不正の端緒は,内部通報であったり,取引先からの問い合わせであったり,その形態は様々であるが,いずれにしても不正が行われている兆候を示す事実や情報である。この不正の端緒を把握するためには,「違和感」が大事となる。不正の端緒に接した時に,「何かおかしい」と感じるかどうかが不 正発見に至るか否かの分水嶺となる。様々な不正の端緒に接していたとしても何もおかしいと感じなければ,端緒は目の前を通り過ぎていくだけで あり,ゆえに端緒を把握するための「違和感」が大切となる。そして,この「違和感」は,「懐疑心」という言葉で表現し得るものである。
現在,企業会計審議会監査部会において,監査における不正会計への対応について議論がなされており,不正対応基準の策定等が検討されている。 http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/kansa/20120725/03.pdf
金融商品取引法における財務諸表に係る監査証明制度は,証券市場における適正な開示を担保するために,企業とは独立の第三者である公認会計士又は監査法人による財務諸表の適正性に関する監査を求めたものである。監査証明制度は,上場会社に任意に財務諸表の作成を委ねた場合には,不正や誤謬に基づく虚偽表示が想定されるため,開示制度の実効性を担保するために設けられた制度である。
このような監査証明制度に係る監査における不正会計の発見は,不正会計の手口を知り,その兆候が財務諸表にどのように表れるかを熟知した監査及び会計の職業的専門家である公認会計士の職業的懐疑心に基づく「違和感」によりその端緒が把握され,その時点で,平時から有事の発想へと切り替えられ,深度ある監査手続が実施されることにより不正会計の発見に至ることとなる。深度ある監査手続とは,不正会計の兆候を把握した場合において,不正会計が行われているか否かを見極めるための監査手続であり,単に試査の範囲を広げたり,実施すべき監査手続を増やしたりすることではない。
不正会計の発見は,端緒の把握から始まる。
そして,端緒の把握は,監査人である公認会計士の職業的懐疑心に基づくものである。企業会計審議会等の様々な場において,監査における不正会計への対応が議論されることは有用である。しかし,大事なことは,基準云々の話ではなく,この職業的懐疑心の在り方に尽きると考える。
公認会計士 宇澤事務所代表
公認会計士、公認不正検査士
ACFE JAPAN 理事