日時:2023年6月23日(日)~28日(金)(日本時間)
場所:ネバダ州ラスベガス
さて、本日も昨日と同様、朝食会場では様々なブースが出展していました。2日目とあって、昨日以上にブースに立ち寄り、説明を聞く参加者が多数見受けられました。
朝食を終えた参加者は、本日の基調講演が行われる会場に一斉に向かいました。
開演時間になると、2日目最初の基調講演を始める前に、ジェームス(ジム)・ラトリー元会長が登壇しました。
ACFEの功労者の一人である、ジェームス・R・ベイカー氏についてエピソードを交え、かつての盟友である同氏を回顧しました。心のこもったメッセージとともに、献身的に不正対策教育を行ったベイカー氏の献身的な貢献を讃え、彼にちなんだ「ベイカー賞(Baker Award)」を今年の受賞者のマイケル・シドロー氏に授与しました。
次にギル会長が「センチネル賞(Sentinel Award)」の授与に臨みました。同賞は毎年、個人的あるいは職業上の影響を顧みず、企業や政府における不正行為を公に通報した人物に贈られています。2003年に俳優のクリフ・ロバートソン(1968年の映画「アルジャーノンに花束を(まごころを君に)」でアカデミー主演男優賞を受賞)に初めて授与されたACFEのセンチネル賞には、"For Choosing Truth Over Self"(自己よりも真実を選んだ人)という碑文が刻まれています。
今年の受賞者は、サラ・カーバー(SARAH CARVER)氏とジェニファー・グリフィス(JENNIFER GRIFFITH)氏、そしてマット・フリードマン(MATT FRIEDMAN)氏です。
まず、カーバー氏とグリフィス氏の動画が流れた後に、ステージ上の両氏が受賞のあいさつをしました。
両氏は、米国社会保障庁(SSA)に在職中、5億5,000万ドル(850億円強)を超える不正の企てを明らかし、その結果、激しい報復を受け、保護を拒否され、最終的には職を失いました。2011年5月に「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が彼女たちのケースを取り上げた後、米国議会が注目し、常設調査小委員会で公聴会が開かれました。同年、両氏はキイタム訴訟(注:米国連邦政府に対する不正請求等を知った者が、当該情報に基づいて政府のために、不正請求等を行っている者への民事訴訟)を起こし、勝訴したものの、米司法省は金銭回収に関する和解契約の履行を拒否。両氏は、米国の有名なテレビ番組『60 Minutes』や『American Greed』、そして最近では、日本でも視聴できるAppleTVのドキュメンタリー番組 「ビッグ・コン(The Big Conn) 」などへの出演を通して、内部通報者保護の強化を訴えています。2024年、2人はCFEに認定を受けました。
ギル会長との対談では、SSA在職中に不正を暴いた結果、彼女らが職場などでも攻撃され、命の危険にもさらされた状況が語られました。プライベートでも執拗にビデオ撮影をされたり、銃を持った人間に尾行されたりするなど、生々しいエピソードの連続に、会場全体が聞き入っていました。
※両氏に関する特集記事が、会報誌「FRAUDマガジン」 98号 (2024年6月/7月号)に掲載されています。
次に、同じく受賞者のマット・フリードマン氏が基調講演を行いました。
現代奴隷制の撲滅を目指す組織「メコン・クラブ」のCEOであるフリードマン氏は、40カ国以上で活動し、30年以上の経験を持つ国際的な人身売買対策の専門家です。同氏は、米国国際開発庁(USAID)と国連での勤務歴を活かして、あらゆる形態の現代奴隷制の廃絶を目指し、数多くの行政機関、銀行、企業に専門的助言を提供するかたわら、執筆活動も行い、12冊の著書を執筆しています。
現代奴隷制の最近の動向に関して、世界各地において4秒間に1人の割合で人身売買が行われており、推定で5,000万人以上が奴隷状態に置かれているとのことで、この数は歴史上で最も多い、とフリードマン氏は指摘しました。
同氏は自身が調査した経験談を語り、被害者のスライド画像の説明を交えながら、現代奴隷制の実態や悲惨さを訴えました。
そして、マネーローンダリングなど不正の防止に従事している人たちも、この現代奴隷制に立ち向かうヒーローである、と熱く語り、より多くの人が、さまざまな形でこの重大な「不正」の問題に関心を寄せて協力してほしい、と述べました。
