本記事は、公認不正検査士協会の経営陣及び従業員の見解を示したものではない。
「人生の悲劇には、必ず前兆があるものだ」
アーサー・レビット、米証券取引委員会(SEC)前委員長
金融資産の証券化、とりわけサブプライム住宅ローンのような商品に係る会計は、非常に難解な会計基準に準拠している。その基準は多くの企業が莫大な負債を隠蔽し、将来の多額な不労利潤をあからさまに計上する原因となった。悲しい経緯の一部を見てみよう。
アンジェロ・R・モジロ(Angelo R. Mozilo)はイタリア系の肉屋の息子である。見事に日焼けした肌に完璧な着こなし。彼はアメリカン・ドリームの体現者であった。2003年2月、モジロはワシントンで学識者と住宅ローン事業者の聴衆を前に、自らのビジョンを語っていた。
「自宅所有というアメリカン・ドリームを広げることは、今後もずっと当社の使命であり続けます。それはアメリカ経済に利益をもたらすだけではありません。もっと大切な目的があるのです。それは、この国をより良い場にしていくことです」と彼は語った。モジロは約35年前、住宅金融大手カントリーワイド・ファイナンシャル(Countrywide Financial Corporation)を共同で立ち上げ、会長兼社長兼最高経営責任者を務めていた。彼は権力と巨額の富を手に入れたのだ。
2003年2月4日付カントリーワイド・ファイナンシャルのニュースリリースによれば、モジロは普及活動に熱心な資本家といった人物であるという。その日のスピーチでモジロは、自宅所有は社会全体との結びつきを強め、個人資産も社会資本も増やすと述べた。彼は「自宅を持てば家族や隣人、地域社会同士の結び付きが強くなる」と言っている。モジロは「持ち家に住む子供たちの方が、数学や読解力で好成績をおさめています。また、自宅を所有する人は市民団体に加入していることが多いのです」と主張する。
モジロは「住居は私たちの国の福祉と地域社会の幸福にとって非常に大切です。持ち家というアメリカン・ドリームは決して使い古された言葉ではありません。常に私たちの目標であり、不変の使命であると断言します」と話を締めくくった。
2005年から2007年で、カントリーワイドは、同業他社と比べ最高額となる972億ドルのサブプライムローンを組んでいた。(パブリックインテグリティセンターシリーズ「金融危機の根底にあるもの:誰の責任か?」の5月6日付記事「金融破たんの裏側」ジョン・ダンバー、デイビッド・ドナルド著を参照)
それと同じ期間に、カントリーワイドはハイリスクなノンプライム住宅担保ローンのドル価値を倍増させ、その金額は全仲介融資額の約18%にまで上り、約110億ドルの危い利益を計上していた。しかしこの売上は2008年に泡と化す。同様に、モジロは2003年から2007年に、約3億9200万ドルの補償金を受け取っていた。(雑誌フォーブズ2008年4月30日号、スコット・デカーロ編集による特別リポート「CEOの補償金」を参照)
いかがわしいモーゲージローンを高額な手数料で貸付け、高利率なローンを設定する住宅金融業者はカントリーワイドだけではなかった。しかし、カントリーワイド・ファイナンシャルのケースは最もポピュラーで最大規模であったことは間違いない。確かにカントリーワイドは数千人の人々に自宅所有という夢をかなえた。しかし、その多くの人々にとっては、その経験は束の間のはかないものだった。彼らは結果的に金銭的困窮に陥ることになったのだ。モジロは市場価格より高い金額ではあるが、4億ドル以上のカントリーワイド株を投げ売ることになった。実験的自宅所有ともいうべきこの事例は不運な結果を招いた。モジロは誰の夢を叶えたのか、その責任を明確にするよう迫られた。
証券化による後遺症
2005年、カントリーワイドは約5000億ドルでモーゲージをオリジネートし、前年までと同様、そのモーゲージのほとんどを証券化することでバランスシートから外していた。金融資産の構成を再配分して販売するこの証券化という手法が金融破たんの主な要因となっていたのだ。
