日時:2016年6月13日(月)~15日(水)
場所:ネバダ州ラスベガス
今年で28周年を迎えるACFEの第27回ACFEグローバルカンファレンスが開幕しました。今年も3,000名を超えるACFE会員が世界各国から集まりました。参加者の3割は米国外60か国からで、日本からも8名の参加者が訪米しています。今年のキャッチフレーズは"Reach your peers, Reach your potentials, Reach your goals(仲間に会おう、可能性を広げよう、そして目標に向かおう)"です。
カンファレンスの朝は7時半からスタートします。スポンサーであるLexis Nexisをはじめとする各社が不正対策ソフトなどを展示するTechnology Lounge、不正関係の著書などを販売するACFE Book Store、過去の不正事件に関する様々な資料の展示がされるFraud Museumなどの会場で簡単な朝食も用意され、各国からのCFEの仲間たちと再会を喜びあいます。
毎年カンファレンスに参加する度にメイン会場やACFE Book Storeの規模に驚き、個別セッションの会議室の運営に感心するのですが、3,000人という規模の昼食がサーブされる様子は壮観です。米国の各都市は大規模なコンベンションというビジネスに長けていますね。
ACFEのProgram DirectorであるBruce Dorris(ブルース・ドリス) の開会宣言、Board of RegentsのChairであるTiffany Couch(ティファニー・クーチ)の挨拶、President & CEOであるJames Ratley(ジェームス・ラトリー)による不正と闘う会員の協力を訴えるスピーチに続き、最初のGeneral Session(全員が参加する基調講演)はU.S. District Judge, Southern District of New York(米ニューヨーク州南部地区連邦判事)であるJudge Jed S. Rakoff(ジェド・ラコフ連邦判事)です。今年のCressey Award(ACFE創立の父でもあるドナルド・クレッシー博士の名を取って創設されたクレッシー賞は、不正の防止と抑止に取り組んだ業績者を称えます)はラコフ判事に授与されました。
彼はワールドコム(WorldCom)に110億ドルの不正会計疑惑で、7億5千万ドルの罰金を課しました。2002年7月の同社のChapter11(日本の会社更生法に相当する連邦破産法第11条)の適用申請での負債総額410億ドル(約4兆7000億円)は2001年12月に破綻したエンロンを大きく超え、2008年に経営破綻したリーマン・ブラザーズに抜かれるまでアメリカ合衆国史上最大の経営破綻でした。ハーバード大学ロースクールで法学博士の学位を授与されているラコフ判事は、コロンビア大学のロースクールでホワイトカラー犯罪、科学と法律、集団訴訟、民事および刑事法の相互作用などのコースで教鞭もとっています。
ラコフ判事は世界金融危機後の巨大金融機関の経営者が個人的に訴追されず、責任を問われない事が刑事訴訟制度にとって大きな失敗であると主張しました。2009年のBank of Americaや2011年のCitigroupとのSEC(証券取引委員会)の罰金と和解を(甘いと)退けています。ラコフ判事は、企業を訴追して素早く検察側が勝つことを考えるのではなく、経営者個人に対する訴追を行うべきであるとの決意表明をしています。彼は、経営者であれば、遅かれ早かれ会社の不正行為の状況に気づくはずで、経営者があえてそれを無視し、それ以上は追及しないとすれば、"Reckless Disregard(重大な見落とし)"や"Willful Negligence(未必の故意)"の状態で不正行為を認識していたのと同様であるとも語っています。この厳しさは、米国と比べると経済犯罪に対して甘い日本からの参加者にとっては驚きです。我々は、来るべき司法取引を含めて、企業の経営者による経済犯罪の取り扱いを考える必要があると思います。
ACFEカンファレンスの特徴は朝と昼に行われる有名な講演者による基調講演だけではなく、公募により会員によって行われる80種類のBreaking Session(分科会)が13会場で同時に行われることです。
第1日目午前中の分科会はコンサルティング会社Cohn Reznick Advisory GroupでコンピューターフォレンジックのManagerをしているScott Johnson(スコット・ジョンソン)による"Corporate Secrets: Managing and Investigating Employees Leaving Your Enterprise"に参加しました。ITの発達により、社員が会社を辞める際の重要な企業データに関する事故が増加しています。従業員管理によるデータ漏えい対策の環境を高めていく必要があります。雇用者による調査とデータの回復、民事および刑事の訴訟に関する証拠文書化などに関する情報共有です。正規の期間を経た自己都合退職、即時解雇、競争相手への転職など、退職ケースごとにインタビューや調査を含めた手続きを定めておくこと、特にコンピューター、データ関係に関する決めておくべき手続きを解説し、デジタルフォレンジックによるコンピューターの証拠保全、退職理由の調査、退職者インタビュー(Exit Interview)の重要性を強調しました。
