2013 年 3 月 26 日に金融庁企業会計審議会は「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」を公表し、昨年 5 月 に始まった約 1 年間の同監査部会での不正による重要な虚偽表示のリスクに対応した監査基準の見直しもこれで一段落がついた。
この動きは、2011 年のオリンパス事件や大王製紙事件などの財務諸表不正の発覚により、「監査が有効に機能しておらず、より実効的な監査手続き を求める指摘」などとして再びクローズアップされた監査の「期待ギャップ」議論を始まりとしていた。資本市場の信頼の基盤である監査の実効性を高 めようとする今回の議論は意義が大きかったと思う。しかしながら、全ての資本市場の関係者は、その社会一般の「期待」が大きすぎないか、そして、 監査による不正の発見には限界があることを考えなければならない。企業不正の実行者は自分の手口が「発見されない」という自信のもとに犯行に 及ぶ。つまり不正は犯行者により隠ぺいされるので発見が困難になり、「不正は発見することより防止することがコスト・エフェクティブである」と 言われるのである。それゆえに、企業の経営者、そして資本市場の全ての関係者は「企業不正は、企業自身が防止し、発見し、対処する自浄力を持 たねばならない」という基本を忘れてはいけない。
財務諸表不正だけではなく、品質や安全に関する不正も企業の信用を毀損し、企業価値を大きく損ねる。企業はイノベーションを目指して、事業 の拠点を本社から目の届きにくい遠隔地、言葉や宗教、習慣の違う海外へと広げ、組織内に多様性を受け入れ、それまで経験のあるコア・ビジネスとは別の新規事業に乗り出している。日本経済新聞社の上場 2,080 社の調査1 では、連結子会社数は増えており、数百社を超す子会社を持つ企業は珍しくない。これらの調査対象企業だけで連結子会社総数が 4 万 6 千社、つまり 4 万 6 千人の社長がいて、それぞれに財務報告に係る内部統制や企業不正防止のプロセスを運用している。子会社の不正であっても親会社グループの名前で報道されるのであり、企業不正のリスクは複雑化するばかりである。経営者が自らの責任において、企業不正リスク管理方針を明確化し、不正リスクを評価し、防止、発見、対処する体制2 を整えているかを、資本市場のガバナンスを構成する監査人、監査役、取締役、そして株主自身も継続的に監視していくことが必要である。
立教大学 大学院 ビジネスデザイン研究科 特任教授
The Japan Society of USCPAs(日本における米国行員会計士団体:JUSCPA)副幹事長
博士(経営管理学)立教大学、USCPA(イリノイ州)、公認不正検査士、公認内部監査人、米国公認管理会計士、米国公認財務管理し、サーティファイドフィナンシャルプランナー®
ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン副社長、ハリー・ウィンストン・ジャパン社長など外資系企業のマネジメントを歴任。