サブプライムや他のノンプライムモーゲージをはじめとする金融資産の証券化は、10年にもわたって住宅ブームを推進する大きな火付け役であった。住宅価値下落の後、警鐘を鳴らす経済ニュースに見られる一連の歴史的事件の陰で見落としがちなことは、難解な会計基準がカントリーワイド社のような財務懸念を容認してしまったことである。これらの会計基準は企業が増加の一途を辿る莫大な負債を隠し、ほとんどの場合、無責任な宛て推量の結果として生じる将来の多額な不労利潤をあからさまに計上する隠れ蓑となっていた。
一世代の間、これらの会計基準の欠陥は、借入による資金調達の比率が高い多くの企業が抱えるリスクをカモフラージュし、財務状態を過大に良く見せる原因となっていた。最近になって、将来の悪用防止に改革が実行されたことは喜ばしいことだ。しかし、それと同時に会計基準の策定機関、つまり米国財務会計基準委員会(FASB)と米国証券取引委員会(SEC)に対し、なぜ改革にこれほどの時間がかかったのか、その理由を尋ねておくべきだろう。
監査人や監督機関、投資家、各付け機関、規制制定機関は20年以上の間、証券化の会計基準が実体経済を反映しておらず、同基準は証券化の複雑な取引の形式的な法制化にすぎないことに気づいていた。いくつかの事例では、規制当局やアナリスト、各付け機関は許容範囲内の会計手法をくわしく調べ、証券化の経済的本質を反映するバランスシートや損益計算書、自己資本規制にしかるべき調整を加えた。しかし前述のアナリストたちは、かなりの数の事例でアンダーライターや貸し手、投資家と同様に、無警戒か、疑り深いか、財務報告特有の歪曲に無知かのいずれかであった。その結果、違法行為とスキャンダルが相次ぎ、投資家たちは数十億ドルもの損失を被ることになった。そして最近になって、米国金融システムは破綻寸前にまで追いやられることになったのだ。
証券化には多くの形態があり、様々な仕組みが取り入れられている。しかし、各証券化の共通原理は、収益を生む金融資産の寄せ集めという点である。これらの資産はバンクラプシー・リモート企業、多くの場合トラストに売却され、いくつかの小口証券(トランシェと言う)に分割される。そのため、将来に見込む収益を得る権利が階層構造化していることになる。証券化商品は、その金融資産を担保にトランシェを束ねた形で再度売却される。複数のトランシェに分割されており、各トランシェのリスクとリターンは異なる。
証券化の多くで、ほとんどのシニア・トランシェに担保の原資産から生まれるキャッシュのほぼ全額が渡る優先権が付くよう、原資産が振り分けられている。シニア・トランシェに定期の元利が支払われたとき、またそのときにのみ、残りのキャッシュが次の階層下のトランシェに流れ、さらに次の下位トランシェへと流れていく。以上に挙げた証券化構造の大きな利点は、多くの債権者への金融資産プールで参加持分の大規模なシンジケートが容易になることだ。こういった手法がなければ、細かい分割や売却は困難だったかもしれない。そして、多くの証券化構造には危険の異なるトランシェが含まれている。そのため、トランシェという仕組みは金融商品をセグメント化し、買い手がリスク管理に求める様々な信用ニーズに応えるのである。
残念ながら、証券化で所有権を分割すると、所有者利益も分割することになる。例えば、住宅ローン債権担保証券(Residential Mortgage-Backed Securities: RMBS)には、元本を損なうモーゲージの再編計画施行という悩ましい問題がつきまとってきた。そういった資産償却が損失保護を受けたシニア・トランシェ所有者の利益分でなされるかもしれないが、なぜ下位のトレンシェ所有者は自分の資産価値を減らすような計画実行にみすみす賛成するのだろうか?
