上場会社を中心に、コーポレートガバナンス改革の話題が花盛りである。会社法の改正により、社外取締役の導入が事実上義務付けられたことはご承知のことと思う。トヨタ、キャノン、新日鉄住金、東レなど、名門企業が次々と社外取締役の選任を決め、もはや社外取締役導入は当たり前の時代となり、今後は「複数導入を義務付けるべきか」といった議論にまで進みそうな勢いである。
ところで、社外取締役の役割論については、不祥事防止(コンプライアンス経営)のための役割、モニタリングモデル(経営者の業績評価)としての役割、少数株主の代弁者としての役割など、識者の立場によって様々な意見が聞かれる。自民党の成長戦略において期待されているのは、企業の新陳代謝を促し、自力で成長できる企業の再興ということであるから、原則としてモニタリングモデルとしての社外取締役の役割が期待されているのであろう。社外取締役の選任により、市場に海外から資金が集まることにもつながるものと思われる。
ただ、私はあまり社外取締役の役割論にこだわる必要はないと考えている。社外取締役として、組織のマネジメントに真摯に参画し、企業価値向上に寄与することが、併せてコンプライアンス経営の向上につながるものと思うからである。たとえばオリンパス社で発生した損失飛ばし・飛ばし解消スキームに関連する不祥事について、「オリンパス社には、事件当時3名もの社外取締役が存在したが、不正を発見することはできなかった、したがって社外取締役など(不祥事防止には)役に立たない」と言われた。
しかしこれはおかしい。海外子会社の買収における「異常に高額な手数料」に異を唱えることは、社外取締役に不祥事防止のためのスキルなどを求めなくても可能なはずである。通常は買収金額の数%が相場である手数料が、なぜ30%にも上るのか、その合理的な説明を経営者に求め、納得できなければ、
機関決定を延期させて、自らもセカンドオピニオンを求めればよいのである。組織のマネジメントに熱心に取り組むなかで、健全な違和感を示しさえすれば、十分に不正は防止できるのである。むしろ必要なのは社外取締役としての「あたりまえの職業意識」であろう。
不正発見の専門家でもない社外取締役が、あたりまえの職業意識に基づいて違和感を抱いたとき、これを助けるのが法律や会計の専門職であり、また、社内、社外のCFEである。明確な職業意識を持った社外取締役が増えることは、今後CFEの活躍場面も増えることになるはずである。今後のコーポレートガバナンス改革の進展により、CFEへの期待は高まることになり、その期待に応えるべく我々もスキルアップを怠ってはならない。
山口 利昭 法律事務所 弁護士 公認不正検査士 ACFE JAPAN 理事