外部監査や不正検査を実施するとき、クライアントに与えられたデスクに張り付き、提出された数字の分析に没頭するか。それとも現場を歩き回り、従業員と親しくなって質問をし、熱心に耳を傾けることで得られる発見を懐疑的に分析するか。果たして、結果は異なるだろうか。掘り下げることで不正は見つけられるものである。
不正検査士や監査人は、専門的基準に従い業務を行うだけではなく、要求されている以上のことをする必要がある。調査や監査の際には、クライアントに与えられたデスクを離れ、現場を歩き回り、従業員と親しくなって質問をし、熱心に耳を傾けることで得られる発見を懐疑的に分析すべきである。
監査人は、活躍は記憶されることはなく、失態のみ記憶される。監査法人アーサー・アンダーセンを例に挙げよう。同法人は、全盛期には専門的基準に沿って数千もの監査を行っていた。しかし一つのあまりにも重大な監査の失態のために、法人は今や崩壊し、葬り去られてしまったのである。墓石には一つの言葉が永遠に刻まれるだろう。「エンロン」と。
条件を満たせなかった過去の監査報告書を全て集めたものよりも、この一つの悪名高い失態が歴史に刻まれる。偽装の検知から企業の職務分離に関する矛盾の監視まで全ての最新で詳細な知識を身につけることが肝要である。以下に、第二のエンロンを検知・防止できるCFEの技能を備えた監査人や不正検査士の典型的な一日の実地検証を紹介しよう。
現場では動き回り、すぐに応答できるように
(BE MOBILE AND AVAILABLE ON THE JOB SITE)
現場に着いたら、クライアントは玄関先で喜んであなたを迎え、挨拶をするだろう。これが最初の偽装である。あなたは社員証セキュリティーを渡されることもあるだろう。多くの場合、クライアントはあなたに部屋を用意するが、それは通路の先の地図がなければ誰も見つけることができないような場所にある。その仕事部屋は快適に整えられ、電話、ファックス、高速インターネットアクセス、そしてトイレもあったりする。通常、あなたを手伝うための社員が配属されているが、彼の主な仕事は社内書類を届け、あなたをデスクに座ったままにさせることだ。
席を離れてみて欲しい。捜し求めている問題は提出された書類の中などにはない。社員の心から読み取り、通常の業務手順から観察しなければならない。部屋に落ち着く前に、社内見学を希望し、従業員と話してみよう。従業員にあなたが何者で、なぜここにいて、建物のどの場所に仕事場があるか伝えよう。
あなたの全ての連絡先が明記されている名刺を十分に持参しよう。従業員の中には社屋を離れて、自分たちに都合のよい時間と場所で話がしたいと思っている者もいるので、いつでも相談に乗ると伝えよう。彼らは妙な時間を指定し、誠実さを確かめるかもしれない。午前6時だろうが午後9時だろうが希望に応じることが大切である。彼らはあなたが欲しい情報を持っているが、あなたは彼らが欲しいものは何も持っていないのだから。
時には、クライアントの従業員にあなたが町のどこに滞在しているかを教えるのもよい。なぜなら不正検査士や監査人は、朝起きたときに、ホテルのドア下から茶色封筒が入れられたことに気づくことがあるからだ。封筒には、ある特定の個人にあてた質問の提案や、問題を指摘するような請求書やその他の書類のコピーがつまっているかもしれない。
明らかに、情報提供者となる従業員は経営者を信頼しておらず、監査人や不正検査士と話しているところを見られることを恐れている。彼はあなたを最後の希望とみなしているのだから、彼や他の従業員にあなたへ連絡する機会を与えることが大切なのだ。不正が発生する企業にはいつも、犯人以外にそのスキームを知る人物がいるものである。あなたの職務は、比較的短期間にその個人を見つけ出し、彼が知っていることをあなたに話せるほどの信頼を築くことである。
一部の例では、経営者が内部告発者の情報に従わなかったり、さらに悪いことには、内部告発者保護政策で守られているはずの従業員を処分したりして、従業員の信頼を失っている。