そして、サービスを提供するエージェントに、原資となるローン証券を再証券化する法的権限があるにせよ、多くの場合、そのエージェントを所有するのは、モーゲージを束ねて証券化し、売却益を報告し、原資となるローンが完済されれば全てもしくは一部が無効になるモーゲージ貸付管理権を認識する企業である。また、サービサーは不満を持つ下位の投資家による訴訟の不安解消に取り組む義務を負ってきた。下位の投資家は必ずというわけではないが、このゼロサムゲームの敗者となる可能性が高いのである。(2008年10月29日付 Center for American Progressのホームページ内の記事、「モーゲージ危機解決のネクスト・ステップ」マイケル・バー著を参照)
証拠隠し
サブプライムモーゲージ市場の崩壊よりずっと以前から、証券化による悪影響の一端が顕著になっていた。その問題は通常の証券化に特有な管理上の不都合を含むだけでなく、1984年から事実上の基準となった緩慢な会計指針も原因となり、広い範囲に影響を及ぼした。
簡単な用語に噛み砕けば、ほとんどの証券化取引は、借り手へのリコース(多くの場合、限定型リコース)付きの抵当貸しにすぎないのである。例えば、私が売掛金を担保にローンを組むとしよう。普通であれば、貸し手の損失保護目的で担保とした売掛債権は、価値総額の一部が前貸しされる。売掛債権価値がローンより遥かに高ければ、低コストでより有利な条件で借りられる可能性が高い。
私は、売掛債権の回収額はローン利払いと元本償還に十分すぎるだろうと思い、取引きに応じた。売掛債権の一部が90日を越えて未払い(または時効)であれば、取引先が債務不履行となる可能性が高いという兆候である。しかし、貸し手は通常の貸付条項(または約定条項)を行使して、私に新たな債権とより疑わしい勘定と交換するよう求めてくると予想される。
この取引きの会計処理は単純明快である。担保とした売掛債権は担保資産としてバランスシートに残し、同時に借入を負債として計上する必要がある。今度は、借り手リスクを計る共通の指標である負債比率と元利金返済カバー率を使って、私が追加融資の信用力が低いとし、借り手は既存債務の利率を上げ、私への貸付条件を厳しくすることも考えられる。追加債務が他の貸し手との契約で禁止でありながら追加融資を受けた場合、私は債務不履行となり、貸し手は即座にローン返済を強制してくる可能性もある。
しかし、他の貸し手との煩わしい融資条項に関係なく、キャッシュを借りる必要がある場合どうしたらいいだろうか? 現行の規則では、一般に公正妥当と認められた会計原則(GAAP)の立案者が多少複雑で便利な抜け道を用意しておいてくれているのだ。問題はそこにある。多くのアナリストや投資家、一般の人々はなおさら長い間理解できていなかったことがある。それは、会計規則の細則はより広範囲にわたっており、その実、高基準な財務報告原則への抜け道を含むんでいることである。
この先も変わらない
多くの場合、会計報告は甘く、時にはあっさりと不正に利用されることもある。例えば、FASB概念報告書第2号によると、広い意味での財務報告原則では、取引きの形式ではなく、取引きの経済的実質を報告すべきと認識されている。さらに、FASB概念報告書第5号によると、第二の基本原理は収益が稼得されるまで認識されないということだ。要するに、収益は商品やサービスが受け渡されるまで計上されない、ということである。
しかし、現代の金融取引の煩雑さは、ときに投資家より産業界を優先した基準設定の政略と相まって、不明瞭さと矛盾をはらみ、ずさんな状態のまま広がった。そして多くの場合、損害を招く結果となってしまった。広い範囲で不正使用が顕在化するにつれ、諸規則は改正廃止されることになる。そのため、取引きに変更がなくても、そこに不可欠な会計基準はこれまで職務上信じて疑わなかった基準を、明日にはあっさり捨て去らなければならないこともありうるのだ。
2009年11月まで主な職務上の拠り所であったFASB基準書第140号(それ以降、FASB基準書第166号及び167号が適用される)では、売掛金を担保に貸し手からローンを組むことができた。しかし、これは私が取引き内容に注意深く手を加えることで、バランスシートから受取勘定を外し、私が負った追加融資の計上も免れることができる。なおかつ、債務認識しないことは通常、自分の有利なように財務諸表を歪曲したことになる。諸規則は何度か改正されてきたが、FASB基準書第140号の中核となる部分は、約25年間そのまま実施されてきたのだ。
およそ1984年から1996年に渡って、その内容は比較的シンプルなものであった。FASB基準書第77号に概説されたGAAPでは、自分のローンはローンでなく、自分の売掛金の担保も担保でないが、取引きは3つの条件を満たす限り、第三者への売掛金売却である、と規定している。
