不正のトライアングルは、「動機」「機会」「正当化」の 3 要素で構成されている。これについては「犯罪学コラム #10 世界をだました男 フランク・アバグネイル Jr. と不正のトライアングル」でも取り上げているのでご覧いただきたい。
今回は、この「不正のトライアングル」の構成要素のひとつ「動機」について考える。
動機。それは、不正の実行だけではなく、人が行動するうえで非常に重要な要素である。
犯罪学や不正のトライアングルにおいては、これこそが最も注視すべき部分であり、ここを見極めなくては不正実行犯の理解は不可能であると言っても過言ではない。
自分や他人の行動が、おおよそ理解の範疇 (はんちゅう) から外れているとき、その理解には、行動の背後にある動機の理解がとても重要である。
行動へと直接結び付く「動機」や行動へと駆り立てた「動機付け」にも種類があり、生物的な欲求に基づく基本的動機 (一時的欲求) と社会で生活する中で生まれる欲求に基づく社会的動機 (二次的欲求) がある。
人や動物が取る主体的な行動には、必ず何らかの動機が存在する。不正を犯すのも、不正を実行しようとする動機、あるいは、不正を行わなくてはならない動機があるからである。
しかし、同様の境遇に置かれていても、人により行動は異なるし、また、同じ人でも異なる行動を取る場合がある。また、人には感情があり、これも行動に大きく影響する。
これらについて、次のように記述されている。
このように、人や動物を行動に駆り立てる原動力となっているものを、動機、要求、欲求、動因とよび、更にそのような原動力が行動に導く全過程を動機付けとよぶ。[※1]
感情、情緒、気分などと呼ばれ、心の中で感じるだけでなく、表情に表れ、行動に反映する。身体的にも冷汗をかいたりと変化が現れる。この過程全体を情動と呼ぶ。[※1]
これらを踏まえて、行動に至るまでの経緯を考えてみる。ここで取り上げる「行動」とは、言動のみならず、仕草、表情、意識など、何らかの形で発露した動作を表す。
たとえば、目の前にプレゼント箱が置いてあるとしよう。この箱を開けるという行動までには、おそらく次のような過程を経る。
似たような状況でも個人の評価 (=心的態度) により行動は異なる場合がある。
内容の見当がつくダイレクト メールの封筒がある。ある人は、いらないからとそのまま捨ててしまうかもしれない。しかし、別のある人は、一応中身を確認しておこうと開封するかもしれない。
これらをまとめたものが次の図である。
この図に照らし合わせて、もう一例考えよう。空腹の人が食べ物を食べるという行動に至るまでの流れだ。
これを犯罪行動に置き換えてみよう。
人が犯罪行動に至るまでには、動機に加え、犯罪行動に着手する「きっかけ」(Trigger) が必要とされる。
これらをまとめたものが次の図である。前掲の図と対比してみてほしい。
こちらも最新米国トピックス「How one fraudster rationalized his crimes (不正実行者が自らの犯罪を正当化するまで)」の Chuck Gallagher (不正実行犯) を例に考えてみよう。
これら 2 つの図からわかるのは、すべての行動 (パターン) には、心理的・知覚的な裏打ちがあり、また、個性の心理の在り方が影響する、ということである。
心理的な裏打ちは、たとえば犯罪者が選んだ犯行現場や対象 (被害者となる人物像) として現れる。
不正実行犯についても同じである。ここで取り上げた「動機」を理解できたとき、不正実行犯の本当の姿が見えてくるはずだ。
不正が実行されるまでの全貌を理解するためにも、「動機」の理解は欠かせない。
株式会社ディー・クエスト 公認不正検査士 山本 真智子