公認不正検査士 (CFE) は国際的な資格です。

そのため、CFE 資格試験に向けて学習を進めていると、なじみのない用語や、他国 (主に米国や英語圏の国々) と日本との違いなど、つまづいてしまいがちな部分に遭遇します。
このページでは、公認不正検査士 (CFE) 資格取得を目指す方々の一助となるように、そのような「理解の難しい部分」の整理・解説を行います。

学習の進め方に関するアドバイスが必要な方は、「7 Ways to Keep Your New Year's Resolution to Earn Your CFE Credential (「CFE 資格を取るぞ!」という決意を維持するための 7 つの取り組み) / CFE 資格試験に向けたヒント集」をご覧ください。

更新履歴

全般


マニュアルの考え方を理解し、文化的背景・言語の違いも考慮して、学習しましょう

不正検査士マニュアル (と同【要約版】) は、不正検査・不正対策におけるベスト プラクティス (特別な事情・理由がないなら遵守した方がよりよい成果・結果を得られる、とされる考え方・手続き・方法など) を取り上げて、解説しています。
全世界・全業種・全職種を対象としているため、特定の国 (たとえば日本)、特定の業種、特定の職種から見た場合、実態に即していない、過不足がある、などと感じられるかもしれません。

しかし、不正検査・不正対策は、今やひとつの組織 (例:勤務先) だけを見ていればよい時代ではなくなりました。
子会社や関連会社の不正が親会社の業績に大きな影響を及ぼしたり、取引先の不適切な行為が不正へと繋がったりします。また、役員なりすまし詐欺 (いわゆる CEO 詐欺) や取引先なりすまし詐欺 (いわゆるビジネス メール詐欺・BEC 詐欺) のように、見知らぬ不正実行者が詐欺を仕掛けてくる場合もあります。これらはいずれも、日本国内だけでなく、海外で行われる場合もあります。

不正検査士マニュアルは、幅広い国・業種・職種から多数の不正対策の専門家が集まり、その知識・ノウハウを体系化したもの (知識体系 (BOK; Body of Knowledge)) です。
たとえ個々の立場・環境・状況にはそぐわない部分があるとしても、より広い視点においてはベスト プラクティスであることに疑いはありません。

また、不正検査士マニュアル (の原著 “Fraud Examiners Manual”) は、米国で制作され、英語で記述されているため、文化的背景・言語の違いに起因する考え方・用語の違いがあります。

たとえば、英語の “fraud” は、日本語では意味の異なる「不正」と「詐欺」の両方の意味を有しますが、英語 “skimming (スキミング)” と “larceny (ラーセニー)” は、日本語では「着服」にまとめられ、英語では「会計上の認識があるかどうか (対象が帳簿に記載されていたかどうか)」により用語が異なります。(備考:【要約版】では、違いを明確にするために「着服」と「窃取」に分けていますが、不正検査士マニュアルではいずれも「着服」と記載されています。)

不正対策の専門家として、用語は正しく使えなくてはなりません。
CFE 資格試験では、用語の違いを正しく理解しているかを確認する問題が必ず出題されますので、似たような意味を持つ用語が出てきたときは、その意味の違いを確実におさえておきましょう。

「科目」の表示よりも試験範囲は広いので注意しましょう

不正検査士マニュアルや CFE 資格試験では、大きく「財務取引と不正スキーム」「法律」「不正調査」「不正の防止と抑止」と 4 つに分けて表示していますが、それぞれ、不正検査士マニュアルで 250~500 ページにもなる、広大で多岐にわたる内容が含まれています。

驚かれるかもしれませんが、CFE 資格試験は、公認会計士の方が「財務取引と不正スキーム」に落ちたり、弁護士の方が「法律」に落ちたりしています。 これは、「財務取引と不正スキーム」は、会計だけではなく、知的財産に対する不正や業務上の不正を含んでいたり、「法律」は、日本国内法だけではなく、法体系・法解釈が大きく異なる英米法 (コモン ロー) に関する事項やそれとの比較を含んでいたりするためです。

士業資格や専門資格をお持ちの方も、試験科目を見て慢心することなく、しっかりと試験対策を行ってください。

不正調査


「計画」「準備」「実施 (実行)」

「不正調査」の章では、いくつかの節で「計画」「準備」「実施 (実行)」と段階を分けて説明されています。 ここで説明する内容を把握しておくと、それぞれの節の内容を理解しやすくなります。

「計画」(次項の「準備」を含む場合もある)

「何をしたいのか?」(= 目的・目標)、「何ができるのか?」(= 活動方針と実現可能性の確認)、「何をするのか?」(= 具体的な活動内容) を検討して決定する。それらが適切であるかも確認する。

「準備」 (前項の「計画」に含まれる場合もある)

必要となる資源を特定し、獲得し、使用できる状態にする。

資源とは、人員、物品、予算 (費用)、情報を表す。

人員は、「必要となる作業 (例:調査等)」と「発生する作業 (例:調整等)」を遂行できる「技術」と「能力」を考慮する。(個人ではなくチームとして実現できればよい。)

物品は、「(調査等の) 対象となるもの」と「(活動等で) 必要となるもの」がある。取得した物品が適切であるかの確認が必要となる場合がある。

予算 (費用) は、様々な要因により変動する。外部の専門家に依頼する場合や、緊急の場合、難易度が高い場合などは、多額の費用が必要となる場合がある。目的・目標に対して適切かどうか (費用妥当性や費用対効果) も考慮・判断する。

情報は、内容だけでなく、レポート ライン (報告先・伝達経路) や、公開の方法・形式なども含まれる (ことがある)。

実施 (実行)