FASB基準書第77号は失効しているが、そこに示された3つの条件は以下の事項が必須である:(1)売掛金から見込まれる将来の経済利益を手放す。(2)売掛金が回収不能になった場合、見込まれる損失を合理的に予測できる。(3)償還請求条項に従う場合を除き、貸し手(つまり、買い手)が債権を取り戻す場合、見込まれる損失を合理的に予測できる。
GAAPはそれ以降発達してきた。しかし、同様の錬金術は、少し手を加えづらくなっただけで、まだ存在するのだ。最近失効となったFASB基準書第140号は、金融危機の最中に効力を持っていた会計原則である。その条項では債権を取り消すことができ、償還義務に関わらず、担保付き融資を計上しなくてよかった。さらに、私はこの取引きを資産売却として計上することができるのだ。また、自分の原因で小額でも回収できなくとも、保有する受益権に基づいて利益を認識するよう求められる。
このかなりの利益を得るには、(1)その取引きで、私の資産が自分の手の及ばないバンクラプシー・リモートな特別目的事業体(通常、トラスト)に譲渡されなければならない。(2)買い手(前貸し手)は私が譲渡した債権を担保したり交換したりする権利を有する。(3)私は譲渡した債権に関して実効的な支配権を保有できない。この場合、支配権とは、私が期限前に売掛金を買い戻したり、償還したりする権利義務の同意がないことを意味する。(注目度は高い。)
言いかえれば、以前のFASB基準書第140号であれば、私は担保付き融資を計上できるが、それは私が受取勘定を担保に借入するのではなく、受取勘定を売却するように計上するのである。たとえ、その資産価値が無いなどの理由でこれらの受取勘定を引き取る義務(権利ではない)があるとしても、である。残念なことに、この会計処理方法は実話にしては話がうますぎるが、現在は失効しているということだ。
例えば、1999年通期で、米サブプライムローン大手ニューセンチュリー・ファイナンシャル(New Century Financial Corporation)は30億ドル以上の不動産担保証券を証券化したが、負債総額は6億8000万ドルでしかなかった。ほとんどの担保証券は将来の証券化に備えて保有され、バランスシートからも除外されている。1999年の証券化が担保付き債務として計上されていたら、ニューセンチュリー・ファイナンシャルの負債比率は21倍を超えていたかもしれない。
調整後、ニューセンチュリー・ファイナンシャルの負債依存度が高くなったことは疑う余地がない。1997年と1998年に約34億ドル分を証券化していたが、その大部分が未払いだった可能性が高い。同時に、ニューセンチュリー・ファイナンシャルは自己資本のおよそ2.1倍に相当する約3億6500万ドル分の証券化による残留受益権を保有していた。(ニューセンチュリー・ファイナンシャルの2005年12月期末「Form 10-K」アニュアルレポートを参照)ニューセンチュリー・ファイナンシャルのような証券化スポンサーが保有し、資産計上していた持分は、極めてハイリスク、つまり最も下位レベルのトランシェであることが多かった。
2004年と2005年通期で、ウォールストリートの投資銀行ベアー・スターンズ(Bear Stearns)は、2210億ドルもの莫大な不動産担保証券と資産担保証券を証券化しており、証券化55億ドル分から来るキャッシュフローの受益権と、ベアーの自己資本の55%以上にあたる4億6800万ドルのモーゲージ貸付管理権を保持していた。ベアー・スターンズはその後の破綻により、政府から持参金300億ドルを受けてJPモルガンとの政略結婚に応じざるをえなかった。(ベアー・スターンズの2005年11月期末Form 10-Kを参照のこと。)ニューセンチュリー・ファイナンシャルや他の金融機関と同様、ベアー・スタンズの保有持分は証券化の中で最もハイリスクなトランシェであったと思われる。
メリルリンチ(Merrill Lynch)はかつて由緒ある米投資銀行大手であったが、現在はバンクオブアメリカ(Bank of America)に吸収されている。メリルリンチは2007年に1000億ドル以上のモーゲージを証券化した。これは、住宅価格がちょうどピークを迎えた2006年半ば以降であり、2005年の証券化分580億ドルをおよそ72%上回る。(2009年3月31日発行のスタンダード&プア/ケース・シラー住宅価格指数を参照)
2006年と2007年で、メリルは総額約3250億ドルの資産を証券化した。この中にはハイリスクな債務担保証券(CDOs)も含まれていた。メリルリンチはこの証券化で1930億ドルの残留受益権を保有していた。2007年にメリルが短期と長期借入金勘定で証券化した残余持分保有の1930億ドルを上乗せして報告した場合、負債額はおよそ49%増え、純資産対資産比率も約38倍になっていただろう。(メリルリンチの2006年と2007年12月期末のForm 10-Kを参照のこと。)
