今回は、会報誌 FRAUD マガジン VOL.60 の記事「命取りとなる、放火と不正の結合 (Arson and fraud mix in a deadly combo)」を絡めて、放火と不正の関係について取り上げよう。
なお本稿は、会報誌をお持ちでない方々にも配慮している。
放火と不正? 何の関係があるの? と首を傾げる方も多いだろう。
放火の調査と不正の調査には類似点が多く、たとえば放火の疑いが強い事件において、放火調査官は不正検査士が調査を行うように、なぜ犯人は罪を犯したのか (放火をしたのか) について、犯罪学的・法科学的な (鑑識の) 観点から考察する。
言い換えるなら、放火が疑われる事件にあたる放火調査官は、その全貌を暴くために「動機」の理解と理論の構築から着手する。これは不正検査と同じである。(「動機」については「#19 「不正のトライアングル」構成要素のひとつ「動機」について」で取り上げているのでご覧いただきたい。)
Bartol によると、放火とは「故意かつ悪意のある、財産の燃焼。家屋、公共建物、車等、個人的財産を含む」(p.463 より著者拙訳) とされ、Bartol および FBI の犯罪分析マニュアルでは、その目的として次の 6 分類が挙げられている。
※Bartol (pp.466-467)、FBI 犯罪分析マニュアル、などから筆者まとめ
自らの利益を得るための放火は、ほとんどの場合「経済的目的」による。しかし、厳密には「犯罪隠蔽や偽装工作」を含めてもよい。なぜなら、横領など自らの犯罪の証拠を隠蔽するために放火という手段を取る犯罪者もいるからだ。
強い権力を持つ看守役を与えられた人間と、隷従させられるばかりでまったく権力を持たない囚人役を与えられた人間が、限定された空間内に置かれると、次第に歯止めが利かなくなり、暴走し始める。
スタンフォード監獄事件で着目すべき点は、それぞれの立場の違いが個人の有する性格や人格を上回り、特定の振る舞いを促すというところである。
これを「非個人化 (Depersonalized)」という。
この作用は、狭い刑務所でのみ起きるものではなく、職場のような場所でも生じうる。上司、部下、同僚、取引先のような仕事上の関係が固定された状態で毎日が繰り返されており、その関係が個人の振る舞いに影響を与えるのは想像に難くない。
つまり、企業内で強い権利を持つ経営者や管理職のような者は、正しい倫理観・価値観で自らを律し続けないと、いずれその関係性から本来の自分では取りえないような振る舞いを取り兼ねないのである。
皆さんの職場にいる人、いや、皆さん自身も、そのような影響を受けていないだろうか?
是非とも一度、確認してみて欲しい。
株式会社ディー・クエスト 公認不正検査士 山本 真智子