日時:2015年11月5日~6日
場所:シンガポール
2015年11月5日と6日の二日間、ACFE Asia-Pacific Fraud ConferenceがシンガポールのMarina Bay Sandsで開かれました。
ACFE JAPAN 理事長の濱田眞樹人がカンファレンス2日目の報告をさせていただきます。今日も7時半からのネットワークレセプションで始まります。米国でのカンファレンスと違い時差ボケがないのが楽です。
朝の基調講演で登壇するのは、10月のACFE JAPANカンファレンスには残念ながら来日が叶わなかったエンロン社の元CFO Andrew Fastow氏です。シンガポールまで来て、ついにFastow氏と実際にお会いすることができました。
彼は2000年の時点で1千億ドルの収益と10億ドルの利益を上げ、"Most Innovative Company Award(最も革新的企業賞)"を6年連続で受賞したエンロン社のChief Financial Officerで、"CFO of the Year 2000(2000年の最優秀CFO賞)" を受賞しました。本日の論題は「Rules Versus Principles - Enron Case Study」で、ACFE JAPANカンファレンスの為に作成してくれたビデオとほぼ同じ内容でした。Fastow氏は "CFO of the Year" のトロフィーと服役していた刑務所でのIDカードを同時に見せて、「この二つの間に何が起きたか語りたい」と講演を始めました。当時は「Financial Wizard(財務の魔術師)」と呼ばれていた彼の弁舌は相変わらず鋭く、思わず説得されそうな位でした。
ACFE JAPANカンファレンスでのビデオでは、青山学院大学の八田進二教授からの質問への回答も含まれていたので、より解り易いものであったと感じました。Fastow氏との約束で今年の講演の映像も文章も残せなかったのが残念です。
過去のACFE JAPANカンファレンスレポートはこちらからご覧になれます。
Fastow氏の代わりに来日してくれたエンロンの元副社長Sheron Watkins氏についても東洋経済オンラインで扱われましたので、こちらもご覧ください( http://toyokeizai.net/articles/-/88881 )。
プログラムには*The ACFE does not compensate convicted fraudsters(ACFEは不正で有罪判決を受けた者には報酬を支払わない)"と書かれています。ACFEは会員が実際に事件で何が起きたのか、当事者が何を考えたのかを学ぶために不正実行者をカンファレンスに招聘しています。
午前中の分科会はオーストラリアのAusAsia Training Institute Pty LtdのManaging DirectorであるRachael Mah氏による「Mitigating Fraud Risks in Diverse and Complex Asia-Pacific Cultures」です。
彼女はメルボルンをベースに国際企業における内部監査とリスク管理の長い経験をもとに、トレーニングとコンサルティングを提供しています。2013年からそのサービスをアジア諸国に展開し始めたそうです。アジア地域の言語、宗教、倫理観に関する多様性と複雑な文化はその不正リスクの評価と管理を難しくしています。地域にふさわしい不正防止戦略をどの様に構築していくかについて紹介しました。
有効なコミュニケーションを阻害するのは言語のバリアーだけではなく、職場の文化の違いが大きく、目線、表情、ジェスチャーなどを含む非言語行動、重きを置く社会的価値、家族の考え方などが大きな影響を与えます。職場では「ビジネスライク」である西洋に比して、東洋ではより「人間関係重視」になる傾向があることを理解すること、それにより交渉と合意のスタイルが違うことを理解すること、時に契約より人間関係が重視される場合もあること、ビジネス・エチケットが異なること、ふさわしいリーダーシップのスタイルも違うことを理解すること等をいくつかのケーススタディで学びました。
昼の基調講演はMasterCard WorldwideのCustomer Fraud ManagementのVPであり、Asia-Pacificの長であるBarry Wong 氏による「Payment Card Fraud」です。
