2024年10月9日(水)、「第15回ACFE JAPAN カンファレンス」DAY.1を開催しました。DAY.1は、昨年に続き、ハイブリッド(会場参加+オンラインライブ+後日録画視聴)で開催。DAY.2は10月10日(木)より、事前収録録画視聴での開催です。DAY.2では昨年に引き続き、一部プログラムを選択制とし、少しでも異なるニーズに対応できるよう多くのプログラムを用意しました。
岡田譲治 氏(一般社団法人 日本公認不正検査士協会 理事長)
日本で2005年からACFE JAPANが活動を開始し、間もなく20周年。この間、企業における不正、不祥事が相次ぎ、リスクマネジメントや不正対策への意識が高まっています。不正行為は多様化、複雑化、グローバル化が進み、その防止と早期発見にはさらなる透明性の向上や内部統制の強化が組織に求められていること、当協会は会員数は3203人、CFEも約2000人を超え、会員の皆様への情報提供や各種会員サービスの充実を図り、少しでも実務に役立つ体制を整えるよう取り組んでいることなどを語っていただきました。また、岡田氏に続き、米国ACFE本部のJohn.D Gill会長から動画でACFE JAPANの取り組みを高く評価するメッセージが伝えられました。
久保利 英明 弁護士(日比谷パーク法律事務所 代表弁護士)
弁護士生活54年間の経験から体得した組織運営の要諦について、①組織運営不祥事のほとんど全てが業務執行者の独善と能力不足に起因することこと、②脆弱なガバナンスと内部統制システム不全により組織は致命的なダメージを受ける――という二つの結論から、自ら関与した多くの事例に沿って語っていただきました。
1971年の弁護士登録から十数年間は会社更生事件を手掛ける“倒産弁護士”として、商法改正によって利益供与罪ができ、金銭を受け取った方だけでなく渡した方も罰せられるようになって以降は総会屋対策に奮闘したこと。98年に日比谷パーク法律事務所を設立して以降は、社外役員として会社経営のガバナンスと内部統制システムを監督したり、不正が発覚した企業や組織の第三者委員会で調査に携わったりしたことなどを語っていただきました。
そのうえで、コーポレートガバナンスとは業務執行者を外部の人間がどうコントロールするかということであり、CEOにインテグリティー(誠実さ)のある人物をどう選ぶかが重要であること、トップを解任できる社内の人間は存在しないことから、トップを外部から監視する組織を作らないと内部統制は機能しないことなどを強調しました。最後に、人間は本来、弱い者だという「性弱説」を提唱し、弱い人間が不正に手を染めないためのモニタニングの必要性から、公認不正検査士の意義を強調しました。
工藤 靖 弁護士(長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士)
警察庁が今年3月に公表したランサムウェア攻撃の被害件数は高い水準で推移し、独立行政法人情報処理推進機構が今年1月に公表した資料は、ランサムウェア攻撃の被害に加えて、サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃や内部不正による情報漏洩の被害が目立っている。企業のサイバーセキュリティに対するこれらの脅威に対し、企業防衛の観点から備えるべきサイバーセキュリティ・ガバナンスの実践について説明。
ランサムウェア攻撃による情報漏洩、事業停止が発生した事例としては、2024年6月に起きた出版・メディア事業を含む会社とそのグループ会社でのシステム障害が挙げられ、外部への情報流出だけでなく、身代金の支払いなども報道され、同社は25年3月期業績予想で売上金の減少が84億円、営業利益の減少が64億円、特別損失が36億円になる見通しを公表したという。
こうした事例は、サイバーセキュリティ脅威の高まりと同時に、サイバーセキュリティ・ガバナンスの必要性を示したものであり、サイバーセキュリティの体制構築に関する経営責任について問われた訴訟では、広島高裁岡山支部(令和元年10月18日)は「あるべき内部統制の水準は実務慣行により定まると解され、その具体的な内容は取締役がその裁量に基づいて判断すべきものと」との判断があったことが紹介されました。また、内部不正に対するリスク対応の必要性と留意点については、情報持ち出し行為に対しては、適切なモニタリング体制の構築とその運用が不可欠であることを強調しました。
齋藤 栄功 氏(元 アスクレピオス社 社長)
