近時の経済ニュースで大きな話題といえば、ビットコイン騒動であろう。「仮想通貨」などと呼ばれ、著名な経済評論家までも新たな投機の対象として紹介していただけに、そのショックは小さくない。マウントゴックス社破たんの原因はこれから調査され公表されると思われるが、現在は、ハッキングによるビットコインの喪失とされている。企業が、外部攻撃、内部での不正により、被害を受けることがある。このような場合の対外的対応の在り方について、企業が判断を失敗することが多いので留意すべきである。すなわち、自分たちが何か悪さをして迷惑をかけた場合の謝罪、情報公開などの対応については、他社の様々な失敗の積み重ねから学んでいる企業は多くなってきている。
しかし、自分たちは悪いことをしていない、むしろ、被害を受けた側なんだ、という要素がある事案において、つい、「自分達こそ被害者だ」という思いがあちらこちらで顔を出す結果、社会の反感を買い、さらにひどい状況に追い込まれるということがある。結論を先取りすれば、現在の企業コンプライアンスの水準は、企業の被害者面を許さないというものになりつつあるということである。
仮に、企業に何らの落ち度もなく、純粋な被害者であったとしても、その結果さらに迷惑をこうむった人がいる、特にそれが一般の消費者など不特定多数の方々に迷惑をかけた事例においては、自社不祥事に準じた対応を取らなければならないのである。典型的なのが、情報漏えい事案である。過去、個人情報がハッキング等によって漏えいした事例で、被害者面をしてしまい、担当部長レベルの会見でお茶を濁そうとしたと受け止められて反感を買い、結果的に予想外の賠償と社長の謝罪会見をする羽目になった有名な事案がある。
企業としては、不正な攻撃を受けた被害者であり、自社の不正ではないと言いたくなるのが人情だが、現象としてはその企業から情報が漏れたのであり、原因の所在はさておき、情報が漏えいしてしまった方々にしてみれば、「その企業から情報が漏れた」ことには変わりがないのであり、「私たちも被害者なんですよ」などと企業が発言すると、「こっちこそ被害者だ」と反発したくなり、その企業に対する反発を強めてしまう結果になってしまう。過去、「私も寝ていないんだ」と発言して会社をつぶした事案があるが、自分も被害者だという意識を捨て去ることが、なかなか、できないものである。
反社会的勢力対応にも、似た事情がある。例えば、経営陣が総会屋に弱みを握られ、ゆすられたとする。刑事事件としては、恐喝事件の被害者であるはずであるが、いま、このような状況であっても金銭提供すると、むしろ反社会的勢力に金銭を交付した側として、れっきとした「加害者」として扱われ、株主代表訴訟の被告となる。このような現状が正しいかどうかは、のちの歴史が判断することであるが、今を生きる企業としては、たとえ自らが被害者となった事案であっても、他により被害を受けている方々がいる事案は、「自分たちは、世間から見れば加害者側にいるのだ」という意識を持ち、諸対応に当たらなければならないことを、肝に銘じるべきであろう。
弁護士法人北浜法律事務所 弁護士、
公認不正検査士、
ACFE JAPAN 理事