ランチセッションでは、年間で最も優れた講演者に与えられるSpeaker of the Year AwardがACFEの職員であるJames Bakerに与えられました。そして、アカデミー賞俳優のRichard Dreyfuss(リチャード・ドレイファス)によるスピーチです。彼は米国史上最大のPonzi Scheme(金融詐欺)となったマドフ事件を描いたABCのテレビ映画 "Madoff"で禁固150年を言い渡され服役中の元NASDAQ会長でもあった経済犯Bernie Madoff(バーニー・マドフ)を演じました。極悪非道な事件の犯人なのに、こんなに伝説的で魅力的な人物は演じたことがないと、家族、事件関係者、被害者から聞き取りをしたマドフの人を引き付ける力を語りました。マドフの犯罪の悪影響の大きさ、ハリー・マルコポロスにも言及し、CFEへの期待を語りました。
午後の前半の分科会は、弁護士でEmployment Screening Resourcesという採用バックグランド調査会社の経営者であるLester Rosen(レスター・ローセン)による"Background Checks and Reducing the Insider Threat : Strategies Before and After Hiring"に参加しました。
雇用後、"Insider(内部者、社員)"となった人間によって犯罪を起こされて後悔するのではなく、「安全な採用」をしようとの啓蒙です。損害として、暴力、窃盗、詐欺、会社の信用の失墜、訴訟、データ漏えい、解雇・再雇用のコストなどが考えられますが、これらの可能性や嘘を面接で見抜くのはまず困難なので、信頼できる業者のサービスを購入すべきとの主張です。彼の会社では、幾つもの観点からスクリーニングの総合点を数値化して表すそうです。新規採用、M&Aによる社員の増加の際には勿論のこと、採用後も継続的なモニタリングが必要との主張でした。
彼は採用調査の要点を"screen"として以下の様にリストしています。S--Sources of information(調査元)は公的、私的記録、他者への照会と揃えること、C--Consent in writing under Fair Credit Reporting Act (FCRA) and State Laws(連保法・州法の順守)、R--Rationale(勘に頼らず事実を見つめること)、E--Even-handed (公平に)、E--Effectiveness(一つの方法に頼らず総合的に)、N--Not an FBI(捜査ではなく あくまでDue Diligenceであることを忘れずに)。採用調査の問題は日本ではより繊細な問題であり、米国の状況とはかなり乖離があることを感じました。
午後の後半の分科会は、MGM Resorts International (以後 MGM RI) の内部監査担当重役であるRobert Rudloff(ロバート・ルドルフ)による"Internal Audit and Fraud Departments: Working Together"に参加しました。Senior Vice President(上級副社長)というOfficer(執行役・経営者)クラスによるセッションは珍しいので選択しました。30年以上にわたり遊興産業(カジノ)の世界で生きてきてドナルド・トランプ氏にも仕えたことがあるそうです。
内部監査と不正調査の技術は重なり合っているため、協力することによって不正発見の有効性を高めることが可能になるという主張です。MGM RIをケースとして、両部署の業務の差異を理解したうえでの「協力」について情報共有しました。不正調査業務は、断片的で一貫性がなく、標準はなく、一時的であるという特徴を持っています。彼は、2013年に同業25社への不正調査部門に関する調査を行い、21社から回答を得て、Fraud Managementなどの不正管理の部署については、5社は専門部署が無く、13社は内部監査、2社が法務部、1社がLoss Prevention内に存在したことを明らかにしました。MGM RIでは、上級副社長SVP-Fraud Controlの下にFraud Control Departmentとして14名のチームがおり、Security, Surveillance, Compliance, Risk Management, Internal Auditなどの他部署と協働しているそうです。カジノという特殊性もあり、現金やチップのやり取り、従業員の監視、カメラ監視など、仕事量もトラブルも多いようです。内部監査部と協働し、重複を作らず、シナジーを生み出す努力をしていることを強調していました。分科会では、彼のように、ある程度話せるところまで自社の情報を公開したうえで、他社の専門家と議論する機会にしているスピーカーもいるのも特徴です。
夜はJim Ratleyの招待による各国のChapter(支部)代表を集めてのACFE President's Receptionに参加しました。
ACFE JAPAN 理事長 濱田眞樹人