。香港において、Fraud and Money Laundering Intelligence Taskforce(FMLIT:詐欺・資金洗浄情報作業部会)のキーメンバーとして、警察と中国銀行や HSBC を含む 10 行の金融機関の情報交換による金融犯罪への取り組みについて解説してくれました。
年々増え行くマネー ロンダリングに対応して、2017 年 5 月に始まった FMLIT が、すでに 62 名の逮捕につながっているそうです。このイニシアチブによる、非常に保守的であった金融機関の態度の短期間での変化に関して強調していました。
午後の分科会前半は Samantha Wong 氏による「Conflict of Interest: Tip of the Iceberg to More Significant Violations」です。彼女は多国籍企業である Eastman Chemical のアジア太平洋地域におけるグローバル行動規範担当ディレクターで、各ビジネス拠点でのコンプライアンス リスクを監視し、指導する立場にあります。アジア太平洋地域で、規則や手続書を作成し、浸透させ、監視する役目を負っています。利益相反は、より深刻なキックバックや横領、贈賄などのより深刻な不正につながるので、しっかりと監視することが必要であると強調しました。
アジア文化圏におけるビジネスの根っこにある問題を浮き彫りにするケース スタディは大変興味深いものでした。アジア文化圏における、Business Relationship と Personal Relationship(仁=人+二)の関係、Gift と Hospitality の関係等に関する考察には、多くの参加者がうなずいていました。そこから派生するより深刻な問題や Unintentional Bias(環境や文化や経験などの様々な要素から意思決定に及ぼすフィルターの無意識のバイアス)について、参加者からも多くの質問がされました。
午後の分科会後半は Microsoft のアジアの不正調査のリーダーである Vishal Singhvi 氏による「Machine Learning and Big Data in Fraud Detection and Prevention」です。同社のグローバルにおける不正を抑止するリスク対応プログラムでの、アジア太平洋地域における様々な努力について情報を共有してくれました。
不正発見における Machine Learning 技術の進化について解説し、データ分析と行動分析や予想の関係について丁寧に話しをし、伝統的なプログラミングから、Big Data によって Machine Learning 時代に突入していくことを強調していました。現状のデータから「どれが良いんだろうか」「どちらに行くんだろうか」というような Predictive な Model を不正の発見に使用できないかというのが彼らの努力です。
中国本土で 50 ものサイトを開設してゲームを米国で不正に販売していた会社を Machine Learning Process により発見できたケースは進歩を実感させるものでした。
夕方のネットワーク レセプションでは、一日の缶詰状態から解放されて、軽い飲み物や hors d'oeuvres(オードブル)とともに多様な国から参加した会員との談笑を楽しみます。香港は食べ物が美味しくて嬉しいです。
写真は、日本から参加しているアンダーソン・毛利・友常法律事務所の西谷 敦 氏(弁護士・公認不正検査士)です。
ACFE JAPAN 理事長 濱田眞樹人