目的・目標とする成果・結果を得るために、活動・行動する。

「データ分析」の「計画」「準備」で行う作業の違い

上記の「「計画」「準備」「実施 (実行)」」をふまえて、次のように考えましょう。

計画:不正発生を合理的に推定できる事実 (predication) の有無の確認

(特に個人の権利を侵害しうるデータを用いる場合に) その分析を行う根拠があるか確認する。
段階的な事実の確認を経ていない場合、その調査・分析 (や、それらを通じて得られた証拠) は、違法とされる場合がある。
参照:「不正検査士マニュアル」p.3.706「不正発生を合理的に推定できる事実の有無の確認」で詳細が説明されている。
参照:【要約版】p.230「合理的推定」と「不正検査士マニュアル」p.3.104「合理的推定に基づく行動」も参照。
備考:この段階では、どのようなデータが必要になるかは検討するかもしれないが、データそのものは必要としない。

準備:データの確認:対象のデータが調査の目的に合致していて信頼できるか確認する。

取得したデータが、目的に適うものであり、かつ、適切な情報源から取得したものであるか確認する。 備考:目的に適わないデータをいくら集めても意味がない。また、目的に適うデータであっても、情報源が信頼できない (端的に言うなら証拠能力がない、または、失われている) 場合は、データ分析により得られる結果も不適切となる (証拠として使用できない) ため、意味がない。

「不正検査士マニュアル【要約版】」理解度確認問題の解説


理解度確認問題について

【要約版】の理解度確認問題は、すべての問題で次のように作成されています。

  • 正しいか誤りかを判断できる説明が【要約版】の本文に記載されています。
  • 本文中に言及がない事項については (基本的に) 誤りです。

ここでは、どうしても理解のしにくい問題について解説します。

お読みになる前に

あくまで理解度確認問題の解説です。
理解度確認問題の問題が本番の試験で出題されるわけではありません。これだけを学習して満足することのないようにご注意ください。(それぞれの解説を通じて、より深い理解につなげてください。)

2-2 Q 3 (p.147) の解説
正解が選択肢 B である理由:

問題文「被告が偽証を行ったことを立証するためには」に続く「場所」が限定されているため。
【要約版】p.140「偽証」に記載されているように「法廷以外の場所でも、虚偽の供述による偽証罪が成立し」ます。

2-3 Q 4 (p.155) の解説
正解が選択肢 D である理由::

この問題は「効果的な倒産処理と債権者権利保護のシステムに関する世界銀行の原則および指針」における「再建型倒産手続の経営権」のあり方を聞いています。
翻訳文が若干不適切ではありますが、【要約版】p.154「再建型倒産手続における経営権」に記載されているように、選択肢 A~C のいずれも推奨されていますので、正解は選択肢 D になります。

2-6 Q 1 (p.183) の解説
選択肢 A が正解ではない理由:

現時点 (2020/04 時点) で選択肢 A の説明に該当する「人権に関する国際条約」は存在しません。また、国際条約の締結国は法令整備等を経て条約の内容に拘束されますが、非締結国は拘束されません。そのため、選択肢 A は否定されます。
補足:「人権に関する条約」に類するものとして、「世界人権宣言」「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約 (A規約)」「市民的及び政治的権利に関する国際規約 (B規約)」、性別や人種による差別の撤廃に関する条約、児童の権利に関する条約、拷問等禁止条約がありますが、選択肢 A に相当する条約は存在しません。
補足:国連の専門機関である国際労働機関 (ILO) では、数多くの条約を採択していますが、「従業員の基本的権利を保障」している条約はありません。
補足:これらを考慮した問題文の場合は、正となる場合もあることにご注意ください。

2-6 Q 4 (p.183) の解説
正解が選択肢 B である理由:

【要約版】p.179「名誉毀損」に記載の通り、構成要件に該当しないため。
備考:「名誉毀損」には該当しなくても、それ以外の犯罪や不法行為には該当する可能性があります。

2-7 Q 1 (p.195) の解説
選択肢 A について:

【要約版】p.186「公正な審理を受ける権利」に「裁判の結果は刑事司法制度の透明性を守るために公表されなければならないと規定している」と記載されています。

2-7 Q 3 (p.196) の解説
正解が選択肢 C である理由:

【要約版】p.191「当事者主義における証拠開示手続」に「当事者間における証拠開示手続の多くは公判前段階に実施される」と記載されている通りです。


選択肢 D が正解ではない理由:

【要約版】p.191「当事者主義における証拠開示手続」に「両当事者は、お互いに限定的に情報を要求でき」ると記載されていますので正解ではありません。(続く「証拠によっては、他方当事者により提出されないかぎり、一方当事者は利用できない場合もある」もあわせてお読みください。)

4-10 Q 2 (p.429) の解説
正解が選択肢 A である理由:

問題文では「最も適切な語句は、次のうちのどれか」と聞いているため、【要約版】p.423「文書および口頭による名誉棄損」に記載の通り、選択肢 A が正解になります。
備考:英語では、「名誉毀損 (defamation)」と、その手段も含めた「文書誹毀 (libel)」と「口頭誹毀 (slander)」が、それぞれ別の用語として存在します。(詳細は「不正検査士マニュアル」p.2.615「名誉棄損」を参照してください。)
証拠として提出される場合は、そのほとんどが「文書」の形式となることから、この場合に限定すると「libel (文書誹毀)」=「名誉毀損」とも考えられます。そのため、ここでは (「名誉毀損」という選択肢がないこともあり) 選択肢 A が「最も適切な語句」となります。