例えば、一般従業員のベティーが勇気を出して同僚のフレッドに関する疑惑について経営者に報告したとしよう。気さくなフレッドは全組織で最も好かれて、信頼され、尊敬されている従業員の一人だ。彼の人格は決して非難の対象になるものではない。経営者達の典型的な反応は、信じないというものだろう。「フレッドが盗むわけがない。彼は30年も働いているんだ。命にかけて彼を信用するよ」と彼の上司は言うだろう。おそらく経営者はベティーをフレッドへの個人的恨みで責めるだろう。フレッドの職は多くの人が狙っているからだ。経営者はベティーに問題なのはフレッドではなく、君だと言うかもしれない。「仕事に戻れ。面倒なことはせず、静かにしていろ。善良なフレッドに悪質な言いがかりをつけて、解雇されないことを幸運だと思え」とベティーの上司は言うだろう。
ベティーは不本意ながらフレッドと働き続け、彼が窃盗を続けたら皆は彼女が共謀していると疑うかもしれないと心配していた。ベティーは同社に留まり、社内で不正に関わっているという非難をあびる危険にさらされるべきだろうか、退職し新しい仕事を探すべきだろうか。そして、彼女は退職した。
経営者は通常、姿勢を変えないものだ。それでは、腐敗した環境下で働くのを快適だと感じるような従業員は、どのようなタイプの者だろうか。それは、また別の窃盗犯だろう。しばらくすれば、従業員の多くが不正を働くだろう。これは会社が守るべき内部告発者保護政策があるにもかかわらず、1つの告発について調査することを拒否した結果である。
外向的であれ (ACT LIKE AN EXTROVERT)
話し掛ける技術は、優れた監査人や不正検査士が持つべき重要な技術である。クライアントの従業員が話しかけてくるのを待っていてはいけない。なぜなら、通常、彼らから話しかけてくることはないからだ。
例えば、5万ドルが紛失していたとしよう。調査目的を達成するために、もちろんあなたはできるだけ多くの従業員と話がしたいはずだ。まず、あなたはダグ・スミスに自己紹介をする。重要な情報を持っていると疑われている人物だ。「こんにちは。サム・ジョーンズと申します。経営者の依頼で、業務を検査するように言われました」。
ダグと会話を始めるとき、まず彼について調べておこう。「5万ドルが紛失しているようですが、横領しましたか」と尋ねてはいけない。彼は私欲のない第三者かもしれないが、自身に容疑がかかっていると思えば、すぐに守りに入るだけである。それは避けたいところである。
それよりもまず、さりげない質問をすべきである。ダグが自席の壁に大きなスズキの剥製を掛けていたとしよう。「すごいですね、スミスさん。このスズキを釣ったんですか。私も釣りは好きですが、こんな大きなものは釣ったことはありませんよ。どのように釣り上げたのか教えて下さいよ」。ダグはこの魚を釣り上げたことを誇りに思っているはずだ。でなければ壁になど掛けないだろう。この時点で、彼はリラックスしているはずである。彼がストレスを感じていないときの、言語的、および非言語的な挙動を観察するといい。声が上ずることなく、顔も赤らまず、額に汗が吹き出ることもないだろう。ダグが釣りの話を終えたら、会話を調査へと変えていく。「いつか一緒に釣りに行きましょうよ、スミスさん。ところで、問題がありまして助けて欲しいんです。確かではないのですが、5万ドルが紛失しているようなんですよ。何が考えられますか」
ダグが釣りの話をしているとき、もし机に身を乗り出して腕を組まずに話していたら、犯人でない限り、あなたが金の話を尋ねても同じ体勢でいるはずである。劇的に身振りが変わったとしたら、現金の紛失に関する情報を彼が持っていると推測してもよいだろう。たとえ、直接的な情報を持っていなかったとしても、無実な者は何が起こったと思うかを話してくれるだろう。
ダグが座りなおして、椅子を机から離したり、顔が蒼白して息が荒くなったりしたら、彼は犯人か、もしくは業務や責任を履行する上で失敗をし、資金を横領されてしまうような環境や機会を作ってしまった人物である。もしダグを最初に観察していなければ、彼の身振りの変化に気づくことはできなかったはずだ。
よい聞き手であれ (BE A GOOD LISTENER)