医療経営コンサルタント会社・アスクレピオスを創業し、丸紅の名を騙って米投資銀行リーマン・ブラザーズ日本法人から総額371億円を詐取したとして、2008年に詐欺とインサイダー取引容疑で逮捕され、懲役15年の実刑判決を受けた齋藤栄功氏。2022年に仮釈放された齋藤氏は今年5月、自身が巨大な不正行為に及ぶ過程を描いたノンフィクション『リーマンの牢獄』を上梓、不正に手を染めた生々しい体験を語りました。
「丸紅案件」の発端となったのは、ノルマ達成のために丸紅契約社員が作成した1枚の偽造書類だったこと、嘱託社員の話に乗って丸紅の看板で信用力を補完し、投資銀行仲間の知恵を借りて単なる金銭消費貸借を巨額の大仕掛けに変えたことなどが語られました。
そのうえで、1通の債務存在確認の内容証明郵便を丸紅本社へ送付する者が誰もいなかったこと、監査法人の公認会計士の指導に従い、不透明な資金の流れを確認していれば事件は起こらなかったことなどを指摘、信用補完制度や監査結果の強制力のルール化の必要性を訴えました。最後に、問題なのは弱い自分ではなく、自己を守ろうとする自己であり、防衛しなければならないのが自己のみであるという状況を作らず、自分は常に他人に支えられているとの自覚が重要だと結びました。
パネリスト:
岡田 譲治 氏(一般社団法人 日本公認不正検査士協会 理事長)
齋藤 栄功 氏(元 アスクレピオス社 社長)
モデレーター:福岡 広信 氏(一般社団法人 日本公認不正検査士協会 専務理事/事務局長)
本対談では、アスクレピオス事件をケースとして取り上げ、CFEの観点から監査部門や会計部門のスタッフが未然に防ぐことはできなかったのかについて、組織と個人の両面から焦点を当て、ディスカッションを行いました。
岡田氏は「不正のトライアングル」として知られる「動機」、「機会」、「正当化」の三点を挙げ、齋藤氏に不正に手を染めた体験を振り返ってもらいました。齋藤氏は動機について、「一生懸命に仕事をしていた丸紅社員を出世させたかった」「外資系投資銀行で収入が上がり、それを維持するために一定のレベルで演じていかなければならなかった」と説明。機会については「当時は金融改革から医療改革への流れがあり、経営感覚の乏しい医療機関を自分の方法で活かしていく方法はないものかと考えていた」。正当化については、「外車を何台も購入し、そういう現実を維持することが生きがいであると思い込まざるを得なかった」など語りました。
また、司会の福岡氏の「後悔はありますか」との質問に対し、齋藤氏は「刑務所に入ったからと言って謝罪ができたとは思ってない。過去を消すことはできないし、過去を背負って生きていくしかない」。そのうえで、「刑務所に入っている人たちは皆、心に闇を持っている。闇に光を当てるのは何なのか。闇は一般的な感情よりも安い。それを高く売ること、私の場合は起業することで闇に光を当てていきたい」と語りました。
菊間 千乃 弁護士(松尾綜合法律事務所 代表パートナー 公認不正検査士) 八田 進二 氏(一般社団法人 日本公認不正検査士協会 評議員会 会長)
民放キー局フジテレビにアナウンサーとして入社後、不慮の事故をきっかけに司法試験に挑戦し合格、現在は弁護士業務だけでなく、多くの企業の社外役員を兼任し、テレビのコメンテーターとしても活躍されている菊間氏。22年9月にはCFEの資格を取得し、法曹家としだけでなく不正の専門家として活動領域を広げています。
対談では、相次ぐ企業不祥事に関連して、その根本的な原因は何なのか、日本企業の特質、社員の意識、経営者の倫理観などについて意見を交わしました。CFEのミッション、役割について問われた菊間氏は「検査する人と検査される人という関係があると上手くいかない。大事なことはみんなで良くしていく、見守るという形が不正検査の在り方だと思います」と持論を展開。
これに八田氏は「不正検査士の業務は不正の発見ではなく、不正の防止、抑止でなければならない。いったん組織に入ると組織に染まってしまうので、不正に手を染めてはいけないということを教育現場で徹底的に教えることが重要です」と応じました。
また、日本企業の課題について菊間氏は「自由度が少ない。人は裁量を与えられると頑張るものなので、現場の人たちが達成感をもって働けるためには裁量を与えることだと思います。下に権限を委譲すればいいのにそれが出来ないところに課題があるのではないか」と、上層部に権限が集中する日本企業の在り方に疑問を呈しました。
最後に菊間氏は「人権や権利はちょっと油断すると後退してしまう。不正の教訓を風化させてはいけないが、組織は楽な方へ行ってしまいがち。それぞれの企業で不正が起きたときにどう対応するか、常に考え続けてほしい」と語り、不正防止のために企業内での日々の積み重ねが大切であることを強調しました。
岡本 浩一 氏(東洋英和女学院大学 名誉教授)
