偽造はホワイト カラー犯罪の一種であり、Forensic Science (鑑識科学・法医学) の課程でも、筆跡の鑑定、偽造品・模倣品の分析・検出を学ぶ。
今回は、海外に目を向けたときに身近となりうる米ドル紙幣の偽造について解説する。
日本の紙幣については、皆様よくご存知と思われるが、国立印刷局のサイトで詳しく解説されているのでご覧いただきたい。
お札の偽造防止技術~現在発行されているお札~ (独立行政法人 国立印刷局)教科書によると、"When false documents or other items are copied for the purpose of deception, it is called counterfeiting."(参考文献 1. p.286 より)、つまり、「虚偽の文書、または、詐欺を目的とした複製を、偽造と呼ぶ」と定義されている。
偽造は、紙幣や金券類をはじめ、高級ブランド品など換金価値の高いものから、有名人のサインのようなものまで、あらゆるものに対して行われている。金券類については、証券・債券、商品券、切手、印紙などが該当し、偽造の対象として最も一般的である。
紙幣の偽造は、古くから存在する犯罪である。米国の法執行機関によると、企業は偽造紙幣により年 4,000~5,000 億米ドルもの被害を受けていると予想されており、米国の法律では最大 15 年の禁固刑が課せられる重罪とされている。
ここ数十年のコンピューターやプリンターの高性能化により、前世紀に流通していた紙幣は、見た目だけなら偽造が容易となった。
一部のコピー機には紙幣をコピーしようとするとエラーになる機能があるが、画像取り込みと印刷を別にするなどして作られた複製も多く、いたるところでコピーによる偽造が横行している。
コピー機で複製された偽造紙幣を検出するのは容易である。
"Counterfeit Detector Pen"(邦訳:偽造 (紙幣) 検出ペン) と呼ばれる、ヨウ素を含む液体をインクとしたペンがあり、米国では文房具店で購入できる。このインクは、植物繊維でできている本物の紙幣に対しては薄い色のままだが、デンプンを含むコピー紙に対しては化学反応により黒に近い色に変わる。
しかし、見た目だけとはいえ複製が容易であるという状況は経済の安定を脅かす可能性があり、また、(旧札については) 素材さえも再現された偽造品が現れたため、今世紀に入り米ドル紙幣は 5 ドル以上のすべての紙幣のデザインを新しくした。
次に挙げるのは、2006 年から使用されている 10 ドル紙幣である。
画像では伝えられないが、本物の紙幣には、コピーでは出しづらい"感触"もある。たとえば、黒色インクの部分はザラザラとした感触があり、銅色インク (上図②) の部分は浮き出ている感触がある。
このように、様々な技術を用いて偽造を困難にしているが、最初のひとつ (真正の紙幣) が作られている以上、いずれ偽造技術の向上により同じものが作られてしまう。
偽造防止技術と偽造技術はいたちごっこである。
株式会社ディー・クエスト 公認不正検査士 山本 真智子