職業犯罪とは、企業や組織に属する個人が、その身分・立場を利用して、金銭をはじめとした個人的な利得のために行う違法行為を指す。
この事件は、アメリカで実際に起きた史上最大級の巨額詐欺事件である。詐欺は 25 年間もの間続けられ、その被害総額は 650 億ドル (およそ 6 兆円) にも及ぶ。被害に遭ったのは、ハリウッドスターのケヴィン・ベーコン、ジョン・マルコヴィッチや、映画監督のスティーブン・スピルバーグなどの数々の著名人をはじめ、大手金融機関も含まれており、日本の銀行や証券会社にまで被害が及んだという。しかし、その手口は Ponzi Scheme (ねずみ講) という実に単純なものであった。
この事件の主犯はバーナード・マドフ (Bernard Madoff)。彼はマドフ証券という証券会社の創業者であり、成功者であったにもかかわらず、詐欺を行った。そして、彼が個人的に運用していた「マドフ投資会」を通してねずみ講が行われていたのである。
彼の行った不正行為は、郵便や通信を使用した、証券詐欺、投資顧問詐欺である。
しかし、問題は彼の人物像である。彼は、知的で魅力に溢れ、慈悲深く、周りからはいわゆる"とてもいい人"と呼ばれ、信頼を得ていた人物であった。そう、表向きは・・・。
被害者の数多くは、ときおり涙ぐみながら「彼はすごくいい人で、あんないい人が・・・。ただただ、なぜ、という気持ちです。あんないい人に・・・。騙されたことが信じられない」と言う有様である。高潔な男だったのか、または、狡猾な男であったというのか・・・。
前回、テレマーケティングにおいて、"Trusted Criminals = 被疑者を信用してしまう"という点について述べたが、この事件は、まさにこの Trusted Criminals という言葉がぴったりである。多くの被害者がマドフを信用してしまい、投資してしまったのだ。そしてここでの特徴は、被害者の多くは、ビジネス上の知り合いや顧客であった。マドフと関わりのある者がターゲットにされ、そして、その多くは自分の家族をも巻き込んだ。被疑者のマドフさえ家族を失うことになる。事実、長男マーク・マドフ (Mark Madoff) は、48 歳という若さで首を吊って自殺した。
被害者の多くは「この事件は、刑事事件、殺人や暴行事件と同じだ。罪のない人を巻き込んで、生活をメチャクチャにしているのだから。それなりの制裁を・・・。私達はすべてを失ったんだ」と訴えた。(この人物の表の顔と裏の顔の分析は、今後セミナーなどで取り上げる予定だが) 皆さんはこの事件をどう処断すべきだと考えるだろうか? 凶悪事件と同様に扱うべきなのか? それとも、人に危害が加えられていない以上、重罪とすべきでないと考えるのか? また、同時に、詐欺や横領などのホワイトカラー犯罪と、それ以外の刑事事件との相違点も問わねばならない。手口はどうであれ、被害者は生活を失い、また、被疑者までも家族を失ったという現実があるのだ。
結局、バーナード・マドフは、このねずみ講詐欺で、最大 150 年の懲役判決受けた。
そして、忘れてはならないのは、この事件を CFE (公認不正検査士) が解決に導いたことである。
その名もハリー・マーコポロス (Harry Markopolos)(CFE, CFA)。彼は、アメリカ証券取引委員会 (Securities and Exchange Commission) に、いち早くマドフの投資詐欺の可能性を指摘した。彼は、マドフが詐欺師であると云う自分の勘を信じ、取引委員会に訴え続けたのだ。
次回は、そのマーコポロスのインタビューを紹介する所存です。
株式会社ディー・クエスト 公認不正検査士 山本 真智子