執筆者:Dennis Lawrence
原文掲載日:2021年1月27日
仮想通貨(暗号資産)のニュースが再び増えてきた。新型コロナウイルスの世界的な流行の真っただ中で、アメリカの通貨供給量はこれまでにないほど増加し、機関投資家や上場会社は記録的な量のビットコインを買っている。これまでは実験的な資産でインフレのリスクヘッジと見なされてきたが、こうした組織規模の投資の新しい波は、2017年の個人投資家によるバブルとは様相が異なっている。その証拠に、中国で2番目に大きい銀行がビットコインで売買できる30億ドル相当の債権の販売を発表したほか、ナスダックに上場しているビジネスインテリジェンス企業 MicroStrategy社が転換社債を発行してビットコインを購入している。
とはいうものの、仮想通貨の時代は始まったばかりで金融市場で長期的に存在できるかどうかはまだわからない。2021年の仮想通貨が直面する可能性があるリスクについて予測する。
ブロックチェーン分析企業CipherTrace社によると、アメリカのビットコインATMからハイリスクな取引所への送金は2017年以来毎年倍増しており、現在はビットコインATMを使った全送金のうち8%を占めている。この心配になる統計は、ビットコインATMは新規顧客が参加しやすく取引が容易なことから、麻薬犯罪組織にとって違法な金を最小限の監視で、国境を越えてスピーディーに送金できる最良のツールであることを示している。ヨーロッパやアメリカのマネーロンダリング組織の摘発は、コロンビアやメキシコの麻薬組織が国外のドラッグ売買で得た現金を現地通貨からビットコインATMを使って仮想通貨に交換し、即座にペソに換金するマネーロンダリングの仕組みを明らかにした。仮想通貨ATMをめぐる各国のコンプライアンス要件がばらばらであるために、たとえば出し子に政府発行の身分証明書を持たせてATMに並ばせるなどして、犯罪者は最小限の努力で法律の裏をかくことができる。結果的に、監督官庁にとっては再び懸念事項となるだろう。
今年、アメリカ国民が確定申告をする時には、Form1040(U.S Individual Income Tax Return:個人所得税申告書)に次の質問への回答を記入しなければならない。「2020年内に、仮想通貨を受け取ったり、売ったり、送金したり、交換したり、利子を受け取るなどしましたか?」。アメリカ内国歳入庁(IRS)の質問は税金に関するものだが、その先にある事柄を暗示している。離婚弁護士は、ビットコイン保有の有無を開示しなかったために婚前契約を無効にできるか? 政府はどのようにして仮想通貨を使った公務員への贈賄を検知するのか? 追跡が難しい取引を調査するブロックチェーン・フォレンジックの市場は、ここ数年でひそかに広がり始めており、今年も拡大していくだろう。
GeminiやFidelity Digital Assets(フィディリティ証券の子会社)のような仮想通貨取引所は、最先端のセキュリティーを導入し顧客の保護に努めているが、大半の取引所はこのレベルの防御策を達成できていない。小さな取引所、特に新興の取引所は、甚大な被害をもたらしてきたハッカーの標的になっている。2020年12月にロシアの仮想通貨取引所Livecoinが「全サーバーのコントロールを失った」として顧客に対して全取引を停止するよう求めた事案は記憶に新しい。ビットコインが世界で最も価値のある資産となり、狙われやすくなるにつれて、ネットワークセキュリティーやブランドの信用度、換金能力の高さなどによって、小さな取引所はこれまで以上に高度なサイバー攻撃に苦しめられるだろう。
アメリカ通貨監督庁の言葉を借りれば、「誰もビットコインを禁止するつもりはない」。とはいえ、G7は繰り返しデジタル通貨の規制の必要性に言及し、アメリカ政府は仮想通貨業界と現在の金融システムの間を埋める規制法案を議会に提出した。おそらく最も活発に議論されているのは、私用のオフラインストレージデバイスなどの個人所有のウォレットを含め、取引対象の顧客を確認するためのデューデリジェンスをどう確立するかだ。オフラインのストレージデバイスは監視の対象外で悪用されやすい。今後数カ月あるいは数年でどのような法案が可決されるかはわからないが、アメリカの監督官庁が仮想通貨業界の動向を注視しているのは明らかだ。さらに、規制違反でヨーロッパの仮想通貨取引所が最近相次いで閉鎖したことが暗示しているのは、顧客確認とマネーロンダリング対策が脆弱なアメリカの取引所は存在できなくなる恐れがあるということだ。
2020年12月、アメリカの主要株価指数であるダウ工業株30種平均を算出しているS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、2021年に、信頼できる価格データとして仮想通貨の価格指数を始めると発表した。この行動が金融市場に打ち出したメッセージは明確だ。仮想通貨はここに存在している。しかし業界が拡大するには、ルールに従って運営されなければならない。どんな新しいマーケットでも同様だが、変化は急速に訪れる可能性があり、仮想通貨に関する情報に敏感な人々はゲームをリードすることができるだろう。
英文タイトル :Cryptocurrency Risk Predictions for 2021 and Beyond
英文記事リンク:https://acfeinsights.squarespace.com/acfe-insights/cryptocurrency-risk-predictions-for-2021-and-beyond
翻訳:ACFE JAPAN事務局
※わかりやすさを優先させるため、意訳を行っています。ACFE JAPAN (一般社団法人 日本公認不正検査士協会) 公式の邦訳とは異なる表現を使用している場合があります。