米国には、いくつかの大学に、このForensic Science (法科学) を学ぶ学部が存在する。この学部では、化学、物理、生物など理系の分野と、心理学、行動科学などの文系の分野の両面から、犯罪へのアプローチを試みている。
法科学とは、簡単に言ってしまえば、科学と技術を使用して犯罪を解明しようとする学問である。一般的には、現場に残された指紋、筆跡、血痕、骨格などの物的証拠を集め、科学の力を最大限に利用して、犯行が行われた過程や、加害者・被害者と犯行現場との繋がり、加害者・被害者の特定や絞り込みに有益な情報などを明らかにして、法廷に提出する証拠を提供したり、法廷で証言をしたりする。これは、刑事事件における鑑識の領域にあたる。
今回は、不正検査士マニュアル「不正調査」の「文書の分析」で取り上げられている、指紋について触れたい。
指紋は、法科学において最も歴史の古い、また重要な証拠であると言われている。まだ指紋照合が使用されていなかった時代、加害者の特定には、アルフォンス・ベルティヨン (Alphonse Bertillon 1853-1914) が考案した Bertillon System Anthropometry (ベルティヨン式人体測定学) が使用されていた。これは、顔、頭、鼻などの大きさ、腕、脚などの長さから人物の特定を試みる方法である。
しかし、1903 年、カンザス州レブンワース刑務所にウィル・ウエスト (Will West) という人物が収監されたときに問題が起きる。ベルティヨン式人体測定学に基づいて測定した結果が、以前から収監されていた囚人と同一だったのだ。このままではこの二人について個人を特定できないため、それを可能とする新たな要素が必要となった。そこで、研究段階にあった指紋による個人識別が注目される。フランシス・ゴルトン (Sir Francis Galton) は、二人の囚人が持つ指紋がそれぞれ異なることを証明し、指紋を利用した犯罪者の特定という捜査方法の確立に貢献した。
指紋の特徴として、真皮と呼ばれる層に損傷が起きないかぎり表皮に現れる紋様である指紋は生涯を通じて変化せず、また、指紋は他人と同一になることのない個人固有のものであることが挙げられる。
長い歴史のある指紋ではあるが、基本的な指紋のタイプは次の 3 つである。皆さんは、どのタイプに当てはまるだろうか? 各自の指紋をぜひ見てみてほしい。
指紋の一例を掲載する。同じ名前のものもあるが、それぞれの形に注目して欲しい。[図5]
現代においても、FBI で AFIS (Automated Fingerprint Identification Systems, 自動指紋識別システム) と呼ばれるコンピューターによる指紋照合システムが使用され改善され続けているように、指紋は依然として犯罪捜査において重要な要素と位置付けられている。
次回は、同じ法科学の分野から、不正検査士マニュアル「不正調査」の「文書の分析」で取り上げられている、Questioned Documents (印刷文書) と Handwriting (筆跡) についてお話する所存です。
株式会社ディー・クエスト 公認不正検査士 山本 真智子