同氏の熱のこもった講演に、会場からはスタンディングオベーションも起きました。
米国本部のグローバル・カンファレンスで基調講演(Featured Speakers)は、基本的に午前と午後、2回行われます。
2日目午後の基調講演は、2024年の「ガーディアン賞」受賞者、リジー・ジョンソン(LIZZIE JOHNSON)氏らが登壇しました。
本年の「ガーディアン賞」はジョンソン氏と、故人で「ラスベガス・レビュー・ジャーナル」紙の調査報道記者だったジェフ・ジャーマン(Jeff German)氏に贈られました。
ジャーマン氏は40年のキャリアの中で多くの不正問題を明るみにしてきた優秀な記者でしたが、2022年に取材対象だった男に逆恨みされて刺殺されました。彼の死に全米のジャーナリストが衝撃を受けましたが、その1人が「ワシントン・ポスト」紙の調査報道記者であるジョンソン氏でした。彼女はジャーマン氏の遺志を継ぎ、彼が執筆途中だった記事を引き継ぐことになったのです。2023年2月、彼女がその記事を完成させると、「ラスベガス・レビュー・ジャーナル」と「ワシントン・ポスト」の2紙に同時掲載されました。
この日の講演には、ジョンソン氏とともに、急遽、ジャーマン氏の同僚が登壇。故人に代わり受賞するとともに、熱い意志をもって報道に臨んでいたジャーマン氏の思い出を語りました。
ペンの力で不正をただそうとするジャーナリストが、志半ばで斃れることは後を絶ちません。2020年の「ガーディアン賞」受賞者、ダフネ・カルーアナ・ガリジア(Daphne Caruana Galizia)氏も、2017年に取材の途上で自動車爆弾によって命を落としたマルタのジャーナリストでした。ACFEはこうした人々を「照らす(shine on))」ことも、使命に掲げています。
※両氏に関する特集記事は、会報誌「FRAUDマガジン」 99号 (2024年8月/9月号)に掲載されます。
続いて、アメリカンフットボールの殿堂入り選手で、現在は実業家として活躍するエミット・スミス(Emmitt Smith) 氏が登壇すると、会場は一気に盛り上がりを見せました。
スミス氏は、アメリカンフットボールの伝説的な選手の一人で、スーパーボウルを3回制覇し、彼の生涯獲得ラッシングヤード記録(18,355ヤード)は現在でも破られていないなど、数々の偉業を成し遂げたアスリートです。テキサス州を本拠地とする名門「ダラス・カウボーイズ」でも屈指の人気選手として活躍しました(テキサス州といえば、ACFEの本部ですね!)。スミス氏は選手引退後も、書籍の執筆やテレビのバラエティー番組の司会など幅広い分野で活躍。実業家としても成功を収め、今もダラスで慈善活動に従事しており、STEM教育と多様性イニシアティブに焦点を当てたNASCARチームの共同運営も手がけています。
スミス氏はカリスマ・スターにも関わらず、気さくで和やかな雰囲気を醸し出していましたが、アメリカンフットボールへの情熱やプロフェッショナリズム、リーダーシップ、そして誠実さや信頼の重要性を語る際には、現役時代にも劣らないオーラを放ち、会場を魅了しました。
午後の分科会セッションでは、メアリー・ブレスリン(Mary Breslin)氏の講演が人気を集めていました。2023年に彼女が『Fraudマガジン』で執筆した記事「ChatGPTは不正の最新の入口か?」(日本版95号、 2023年8月/9月号掲載)に対し、「ハバード賞」(最優秀特集記事賞)が贈られました。賞の名前は、ACFEの創設期メンバーの一人に由来します。
ブレスリン氏の記事は、不正行為者がChatGPTを通してサイバー犯罪に関与する力を持ちかねない、と、今後の不正の危険性が広がることへ警鐘を鳴らすものでした。
同氏は、Verracy Training and Consulting(ヴェラシー)の創立者で、コノコフィリップス、バークレイズ・キャピタル、コストコ・ホールセール、ジェファーソン・ウェルズ、ボアート・ロングイヤーなどの企業で、内部監査、不正検査、管理、会計の分野で20年以上の経験を持っています。