本講演では社会心理学の観点から、不祥事を生む組織風土について、「属人風土」をキーワードにして、組織的違反を防ぐためには組織風土を改善し、属人思考を低くすることが必要であることを解説する。
講演内容
A.「大きな不祥事とは何か」
B.不祥事の直接原因と間接原因(芽と土壌)/日本の会議の特性
C. 組織風土とは何か
D. 組織風土の権威主義
E.「組織風土」直観把握の危険
F. 組織風土で最重要な要素
~属人思考 (person-oriented thinking style) vs. 属事思考 (issue-oriented thinking style)
G. CFE、監査部門の立場で組織風土の害を知る
H. 組織風土を「チェックし」「管理する」視点が必要
I. 意思決定者に求められる資質・自己鍛錬
野村 彩 弁護士(和田倉門法律事務所・公認不正検査士)
辻 さちえ 氏(株式会社ビズサプリ 代表取締役、公認会計士、公認不正検査士、一般社団法人日本公認不正検査士協会 理事)
柳 俊一郎 氏(フィリップモリスジャパン合同会社、倫理コンプライアンス所属、公認不正検査士、認定コンプライアンスオフィサー)
今年に入っても多くの不正・不祥事が発生しています。そして、そのたびに「ものが言えない雰囲気」「コンプライアンス意識の欠如」「リスク意識の欠如」といった組織全体の問題が指摘されます。同時に、そのような組織全体の問題を放置していた会社のガバナンスの問題も取り上げられ、特にガバナンスの一端を担う社外役員に対しては、不正・不祥事リスクの予防段階から、リスクが顕在化し大きな不祥事に発展した場合における企業価値の毀損を最小化するための行動まで、積極的な関与が期待されています。
この講義では、不正・不祥事に対してガバナンスが効果的に機能するために、社外役員が何をできるのか、そして何をできないのかについて、社内(執行側)と社外の双方の立場から、報道された不祥事事例や他社の好事例を用いて、ホンネも交えたディスカッション形式で議論を進めていき、社外役員の機能強化の実践にせまります。
西原 則晶 氏(EY新日本有限責任監査法人 アドバイザリーサービス本部 Forensics事業部 プリンシパルフォレンジックデータアナリスト)
モニタリングの高度化や効率化、DX化が求められている中で、不正リスクに対応するため当然のようにデータ分析を活用しようとする動きが各所でみられます。データ分析には従来から用いられているCAATからBIツールによる可視化、統計的分析、AIや機械学習などの分析手法やテクノロジーの活用が考えられますが、不正リスクに対応したモニタリング(以下、「不正リスクモニタリング」)の現場で実際に使うことはできるのでしょうか。またDX化を優先するあまり、データ分析が目的となってしまい、不正リスクモニタリング本来の目的を見失ってしまう事例も見受けられます。
本講演では、データ分析を使った不正リスクモニタリングはどうあるべきか、実際の現場ではどのような活用事例があるのか、など地に足の着いたデータ分析利活用について、皆様にご紹介してまいりたいと思います。
早川 真崇 氏(日本郵政株式会社 専務執行役(グループCCO・チーフコンプライアンス オフィサー)弁護士、公認不正検査士)
近年も様々な企業不祥事が発生し、社会問題となっています。当社グループも、2019年に発覚したかんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題について、2020年1月に策定した業務改善計画をもとに、信頼回復に向け、各種施策に取り組みました。2022年4月には、当社グループの経営理念の実現を目指し、グループ行動憲章を実践していくための、グループコンダクトを向上させる取組みについて、外部有識者による助言をいただき改善等に取り組んでいくため、グループコンダクト向上委員会を設置し、グループ統一の企業行動基準である「JP行動宣言」の運用状況やグループの内部通報制度等の運用状況等について評価等をいただきました。
2023年度からは、内部通報制度の適正な運用を確保するため、弁護士等の複数の外部専門家から構成される公正・中立な第三者機関(不服審査会)が個別の通報・相談等への対応に係る不服申立ての審査を行う不服審査制度を導入し、2023年度は、202件の不服審査が行われました。2024年度は、不服審査会をコンプライアンス部会とハラスメント部会の2部会制として機能強化を図り、不服審査を通じて把握した実務上の課題等に関して、定期的な改善提言を受け、制度の運用改善に活用するなど、PDCAサイクルを回しています。内部通報制度や不服審査制度については、利用者満足度の向上させることも目的として運用しています。
