日時:2023年6月23日(日)~28日(金)(日本時間)
場所:ネバダ州ラスベガス
メイン カンファレンス最終日です。
最後の朝食をとり、本日最初の分科会セッションに向かう途中、スーツケースや大きなカバンを携えた参加者を数多く見かけ、本カンファレンスがいよいよ最終日を迎えたことを実感し、感慨深い気持ちになりました。
ヘレナ・ビョーク氏とクナル・アグラワル氏による”Fraud Prevention and Detection: How Can Analytics Help?”(不正防止と検知: 解析はどのように役立つか?) を聴講しました。Diligent社がスポンサーとなっているセミナーで、登壇者は同社のカスタマー・サクセス部門のマネージャーとディレクターでした。広い会場には300人近い参加者が集まり、データ解析に関するツールやテクノロジーへの高い関心がうかがえました。
会計において、帳簿の項目、給与計算、経費、顧客との取引などにおいて、パターンを把握し、不審な動きがないか注意を払うことが求められます。不正をキャッチするためには、潜在的なリスクと脅威を特定すること、取引データの分析、顧客の行動の評価、外部要因の評価、テクノロジーとツールの活用、コラボレーションと情報共有の強化が重要であると登壇者らは述べました。
多くのデータを解析してパターン収集をすることを繰り返し、自動化をはかるためテクノロジーやツール活用について述べたうえで、このセッションでもAIの活用について言及しました。参加者はAI活用への高い関心を示しつつも、AI一辺倒になることに対する恐れについて自論を述べる参加者もいました。
このセッションは、発表の後に質疑応答の時間を設ける講義スタイルではなく、アメリカらしい、参加者との対話を重視したセッションスタイルで、参加者は自身の経験や疑問を活発に発言し、登壇者がそれぞれに対してフィードバックやアドバイスをしました。
これまでの2日間においては、朝食会場や昼食会場で様々な料理や飲み物が提供されていましたが、
最終日の本日は、それらに加えて、セッションの合間の休憩時間においてもホワイエで軽食と飲み物が用意されていました。
大勢の参加者は最後の語らいのひと時を楽しんでいました。
次に、本会最後の分科会セッションとして、ベイカー賞(Baker Award)を受賞した、マイケル・シドロー氏の”PRICE TAG PONZI: EXPLORING THE WORLD OF COLLECTIBLES FRAUD”(プライスタグ・ポンジー:収集品詐欺の世界を探る)を聴きました。
昨日の第2日目レポートで触れたベイカー賞は、ACFEで不正防止教育における多大な貢献者であるジェームス・ベイカー氏(故人)にちなんだものであり、コミュニケーション、プレゼンテーション、質の高い指導において真のリーダーシップ精神を発揮した個人を称えるために毎年贈られます。
今年の受賞者のシドロー氏は法律、コンプライアンス、監査、コンサルティングの分野で15年以上の経験を持ち、中国銀行、HSBC、バンク・オブ・アメリカでは指導的役割を果たしてきました。とりわけ、不正行為とマネーローンダリング防止が専門とのことです。
彼の本会での講演テーマは収集品における投資詐欺とマネーロンダリングについてでした。マイケル・ジョーダンのシューズやスターウォーズのオビ=ワン・ケノービの衣装やライトセーバーといった誰もが知るコレクターズアイテムについて触れ、シドロー氏は一気に聴衆の関心を掴みました。
まず、彼は時折ジョークを交えつつ、収集品における専門用語や収集に関する歴史について詳しく解説しました。歴史は収集品において重要なファクターとなります。オークションで高値で取引されている、白髪一雄の作品も例に挙げられました。
年代別の収集品のトレンドについてまとめ、新型コロナのパンデミックの前後の期間についても言及しました。パンデミックの間、収集品市場は爆発的に拡大し、前年比で記録的な売上となったとのこと。その間、消費者は旅行資金を使うことがなかったため、収集品業者に殺到し、その結果、収集品において価格高騰と供給不足が引き起こされたそうです。一方、詐欺師たちは、偽造品やレプリカ、不正に調達された商品でサプライチェーンのギャップを埋めようと躍起になる、という背景からまず説明されました。