さらに2007年に、メリルは証券化で保有していた残余持分11億ドルを償還している。償還後、メリルは残りの残余持分61億ドルを報告した。これはメリルに残る自己資本の19%にあたる額であった。
幽霊資産と亡霊利益
会計規則が許容した不明朗な負債は、ずさんな等式の一部にすぎなかった。GAAPでは証券化取引きを貸付けでなく、金融資産の売却として処理すると規定されている。しかし、この取引きでは、かなりの額の未収利益を計上できることが大いに疑われる。多くの場合、金融操作の裏側でとりつく霊はリスク測定を試みる高度な数学ではなく、シンプルな販売手腕なのだ。モーゲージプールのキャッシュフローへの投資家の権利に簡単な手を加えればモーゲージプールの価値はてきめんに高まるのだと多くの投資家や格付け機関全てを説得するのである。
そして、証券化することで、モーゲージプールの価値が高まる(また、組み替えられた金融商品の総利回り低下をカバーする)とわかったら、投資家はまず次のような疑わしい提案に納得する必要があった。概してモーゲージプール特有なリスクは、様々な保有者持分が煮込み料理に入った肉のように、トランシェへと細切りにされると、リスクを軽減できる、という提案である。証券化において、それほど旨みのない皮肉として、それはウォール・ストリートが規制反対のバイアスに対応するよう受け入れた効率的市場理論に反するということである。市場参加者の多くは入手可能な関連情報に基づく合理的な行動をとるため、競争の激しい自由市場は自動修正されていく、という理論がある。その過程で、真の企業価値を反映した証券価値に近づいていくのである。そして、「市場が一番良くわかっている」のだから、規制当局はそれを放置しておけばよいのだ。
この理論が有効で当初のリスク判断に誤りがなければ、どんな分類にしても組み合わせたモーゲージプールのリスク初期条件を変えるべきではない。バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)でウォーレン・バフェット(Warren Buffet)のパートナーを務めるチャーリー・マンガー(Charlie Munger)は、最近、そのことについて率直に語った。「彼らは大量の汚水を違った方法で混ぜ合わせて、これは汚水じゃないと言おうとしています。自然法則の通り、その汚水も当然汚水の特質を保つことになります」(5月4日付Bloomberg.comの記事、「バフェットが銀行を批判、愚者の保証人」エリック・ホルム、アンドリュー・フライ著を参照)
証券化によってどういうわけか、モーゲージプール全体のリスクと価値が変化するというインチキな考え方は、GAAPが認める売却益計上の結果として、未収利益の速やかな認識という、同じく悪しき慣習も生み出してしまった。これらの利益は、特にサブプライムローンや自動車ローン、クレジットカードの債務不履行、その他ハイリスクハイリターンの金融資産から来るが、相当な額であることが多かった。
通常の証券化取引きでは、その金融資産の売り手は証券化したブールの所有権を保持している。所有権の特性は変わりうるが、この残りはしばしば証券化の最下位部分であり、通常エクイティ・トランシェや劣後トランシェとして知られている。残余持分に特有の価値は一般に、2つの出所がある。(1)長期にわたって発生する、原金融資産の収益とシニア・トランシェに近い所有者への利払いの差額(2)もしあれば、取引きの信用リスクを補完する超過担保
例えば、私が年利回り12%のサブプライムモーゲージプールを証券化するとする。すると、取引きの超過担保と同様、上記の資産から発生するキャッシュの権利を変更することで、異なるトランシェのリスクを階層化することが可能である。そのため、上位のシニア・トランシェ所有者に支払う利息は平均7%となる。私は自分の得る収益より少ない利子を払うことになる。これは、私が上位のシニア・トランシェ所有者に予想される損失は、下位の投資家が吸収します、と説得しており、私が取引きを超過担保していることによる。トランシェを正確に測定すれば、シニア・トランシェのリスクはほとんど抑えられるので、各付け機関が互いにのんびりとやってきて、信用各付けの最高ランクAAA評価を付けるでしょう、と私は主張する。そして最後に、私が証券化したモーゲージが予想通り未払いのままで、デフォルト率も低い場合、私は金利差と貸し手の担保にした超過分を取り戻すのである。