講演では、南カリフォルニアでのバーにおけるバーテンダーの横領事案が取り上げられました。1人のウェイトレスが不当解雇されたことを発端に発覚し、約2年半にわたり、350万ドルの損害に至ったその不正行為について、そのスキームを詳細にわたって紹介しました。
バーテンダーらの行った不正は、飲み物の代金が現金で支払われ、レシートがお客からも求められない、という状況を悪用し、計上することなくその代金を横領したというものです。まさに不正のトライアングルの一つ、「機会」がバーテンダーたちにあったというわけです。
不正の証拠となる会計データの解析において、彼女は実体験のエピソードを交えながら、人の能力であれば何日もかかるところ、AI(人工知能)であれば数時間でできる、と述べました。しかし、AIの可能性への期待を示す一方、「全てを任せることはできない」とも付け加え、AIを活用しつつも人間の目で確認することがまだ必要である、と指摘しました。
彼女は、データ解析をダンス・レッスンになぞらえ、テキストマイニングやプログラミング、そしてAIの活用は「上級編」と言え、その基礎となるさまざまな知識も全て大切であると語りました。こうしたAIなどの活用について、真面目に仕事をする人にとっては「助け」となるが、怠け者にとっては「危険」でもある、という言葉が印象的でした。
午後の分科会セッションでもう一つ注目を集めたのは、世界的な鉱業・鉱物・採掘会社であるAnglo American社のグループ調査マネージャー、アシュ・シャルマ (Ash Sharma)氏による “WHY DO GLOBAL INVESTIGATIONS GO WRONG?(世界規模の調査はなぜうまくいかないのか)”でした。
企業倫理およびコンプライアンス調査を担当している同氏は、調査体制の開発や、大規模なグローバル・オペレーション・チームのためのフレームワークと手順の設計に携わり、50カ国以上にまたがるグローバル・チームで大量の調査を行うためのイノベーションを主導しています。キャリアの中では、英国重大不正捜査局(U.K. Serious Fraud Office)の上級調査員として、他の英国政府部門に加え、選挙や慈善団体に関わる不正調査にも携わってきたとのことです。
講演では、まず、アマゾンやインドのタタ・グループなど従業員数が100万人を超えるような超巨大企業を例に挙げて、そのような企業における企業イメージの失墜は、もはやその企業の存在する国家のイメージさえも左右するとし、グローバル調査の重要性が増していると主張しました。
しかし、依然として数々の課題があるとシャルマ氏は述べました。内部的課題として、66%が証拠収集やデータへのアクセスが困難、時間的プレッシャーが53%、ほかにも予算、上司のサポート不足、現地に赴くこと、などといった点を指摘。外部的課題としては、63%が法域に対する知識や情報、58%が言語である、と述べました。
このように、グローバル調査は複雑で困難なものであり、かつ、国レベルでの問題につながるのですが、同氏は失敗を回避するための「グローバル調査の10の原則」を提唱。
1.コンプライアンスの遵守、2. 秘匿性、 3.公平さ、4.独立性、5.倫理的、6.客観的、7.プロフェッショナル、8.適正さ、9. 保護的、10.透明性、をキーポイントに挙げました。
これらにおいて、対処を誤ると、罰金、内部通報、投資家や株主への信用度の低下、ネガティブな評判といった問題が起こりえます。
参加者への質問を交えながら、最後に、同氏は、上記において対応を誤ってしまったケースとして、英国郵便局窓口の実際の金額と、富士通の現地子会社が提供していたシステムに表示される残高が一致せず、700人以上の局長たちが横領や不正経理を疑われ、無実の罪で刑事訴追された、英国史上最大の冤罪スキャンダルを挙げました。
訴追された局長の中には自殺者もおり、国際的企業のガバナンス、そして問題が起こった際の迅速な対応の重要性を説きました。
このセッションの参加者の8割近くが海外案件に携わるプロフェッショナルであり、セッション中だけではなくセッション後にも積極的に質問をするなど、テーマへの関心の高さがうかがえました。
メインカンファレンス 2 日目の終了後は、セッションが開催された2階および3階のホワイエで、ワインやビールなどの飲み物が提供され、参加者は各々飲み物を片手に歓談を楽しんでいました。
いよいよ明日は最終日です。
報告者:ACFE JAPAN 事務局