聞き上手の技術を活かして、クライアントの従業員と信頼関係を築くといい。ビートリスには、最近初孫ができた。彼女の話したいことは何か。会話がどんなに退屈であっても、耳を傾け、微笑み、うなずこう。彼女と視線を合わせ、話しかけられている間は、他の者の会話を受け入れてはいけない。なぜなら関心がないと思われるようなきっかけを彼女に与えてはいけないからだ。彼女の孫の話を聞かなかったら、彼女から5万ドルの紛失について知っている情報を聞き出す機会を得ることができるだろうか。
同時にあなたの周りで話されている会話にも耳を傾けるべきである。ドリスは5万ドルの紛失に関する全てを知っていて、あなたに尋ねられないかと期待している。でも自ら情報を提供することはできないのだ。代わりに、彼女はあなたの近くに立って、同僚に「5万ドルが消えた話知ってる」と言うかもしれない。小耳に挟んでいれば、後でドリスに近づき、資金のことについて聞くことができる。そうすれば、彼女はすぐに重要な情報を教えてくれるだろう。すると彼女は同僚の所に戻ってこう言えるのだ。「私は密告者ではないの。検査官が尋ねてきたから知っていることを話しただけよ。誰にも嘘はつきたくないもの」
常に懐疑論者であれ (ALWAYS THE SKEPTIC)
個人があなたの質問に答えたり、情報を提供したら、懐疑的でなければならない。うぬぼれて解明を怠るようなことがあってはならない。ホーテンスという従業員に売掛金の修正について質問をしたとしよう。彼女は長々と詳細な説明を始めたが、何かが矛盾しているように思えた。ホーテンスに再度話をさせ、いくつかの点について詳しく述べてもらう。このような質問はすぐに聞いても、数時間後でもよい。もしホーテンスが嘘をついていたら、話を思い出さなければならないし、身振りでわかるだろう。多くの場合通用する嘘を見分ける簡単な方法の一つは、矛盾を指摘することである。真実を話していたら、選択肢はない。つまり、嘘をついていなければ、いつ質問を繰り返そうが、どのように質問を繰り返そうが、出てくる答えは一つなのである。通常の調査では、マネージャーに多くの質問をするだろう。彼らはあなたが聞きたいようなことを話すであろう。その時が疑うべき時である。
例えば「前倒しして小切手にサインをしたことがありますか」と聞くと、彼らは「もちろんありません」とはっきり答えるだろう。
ところが、小切手帳を精査すると、前倒しして署名された小切手が六枚出てきて、マネージャーの一人に突きつけると、「それは、署名権者が休暇を取るときにだけするんです」と答えるかもしれない。小切手への前倒し署名を禁止する規定の効力など、この程度である。
次に「金庫室はありますか?」と聞いたら、彼らは「はい」と答えるかもしれない。
「金庫室に入れるのは誰ですか?」と続けると、
「許可された社員だけです」と言うだろう。
部屋の片隅に設置された銀行にあるような金庫室には、何とも見栄えのよい「担当者以外立ち入り禁止」という大きな注意書きが掲げられている。しかしドアは開いたままで、数名が金庫室に出たり入ったりしているではないか。セキュリティーはないも同然である。クライアントの内部統制を確かめるために、金庫室への入室を試みる。誰もあなたが何者であるか知らないのに、スーツを着用していることで、一瞬にして信頼を得たようだ。注意されることはなかった。入室し、中を見渡すと、棚に大量の紙束が確認できた。束の一番上にはパンチ穴が空けられていない1万ドルの無記名債権(bearer bond)の紙があった、つまり取り消されていないのである。そこにあるのは支払代行機関に持っていけば1万ドルとなる現金である。あなたがCFEであればこれは、不正のトライアングルの中でも最も重要な要因である「不正の機会」だということがわかるだろう。施錠され守られているように見える職場であっても、注意深く見れば乏しい安全対策下にあったりするかもしれない。