サブプライムモーゲージの平均残存年限は通常、2年から5年程度であるため、モーゲージを完済するまで、残余持分の正確な価値を知ることはできない。戻る超過担保額と支払いと受取りの差額であるスプレッドは、推測可能だが知ることのできない将来の事象によって異なる。証券化された金融商品が利益を生まず、生じた現金が上層のシニア・トランシェへの元利払いに不十分であれば、ゼロにはならないまでも残余持分の価値はそれに従って削減される。
私が売却したシニア・トランシェの会計処理は単純明快である。証券化のシニア層の所有者は収益が発生した時点で認識するが、通常は金利収入の形で発生した時、もしくは支払われた時に計上される。利払い対象の負債残余が長期の未決済状態でなければ、利子は稼得されず、収入としての認識もされない。こうして、利払いを受ける権利が与えられる。さらに、債務者は支払い能力がなければならない。利払いできなければ、私が認識した収入を損失引当金で相殺しなければならないためである。
同じダイナミクスは残りのトランシェにもあてはまる。しかし、GAAPのひねくれたマジックを通して、残余持分を保有するモーゲージプールの売り手は「取引き」の成立で得た収益全てを現在価値で認識することが許可されている、というよりも計上するよう求められている。取引きは通常、稼得プロセス完了のだいぶ前に行われているのだ。この会計処理では、難しい問題が出てくる。残余持分への元利支払は本来、シニア・トランシェへの元利支払より少ないため、次のようなことになるだろう。稼得前に利息収入を認識した場合は、それはシニア・トランシェに支払われる収益であるということである。それはシニア・トランシェの方に利子が稼得される可能性が極めて高いからである。
そういった点でも、FASB基準書第140号は直感に反しているのである。その基準は、収益は稼得時点でのみ認識し、法的形式よりも経済的実質を優先するという会計処理における二つの基本原理を、きっぱりと否定している。それとは逆に、FASB基準書第140号では、売却益の計上は、将来の事象の結果予測に基づくことを容認している。そして、それらの予測は、原モーゲージプールが予想通り未払いのままになり、借り手が予期された通り利払いと元本返済に応じ、残余トランシェに滴り落ちるとされるキャッシュは計画通り受領されるだろう、という想定に依存している。このように、利益は大部分が根拠を持って推測され、ときには根拠がそれほどない場合もあるということである。
会計用語で売却益は、取得資産の推定時価から被った負債をマイナスした額と、売却資産コストの差額のことだ。取得するものには、受領した販売価格、受取利息と支払利息の将来のスプレッドの現在価値、売却したモーゲージローンの管理で売り手が受け取る将来の純収入の現在価値を表したモーゲージ・サービス権(MSRs)という思い通りにならないインセンティブ が含まれる。MSRsの利益認識は、GAAPでは混在している。つまり、証券化で譲渡されたモーゲージのサービス権保持から期待できる将来の収入流列を現在価値で計上することを容認しているのだ。(サービス権とは証券化プールで原モーゲージを収集したり、管理したり、会計処理する管理機能のことである。)そして、合理的な事業は通常、損失を被るような取引きを結ばないので、ほとんど全ての証券化取引きの当初の結果が利益計上であることは驚くことではない。しかも、その利益はかなりの額に上ることが多い。
将来の事象の見積もりは多くの財務諸表勘定に織り込まれている。多くの場合、企業は様々な要素を見積もっている。債権のどの部分が回収不能になるか、将来の保証費はどれくらいか、最終的に売上品のどれくらいが返品されるか。これでもほんの一部を挙げただけだ。監査文献では、外部の公認会計士が公正価格の算出や活発に取引きされていない有価証券への投資などの見積もりに関する監査に特別の注意を払うよう求めている。実は、監査基準書第99号(AU§316として成文化された)「財務諸表監査における不正行為の考察」では明確に、「確証困難な主観による判断や不確実性を含む見積もりに基づく資産は追加の精査を要するリスク要因であるとしている。(監査基準書第57、81、101、99号もしくは新規に成文化されたAU§342、AU§326、AU§328、AU§316をそれぞれ参照)
パート2:将来の会計事象を見積もることは、会計操作疑惑のもととなりうる。クレディトラスト(Creditrust)、コンセコ(Conseco)、ニューセンチュリー・ファイナンシャルは、せまりくる災厄の明示的な兆しだったのである。
(注:冒頭のアーサー・レビットによる言葉は、ニューズウィーク3月2日号「ラリー・サマーズの特別授業」マイケル・ハーシュとエバン・トーマス著からの引用による。)
ゴードン・エール(CFE、CPA、 CFF)
法廷会計事務所Yale & Companyのプリンシパル。元証券アナリスト。SECの特別調査コンサルタントを務め、民事関連事項における監査上の怠慢と証券詐欺の問題に関して証言した。