続いて、美術品やコレクターズアイテム、高級品や収集品の真正性や価値を脅かす不正行為の形態についてふれ、コレクター市場に潜入する詐欺師が用いる巧妙な手口を実際のケーススタディや分析が示され、大変興味深いセッションでした。
いよいよメインカンファレンスの最後となりました。
ギル会長が登壇し、今年のカンファレンスの参加者、バーチャルによる視聴参加者、そしてスポンサーやスタッフに感謝の言葉を述べました。
次に、来年のグローバルカンファレンスの開催地は米国テネシー州ナッシュビルであると映像をもって発表されると、来場者からの歓声があがりました。アメリカ南部はサザンホスピタリティ(南部のおもてなし)としても有名であり、ギル会長もそれにかけて「ホスピタリティをもって皆さんをまたお迎えしたいと思います」と言いました。また、ギル会長は、会員に向けたアンケート、Job Analysis Surveyに触れ、回答への協力を呼びかけました。
そして、最後を締めくくる毎年恒例の「有罪判決を受けた不正実行者(Fraudster)」による基調講演がありました。今年の登壇者は、葬儀ビジネス詐欺で有罪判決を受けたブレント・キャシティ(Brent Cassity)氏です。
同氏は、ナショナル・プレアレンジド・サービス社という葬儀会社を経営していた父ジェームス・キャシティらとともに、詐欺に関与したとして2013年に実刑判決を受けました。
同社の詐欺内容については、事前に手配した葬儀サービスを約束する保険契約を販売したものの、16年以上にわたってそれらのサービスを提供せず、自身や事業経費に流用したというものです。検察によると、この詐欺により最大15万人の顧客が影響を受けたとのことです。
キャシティ氏は、経営者一家の一員として成功を収め、妻子にも恵まれ、すべてがうまくいっていたところ、父親が逮捕されたことによりすべてが一転します。檻の中の父親に毎週面会をしていたのですが、ついに彼自身も有罪を宣告され、同様に刑務所に入ることとなります。彼は壇上を動き回りながらドラマチックに当時の心境を感情をこめて語りました。
アメリカでは、「セカンド・チャンスは可能である」というメッセージをよく聞きます。キャシティ氏も同様に、失敗から学ぶこと、自分を見失わず、あきらめないことを説き、スピーチを終えました。
キャシティ氏のスピーチの後は、ギル会長がインタビュアーとして、いくつか質問をしました。中でも、彼の会社の不正を感知する危険信号は何であったかという質問に対して、キャシティ氏は「同業他社とどう違うのかに着目をすること」と答えたことが印象に残りました。
他社がしないということは、それにリスクがある(法律違反である)ことの表れであるといった趣旨のことを語り、自社だけ他と違うことをしていたが、他と同じことをしておけばよかった、とも言っていました。「成功に酔う」「抜け道」「近道」という表現を度々使っていた彼の経験談を反面教師にして、コツコツと努力をしたり、地に足をつける、といった極めてベーシックなことに立ち返ることが大切であると感じました。
対談後、3日間にわたるメインカンファレンスは、再びギル会長の挨拶をもって終わりを迎えました。
CFE会員をはじめとする、不正対策に携わる多種多様な参加者や登壇者、展示企業やスタッフなどが、それぞれの職域や業務の中で、不正を正し社会に貢献するという使命感を共有し、繋がりを感じた3日間でした。
不正対策に関する情報収集はもちろんですが、全米そして世界各国の会員たちとの交流ができる良い機会であると実感しました。筆者も、ネームタグにあるJAPANという文字に反応され、話しかけられることが度々ありました。
このような大規模でありながら温かい雰囲気に包まれたカンファレンスを成功に導いたACFE本部のスタッフの皆さんに、心からの敬意と感謝を送りたく思います。
閉会を迎えた会場では、ナッシュビルでの再会を約束しつつ遠方の会員と別れを惜しむなど、会場にしばらく残って歓談を続けている人も多く見かけました。このグローバルカンファレンスの余韻を楽しみつつ、参加者それぞれが充実した面持ちでいたことに感銘を受け、会場を後にしました。
報告者:ACFE JAPAN 事務局