次に、あなたがロッキートップ市の市役所での資金紛失の調査に関わったとしよう。市の月次銀行取引明細書から戻り小切手や、コピー複写された小切手、あるいは電子支払済み小切手を精査したとき、あなたはロッキートップ警察署宛の1,500.25ドルの小切手が「無効」と明記され現金化されていることに気がつく。小切手には市長の署名印と市の財務担当者の直筆の署名があった。小切手の裏には通常「預金専用、ロッキートップ市」という規定の印が押印されるところ、市の名前と住所の印が押されていた。また、銀行の処理済印により、現金化されたのは午前9時40分であったことがわかった。
あなたは財務担当者に小切手のことを聞くと、担当者は現金化されていたことは知っており、それは「洗浄取引」(wash transaction)であり、自分自身へのメモとして小切手に「無効」と記したと説明した。現金化した後に、現金は不要だと気がついたので、すぐに代金を再び預け入れたのだと述べた。彼は小切手が振り出されたのと同じ口座に1,500.25ドルが預金されたことを示すキャッシュ・チケットを作成していた。元の小切手が現金化されたたった50秒後に、同日、同時間のスタンプ付けで入金されていたのだ。あなたは、小切手が現金化された同日、同じ口座に1,500.25ドルが預金されたことを表す銀行取引明細書を精査した。財務担当者の行動が疑わしいと思ったものの、彼は、もっともらしい説明をし、銀行口座に資金が再度入金されたことを証明する書類も手に入れた。万事解決、と言えるだろうか。
それでは、次の質問に自問自答してみよう。説明は、理にかなうだろうか。ロッキートップ警察署の誰かに会ったか。なぜ警察署に現金が必要なのか。全ての部署の通常の請求書は、通常市政の業務の一部であれば、市の一般資金から支払われる。警察署長が薬物購入のために現金が必要だったのかもしれない。そうであれば現金を要求することは妥当であるが、警察署長が薬物購入のために1,500ドルと25セントを要求するものだろうか。もしそのような要求があったとしても、警察所長が宛名となるような小切手を作成すべきでないだろう。一連の取引は道理にかなっているだろうか。しかし、あなたは口座から現金化され、再度入金された旨を記した書類を持っている。それは本物だろうか。
もし財務担当者の小切手に関する一連の説明を鵜呑みにしたら、監査人または不正検査士として大変な過ちを犯したことになる。だまされているのだ。あなたは、小切手の代金が口座に再度入金されたと思い込んでしまったのだ。あなたには知らなかったことがあった。財務担当者が毎朝郵便物を確認し、預け入れ金を用意し、入金をし、銀行取引明細書を照合していたことだ。(外部監査人は、年次監査の一環として、内部統制の改善について助言をしなかった)財務担当者は、臨時収入源であり市の売掛金台帳に記録のなかった3通の小切手を受け取り、入金しなかったのである。お分かりのように3通の小切手の合計が1,500.25ドルであった。彼は単純に宛名のない小切手を振り出し、現金化して着服をした上で、現金化した小切手と合計で同額になる3つの小切手を預け入れた。彼は目前の機会を利用したのである。これは彼の最初の犯行ではなく、別に465,000ドルを着服していた。
(この記事の報告書の全容に関しては、www.comptroller1.state.tn.us/RA_MA/を参照のこと。2001年11月のロックウッド市まで下にスクロールすること)
有能で、動き回り、外向的な、傾聴する懐疑論者
(THE CONSUMMATE MOBILE, EXTROVERTED, LISTENING SKEPTIC)
現場を歩き回り、従業員と親しくなって、何気ない会話に耳を傾け、さりげない態度の裏にも常に懐疑的であることで、監査や不正調査の上で重大な発見にたどり着くことができる。これらの助言に従うことで、不正発見の鍵となる重要な情報を発見する機会を得るだろう。
デニス・F. ダイカス氏 CFE、CPA、CGFM、
テネシー州会計監査室 地方自治体監査課ディレクター、およびACFE財団法人の取締役会の役員である。彼はまた、ACFE評議委員会の元委員であり、ACFE准職員、中部テネシーACFE支部の名誉会長を務めている。