CFE (公認不正検査士) 資格の成り立ちをご存知だろうか。
CFE 資格は、現在では不正対策の専門家を示す資格として発展しており、企業にお勤めの方にも広く普及しているが、当初は組織内不正 (企業内不正) を担当する捜査官向けに設けられた資格だった。FBI の捜査官であり、後の ACFE 設立者である Joseph T. Wells 博士が、組織内不正の捜査・調査を行う捜査官に必要な知識として、従来の捜査・調査に関する知識や技法だけではなく、会計の知識も併せ持った専門家 (捜査官) の必要性を感じて設けられたのである。
その Joseph T. Wells 博士もそうだったが、米国には刑事事件と同様に組織内不正の捜査・調査を担当する Fraud Investigator と呼ばれる捜査官が存在する。
捜査官と書くと一言だが、日本と米国では大きな違いがあり、米国の捜査官は、管轄や権限の違いにより複数の種類がある。
セミナーなどでも度々質問を受ける、この米国の捜査機関について説明しよう。
米国は連邦制の国である。連邦制とは、簡単に説明するなら小さな国 (州) が集まってひとつの国を形成しているような形態を取る制度である。
それぞれの州は主権を持ち、国とは別に立法・司法・行政を執り行える。そのため、米国というひとつの国の中でも、州ごとに法律や行政は大きく異なる。それらに基づいて設立・運営される法執行機関についても同様である。
ただ、大きな枠組みとしての種類分けはできる。それは、地方、郡、州、連邦という管轄の違いである。
地方を管轄するのは、地方警察 (local police) である。基本的には、地方自治体 (市区町村のような単位) を対象とする。郡全体を対象とする場合は郡警察とも呼ぶ。これは、日本で言う警視庁と各県警のようなものだと考えてもらうとよい。
地方警察は、管轄する地域のパトロールや、そこで発生した犯罪の捜査を担う。
州全体を管轄するのは、州警察 (state police) である。
州警察は、ハイウェイ パトロール (高速道路での交通違反の検挙) のような郡の管轄を越える捜査や、緊急事態における地方警察の支援を主な任務とする。
警察は、青少年への教育・指導や、自警団などのコミュニティ活動の調整、パトロールなどを通じて犯罪の防止・抑止に努めている。
緊急通報 (日本における 110、米国では 911) や住民からの苦情への対応、犯行現場からの証拠収集なども行うが、捜査指揮権は持たないため、法で認められた例外を除いて、自分たちだけでは事件を解決できない。
警察とは別に、保安官 (sheriff) という存在がいる。保安官は、地方や州を管轄する法執行機関である。郡において、警察権と行刑を司る法執行機関であり、州の法律を執行する権限を持つ。日本で言う、警察官、検察官、執行官、刑務官、保護観察官のような立場にあたる。
保安官は、州ごとに差異はあるが、警察官と同様の活動に加えて、刑務所の管理、囚人の移送、裁判所の運営・警備、裁判所令状の送達、判決に基づく差し押さえ、差し押さえ物件競売の運営など、幅広い業務と法執行の権限を有している。
保安官に司法権を認める州では、選挙により保安官が選出される。
最後に、皆様もご存知の FBI (Federal Bureau of Investigation, 連邦捜査局) である。
FBI は、連邦法の違反を管轄する捜査機関である。ワシントンに本部を置き、米国内に 54 の地方支部を有する。
FBI が担うのは、国家的な犯罪や州をまたぐ広域犯罪の捜査である。映画やドラマで取り上げられているように、スパイ対策、密輸、貨幣偽造、誘拐、州をまたいだ逃亡犯の追跡などが対象であり、最先端の科学やプロファイリングを用いた捜査も実際に行われている。
株式会社ディー・クエスト 公認不正検査士 山本 真智子