今般の会社法改正により、「監査等委員会設置会社」という新たな機関設計の選択肢が生まれることになった。機関設計は経営監視機能に大きな影響を与え、その意味で、コーポレートガバナンスを考える際の重要な論点である。このコーポレートガバナンスに関しては、①会社は誰のものか(誰のために運営されるべきか)、②会社はどのように運営されるべきか、についての論争も絶えない。
一方、このコーポレートガバナンスと似た響きを持つ用語に、コンプライアンスがある。コンプライアンスに関しては、「何を遵守するのか」という論点に関して議論がなされることも少なくない。コンプライアンスが、時として法令遵守といわれるように、狭義の解釈では、「法令」が遵守の対象とされるが、最近では、コンプライアンスの遵守の対象は、法令に限られず、より広く企業倫理や社会一般の規範にまで広がっている、と解釈されることが多い。
いずれも、専門家の議論としては重要ではあるが、しかし、何か味気なく、心に響かない議論のように感じられる。個人的には、「企業は、社会市民としていかに行動すべきなのか」を議論するほうが、より前向きで重要なのではないかと思う。その場合、「国連グローバル・コンパクト」の 10 原則を検討してみるのも悪くない。
この「国連グローバル・コンパクト」は国連事務総長室の傘下にある組織の一つで、「各企業・団体が責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって、社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み作りに参加する自発的な取り組みである」と説明されている。「国連グローバル・コンパクト」は、①人権擁護の支持と尊重、②人権侵害への非加担、③組合結成と団体交渉権の実効化、④強制労働の排除、⑤児童労働の実効的な排除、⑥雇用と職業の差別撤廃、⑦環境問題の予防的アプローチ、⑧環境に対する責任のイニシアティブ、⑨環境にやさしい技術の開発と普及、⑩強要・賄賂等の腐敗防止の取組み、の 10 の原則を定めている。この原則の背景には、「世界人権宣言」「労働における基本的原則および権利に関するILO宣言」「環境と開発に関するリオ宣言」「腐敗防止に関する国連条約」という宣言・条約が存在しており、その意味では、この 10 原則は、遵守すべき法令ルールの上位概念として位置する原則、と考えることも可能であろう。
企業活動を通して国連の宣言や条約の実現に貢献する、と考えると、コーポレートガバナンスやコンプライアンスに関する議論も、もう少しわくわくするものに感じられるかもしれない。そのように思う今日この頃である。
ACE コンサルティング株式会社代表取締役 公認会計士、公認不正検査士
ACFE JAPAN 理事