こうした不祥事後の当社グループの取組みについて、可能な範囲でご説明し、公認不正検査士等や企業でコンプライアンス等の業務に携わる皆さまのご参考になれば幸いに存じます。
阿部 哲治 氏(有限責任あずさ監査法人 アドバイザリー統轄事業部ディレクター 公認会計士)
崔 宰銘 氏(有限責任あずさ監査法人 アドバイザリー統括事業部 シニアマネジャー 米国公認会計士(カリフォルニア州))
不正インシデント発生後の再発防止体制を構築する際には、内部統制再構築・ガバナンス再検討等の短期施策は最優先取組事項ですが、二度と同じ過ちを繰り返さない企業風土の改善、従業員の働きがい向上(評価制度含む各種人事制度見直し、業務標準化・効率化等)といった人材面での施策、顕在化した不正だけでなく潜在している不正リスクへの予防的対応といった中長期の取組も重要です。実践例を交えながら、それらを解説します。
山岡 裕明 弁護士(八雲法律事務所)
昨今、内部者による機密情報の持ち出し事案が増加しています。転職者数の増加や情報のデジタル化といった要因が同事案の背景にあると推察され、今後は増加の一途を辿ることが予想されます。内部不正の中心的な事例となることが見込まれます。
こうした持ち出し事案については、不正競争防止法を中心とした法的対策のみならず、DXの推進やサイバーセキュリティの強化に伴って導入されたIT機器を活用した技術的対策が有用です。
本セミナーでは、サイバーセキュリティ法務を専門とする弁護士として、増加する機密情報の持ち出し事案に対して、実務経験を踏まえて、法的対策・技術的対策の両面から企業が押さえておくべきポイントを解説します。
安河内 誠 氏(税理士)
岸本 真 氏(元東京国税局国際税務専門官、税理士)
この講演は、企業の税務コンプライアンスの維持・向上のための国税庁の取組みと、国際税務に焦点をあてた企業の対応の必要性について説明します。
第一部では、税務に関するコーポレートガバナンス(税務CG)の重要性とその充実に向けた国税庁の取組みについて解説します。具体的には、国税庁が推進する税務CGの充実に向けた取組みの概要、目的、実施の流れ、評価方法、効果的な改善事例を紹介します。さらに、税務CGの実施の背景や他の法令との関連性についても説明し、経営責任者の積極的な関与の重要性を強調します。最後に、この取組みの今後の展望と企業全体のコーポレートガバナンスとの関係について触れます。
第二部では、国際税務に関するコンプライアンスに焦点を当て、特に近年注目されているOECD主導の税制改革について議論します。ビジネスがデジタル化・ボーダーレス化する中で発生する新たな課税の問題に対応するための準備として、デジタル課税(第一の柱)、グローバルミニマム課税(第二の柱)、および移転価格に関する基本的な対策を中心に説明します。これらの改革が企業に与える影響と、それに対応するための実務的な手法についても考察します。
最後に、講演者二人が講演全体を総括し、聴衆の理解を深めるための議論を展開します。
中島 祐輔 氏(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 フォレンジック & クライシスマネジメントサービス統括 パートナー)
2022年に続き、デロイト トーマツは「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2024-2026」を発行しました。本白書は、日本企業における不正・不祥事の実態、危機意識、取り組みの傾向を集計・分析したもので、2006年の初回から数えて9回目の調査となります。
今回の調査では、今般報道されている不正・不祥事が法令違反に及び、ガバナンス不全によると思われるものが、これまで以上に増加している状況を踏まえ、各社のコンプライアンスおよびガバナンスに対する意識、取り組み状況を重点的に分析しています。これらの調査結果を「不正・不祥事の実態」「コンプライアンスの取り組み」「ガバナンスの取り組み」の3つに分類し、日本企業の不正・不祥事対応の最新傾向を解説します。
古村 達也 氏(株式会社FRONTEO リーガルテックAI事業本部 担当部長)
CFE(公認不正検査士)や会計・法律の専門家にとって避けて通れないのが、会計不正をはじめとする企業不正の発見や対応です。
FRONTEOは、第三者委員会や特別調査委員会による調査の支援実績を持つ不正調査のプロフェッショナルです。
本セッションでは、FRONTEOが開発したAI「KIBIT」を活用したフォレンジック調査の事例やメリットに加えて、専門家の情報発信と企業法務の情報収集をサポートする動画プラットフォーム活用法についてご紹介します。