Master, VISA, CITI, AMEX, JCBなどが寡占し、参入障壁の高い決済カード産業では各社間での人材の流動性が低く、各社の顧客の不正に関する情報の共有も多くないそうです。世界的にEコマースも普及し、以前に比して、カード決済のデータはグローバルに多くの第三者を経由して流れるようになってきたそうです。データのネットワーク上のセキュリティの保全が難しくなるばかりだそうです。
不正な商品・情報の販売やネット・ギャンブル、ポルノへの決済の使用が増えれば増えるほど、データが不正実行者により入手されるリスクも高まるのです。様々な意図を持って消費者のデータを盗もうとする脅威も増えるばかりです。カード決済は数秒で終了するのに、使用者が不正なカード使用履歴を認識するのはなかなり時間が経過してからです。
特に悪意のある加盟店の関与の危険性を強調しました。カード番号16桁の最初の4桁は発行会社を表し、最後の4桁はチェックディジットなので、実際のカード情報は8桁に過ぎないことも強調していました。彼らのホスト・コンピューターへのサイバー攻撃も劇的に増えているとのことで、対策に努力を続けていくそうです。
午後の分科会はシンガポールのBaker & McKenzie, Wong & Leow 弁護士事務所のLocal PrincipalであるWeiyi Tan氏による「Catching Up With Corruption in the Asia-Pacific Region 」です。
彼女は国際的な金融不正、腐敗行為、ホワイトカラー犯罪に関する調査と各国司法当局との交渉の専門家です。アジア太平洋地域では、各国が腐敗防止に関してその規制を変化させています。2015 年に177か国がサインしたUnited Nations Convention against Corruption(UNCAC)をはじめとして全般的な腐敗行為規制に関する知識と、タイ、マレーシア、インド、インドネシア、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランド、中国、香港、シンガポール、各国の事情に関して情報が提供されました。Network of Anti-Corruption Authorities and Law Enforcement Agencies(APECACT-NET)を例として将来的な各国の協働の模索について紹介し、アジア諸国も変わりつつあるのだと強調しました。
カンファレンスの最後を飾る基調講演は、オーストラリアのRSM Bird CameronのFraud and Forensic Servicesの長であるRoger Darvall-Stevens氏をモデレーターとするパネルセッション「Fraud Investigations: Keeping on the Right Side of the Law」です。
パネリストはAusAsia Training InstituteのRachael Mah氏、E&Yの Tony Prior氏、 Queensland Police ServiceのGraeme Edwards氏というオーストラリアで不正調査に係る専門家たちです。オーストラリアの不正調査の専門家が海外で行った調査について現地で司法当局とトラブルになるという事件が起きました。
不注意なのか、ミスなのか、あるいは誰かに騙されたか。国際的に不正調査に係わる者が、他国でどの様に専門家として力を発揮できるかを議論しました。国際的な企業では、アジア・パシフィック地域ではオーストラリアから不正調査人が派遣されるケースが多いようです。パネリストからは国際的企業のアジア拠点での調査に係った経験など、会場からも様々なアジア諸国での苦労の経験が語られました。
文化、法律、司法当局の特性、安全など、調査に向かう国を事前にどれだけ知ることができるかという準備の必要性が強調されました。調査人が、海外で被調査側のキーとなる人物を特定し、どれだけ関係を築くことができるかが不正調査を成功させるための最も難しいポイントの一つであるとの意見も出されました。不正調査人であれば、データ・証拠の重要性、重さを十分に理解しているが、その入手の正当性についても議論がなされました。
このカンファレンスでは、2日間で監査、倫理、専門知識と実践などに関する80分のセミナーを10セクション受講し、16単位のCPE Creditを取得することができました。今年からネットでCPEを申告します。各テーブルには申告の時に入力が必要なキーコードが置かれています。
来年も11月にAsia-Pacific Fraud Conferenceが香港で行われる予定です。日本からも多くの会員に参加していただきたいと思います。
ACFE JAPAN 理事長 濱田眞樹人