被害者学という学問があることをご存知だろうか? "犯罪"と聞くと犯罪を行う側に焦点を当てがちで、犯罪者の側から犯罪を見ることが多く、被害者については見落とす傾向がある。しかし、被害者について知ることは、不正だけでなく、犯罪全般において非常に重要なポイントとなる。また、被害者の情報は、特に刑事事件において、加害者を特定する上で重要である。
この被害者について研究する学問を"被害者学"と呼ぶ。被害者学では、被害者と加害者との関係性の研究は勿論のこと、被害者側の視点による犯罪に至る経緯の考察や、被害を受けやすい特性の研究なども行う。また、実際に被害を受けた者の救済・支援についても考察しなければならない。
テレマーケティング詐欺 (電話による詐欺) の被害者には、"Trusted Criminals = (電話の向こう側にいる) 被疑者を信用した"という共通点がある。振り込め詐欺やオレオレ詐欺などの事例を考えてみると容易に理解できるだろう。電話を使ったこれらの詐欺の特徴は、罠にかけようとする相手 (被害者の候補) が大量、無差別であるという点と、お互いに相手の顔が見えないという点があるが、最も重要なのは、すべての被害者が、顔の見えない (ほとんどの場合で会ったことすらない) 相手を信用してしまったという点である。
よく「自分の息子なら声を聞けば分かるのだから、騙されたりしないのでは?」と言われるが、実際に「オレだよ、オレ」と言われると、各々が自らの交友関係にある人物を想像してしまうため、電話の相手を自分が思い描いた人物本人であると錯覚してしまう。ましてや、仕掛ける側が落ち込んでいるフリをしていたり泣き真似をしていたりすると、声音が違うことに疑いを抱きにくくなり、また、普段とは違う様子に自らも動揺して正常な判断ができなくなる。
また、これらの詐欺の被害者は、自分自身が簡単に騙されてしまったことを恥じ、自分自身を責める傾向がある。
では、これを映画「マネー・ゲーム 株価大暴落」(原題"Boiler Room") を通じて考察するが、今回は映画の紹介を行う。
この映画は、セスという青年が主人公である。親に無断で大学を中退し、ニューヨークの一角であるクィーンズで、友人と共に学生相手の違法カジノを経営して大儲けしていた所からストーリーは始まる。
ある日、アダムという男が来て、セスの経営手腕に感心し、ブローカーにならないかと誘われる。セスは違法カジノの経営だけで十分に満足していたが、判事の職に就く父親にそのことが発覚して大目玉を食らう。セスは、父親との関係を良くするためにと、アダムに誘われた"JTマーリン社"へと面接に向かう。
マーリン社は小さい会社ではあったが、従業員の男達は新たな顧客の確保のために電話をかけ続けていて、オフィス内は熱気であふれかえっていた。
面接官のジムは言う。「金さえあれば何でもできる。金を稼ぎたいならココで働きまくれ」
マーリン社のやり手従業員たちは皆揃って高級車に乗り、広い家に住み、高価な服を着ている。そんな彼らに憧れ、セスは電話をかけまくる。
マーリン社の事業は、製薬会社の未公開株を電話勧誘で買わせるというもので、まったく価値のない株を言葉巧みに売りつけることで利益を上げていた。セスも多くの顧客に株を売りつけることに成功し、それだけ被害者が増えていく。中には家庭崩壊にまで至る人もいた。そして最後は FBI による捜査のメスが入る。
次回は、この映画での一場面を取り上げて、被害者学的視点から考察を行う所存です。
株式会社ディー・クエスト 公認不正検査士 山本 真智子