著者:宮内 義彦、八田 進二
進行:堀篭 俊材
書評:岡田 譲治
一般社団法人日本公認不正検査士協会 評議員公認不正検査士
元 公益社団法人日本監査役協会 会長
本書は経営者として海外経験も豊富な宮内義彦氏と監査論の研究者であり、社外取締役などとして数多くの企業組織改革に取り組んできた八田進二氏が、ガバナンスの実態、課題、あり方、未来を議論するものだ。ガバナンスが人口に膾炙する前からその重要性を説いてきた二人である。目次を見ると、「元検事総長も不正を見抜けなかった」、「経営者は『選択と集中』をしてはいけない」、「トップ100社の半分を外国人社長にせよ」など、すぐに読みたくなるようなタイトルが並んでおり、既に知識 のある方には関心のある項目から読み進めることをお勧めする。過去の不正事例、用語の説明などの注記が、同じ頁の下部にあるという工夫も助かる。
第I部では、ガバナンスの基本思想について、宮内氏が「ガバナンスの必要性」を、八田氏が「ガバナンス改革の課題」について述べている。宮内氏は日本の企業経営が今一度世界に羽ばたくために、コーポレートガバナンスをもう一度基本からつくり上げる必要があると説き、八田氏は日本のガバナンス改革はまだ途上にあるどころか、欧米と比べれば何周も遅れていると危機感を強くしている。第II部では7章にわたり体験に基づくガバナ ンス、理想と現実、日本流ガバナンスの限界など、経験豊富な両氏だからこそ語れる幅広い視野での議論が繰り広げられている。
本書で両氏が一貫して主張しているのが、ガバナンスは攻めるため、その組織の目的を叶えるためにある、攻めるためにこそ不正の防止などが必要なのだ、という点だ。最近の企業不祥事が、ガバナンスが最も進んでいるとされる指名委員会等設置会社で起っていることを捉え、形だけのガバナンスで実がないとうまく機能しないと警告し、会社の機関設計をどう回していくのかは歴代の社長がどう考えるかにかかっている、とする。
機関設計の問題では、両氏は監査役設置会社など3つの機関設計についてそのいずれも完璧ではないとしている。宮内氏は、指名委員会等設置会社を理想としているが、取締役会を超える権限を指名・報酬委員会が持つことは制度として欠陥だと批判する。八田氏は会社法の監査役制度の前提で、取締役に対して相互に監視・監督を求め,社外取締役制度を導入したことで、混乱が起きていると指摘する。両氏とも監査等委員会設置会社には批 判的で、ブレーキばかりのガバナンスになることを危惧している。
いずれの機関設計であっても,取締役本人の資質の問 題だけではなく、彼らを支えている事務局の体制、スタッフの能力によるとし、常勤スタッフがよく働いているところは信頼性も高いという。現行の制度下での機関設計の検討にあたり参考になるだろう。
宮内氏は社外取締役に経営者出身者が少な過ぎると苦言を呈する。一方、八田氏は経営者出身者でも自分がどういう役割を担っているのか理解せず、全社的な目で考えていない、株主目線が希薄な経営者出身者は困ると指摘する。
会社側も社外取締役をお客扱いせずに包み隠さず話すべきという点は両氏の共通の認識だ。
最近話題になっているサステナビリティについては、宮内氏は環境問題など社会課題を解決するために必要な規制は法律で規制してほしい。その範囲内で企業活動を 自由にやる方が効率は上がるとする。
最後に、「ガバナンスの未来を占う」として、「環境や人権、多様性といったさまざまなものに目配りしながら、積極的に関与することが、どの企業にも求められる時代になった」、「企業だけでなく、日本社会全体が健全で発展を目指すためにも、あらゆる領域において、有効なガバ ナンスが機能することが不可欠だ」とまとめている。
対談形式なので気軽に読めると思ったが、山積する課題を突き付けられて大いに考えさせられる充実した内容だった。本書は実践的なガバナンス解説書であると同時に、自社の機関設計を見直す際に参考にすべき必読書である。
宮内 義彦(みやうち・よしひこ)
1935年神戸市生まれ。64年オリエント・リース (現オリックス)入社。70年取締役、80年代表取締役社長・グループCEO、2000年代表取締役会長・グループCEOを経て、14年シニア・チェアマン就任、現在に至る。これまで総合規制改革会議議長など数々の要職を歴任。現在、日本取締役協会会長、新日本フィルハーモニー交響楽団理事長などを務める。主な著書に『経営論』(東洋経済新報社)、『リース の知識』(日本経済新聞出版社)、『世界は動く』(PHP研究所)、『グッドリスクをとりなさい』(プレジ デント社)、『私の経営論』(日経BP社)など他多数。
八田 進二(はった・しんじ)
1949年名古屋生まれ。青山学院大学名誉教授、大原大学院大学会計研究科教授、博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。一般社団法人日本公認不正検査士協会評議員会長、日本監査研究学会会長、日本内部統制研究学会会長、会計大学院協会理事長、さらに複数の企業の社外監査役等を務める。主な著書に『「第三者委員会」の欺瞞』『鼎談 不正—最前線 これまでの不正、これからの不正』『会計 プロフェッションと監査―会計・監査・ガバナンスの視点から—』『会計・監査・ガバナンスの基本課題』など他多数。
堀篭 俊材(ほりごめ・としき)
1989年朝日新聞社に入社。2015年より編集委員。
出版社:同文舘出版
発売日:2022年4月22日 単行本:260ページ 価格:2,200円