「これまでの米国に対する全てのテロ行為において、偽造または盗まれた個人情報が利用されてきました」とは、ミシガン州立大学個人情報盗難犯罪研究所(Michigan State University Identity Theft Crime and Research Lab)の身分詐欺専門家ジュディス・コリンズ氏。コリンズ氏によると、個人情報窃盗の5%がテロと、2%がアルカイダと繋がりがあるという。事実、米国同時多発テロに関与したアルカイダのメンバーの一人は、複数の異なる名前を使って14の銀行口座を開設していたが、その全てが偽名か盗まれたものであった。
テロリストは通常、盗難または偽の社会保障番号やクレジットカード、パスポートを使って身分を偽装し、テロ活動の資金を得ている。個人情報窃盗はおそらく、これまでテロリストが関与してきた最も利益の上がる事業の一つであるばかりでなく、彼らは同犯罪からカネよりもさらに多くを得ている。テロリストは個人情報を盗むことで、警戒リストを逃れ、居場所を隠し、テロリストへの資金供給活動を支援し、さらに航空会社の搭乗ゲートや国境検問所、その他の監視施設などのエントリーポイントに無断でアクセスできるのだ。
FBIテロリズム・レビュー・グループの元捜査官デニス・ローメル氏によると、個人情報窃盗の一つの重大な側面は、「匿名性というベール」にあるという。個人情報は通常、銀行詐欺、クレジットカード詐欺、電子通信詐欺、郵便詐欺、詐欺破産、コンピューター犯罪の犯行を目的に盗まれる。また、匿名であるということはつまり、「盗まれた個人情報を使えば、ほぼ全ての金融犯罪任務が成功する可能性が高まるのです」とローメル氏は述べており、ここでもやはり、犯罪科学調査官による個人情報の謎解明の重要性が増すのだ。
9・11委員会報告書は、世界貿易センターの爆破に関与したテロリストが身分詐欺を働いていた事実を確立し、「渡航書類は兵器と同様に重要だ」としている。結局のところ、テロリストは通常、面会や訓練、計画、下調べ、攻撃の際の侵入のために、密かに移動しなければならないのだ。
住宅ローン詐欺
住宅ローン詐欺は最も急増するホワイトカラー犯罪だと金融専門家は言う。テロリストやその支持者にとってこれまでテロの資金調達に用いられてきたリスクの高い麻薬取引や利益の少ないその他の軽犯罪と比べ、短期間で何十万ドルもの資金を創出できる手軽さが、住宅ローン詐欺の魅力だ。
FBIは住宅ローン詐欺とテロ捜査との繋がりを発見した。2006年、ミシガン州在住のネムル・アリ・ラハルは、テロ活動の余罪に問われるのを避けるため、住宅ローン詐欺の罪を認めた。逮捕の際連邦当局は、ラハルの自宅からテロ組織ヒズボラの書物、ポスター、採用ビデオを発見した。ラハルは住宅ローン申込書の情報を偽り、50万ドル以上ものカネを不正に得ていたのだ。
ミシガン州のもう一つの例では、2人の男、モハメド・クライェムとユセフ・コウラニが不動産詐欺とタバコの密輸から得た20万ドル以上の資金を南レバノンのヒズボラ治安部隊長官に送金している。2005年6月、アフマド・ジェブリルとムサ・ジェブリルは6つの銀行から25万ドル、また多数の人々から最高40万ドルを騙し取った末、住宅ローン詐欺で有罪判決を受けた。
ジェブリルは両者ともハマスの有力な支持者であり、連邦当局はアフマド・ジェブリルが米国に聖戦(ジハード)を挑むため地元の男たちの小集団を訓練していたことを発見した。住宅ローン詐欺の有罪判決後、ジェブリル両者と仲間の一人は不正事件の公判中に陪審員を買収しようとしたとして、余罪を問われた。
幸運なことに、急増する住宅ローン詐欺に既に対応してきた住宅ローン産業は、テロ組織の関与に対してより一層意識を高めている。2007年、住宅ローン産業の専門家は鑑定財団(Appraisal Foundation)主催の会議に法執行機関と銀行規制当局の職員と共に出席した。住宅ローン詐欺防止を先導する一企業インターシンクス(Interthinx)のコニー・ウィルソンCFEは、ヒズボラ、イスラム・ジハード、さらにタリバンがいかにして米国に住宅ローン詐欺組織を構築したかを説明した。
チャリティー詐欺
世界にはあらゆる社会の利益に貢献する数多くの合法的な慈善団体が存在し、こうした団体は多くの場合、世界の非常に困窮した地域と資金をやり取りしている。慈善団体は人々から信頼され、相当な額の資金を動かすことができ、その活動はたいていが現金に基づいている。なかには世界中で活動を展開する団体もあり、その多くがテロ活動の盛んな地域やその近辺で、国内外での活動や金融取引の枠組みを提供している。しかしこうした事実は、慈善団体と非営利団体がテロリストにとって魅力的な理由のごく一部に過ぎない。
国際的に知られるテロリスト専門家スティーブン・エマーソン氏は、米国同時多発テロ事件の翌年に出版した論文で「慈善団体は米国同時多発テロで重大な役割を果たした」と述べている。営利法人や個人と比べ、慈善団体は国税庁(IRS)による監視が極めて弱いため、テロ活動に従事する慈善団体が時として米国国際開発庁(USAID, U.S. Agency for International Development )といった政府の助成プログラムから資金援助を得ることに成功していたと、エマーソン氏は論じている。
慈善団体はテロ活動を目的とする多額な資金調達の完璧な隠れ蓑だ。例えば2008年、テキサス州北地区で、米国対ホーリーランド財団の被告全員にマネーロンダリングと税金詐欺を含むテロ資金調達の罪で有罪判決が下された。ホーリーランド財団は13年以上にわたりハマスのために何百万ドルもの資金を調達していたのだ。
慈善事業部門が有する莫大な資金とその他の資産が、ごくわずかな割合の資金がテロ活動の支援に流用され消えていくのを隠す優れたカモフラージュとなっているのだ。
保険詐欺
2006年、カリム・コーブリティと共同被告アウメド・ハノンは、米国裁判所において、タイタン保険会社からカネを騙し取る「経済的ジハード(economic jihad)」計画に関連して郵便詐欺、保険詐欺、及びテロの物質的支援を行ったとして有罪判決を受けた。同事件では、コーブリティとハノンが自動車事故で怪我をしたと偽り、タイタンに虚偽の保険金請求を行っていた。コーブリティとハノンは医療費、賃金の損失、両者が主張する怪我が原因で発生した走行費用とサービス費用の偽りの請求書を提供していたのだ。コーブリティの動機は2つ、「テロ活動支援と『米国のビジネスに経済的打撃を与える』ために不正を働くこと」であった。
「進取の気性に富んだある2人組のジハディスト(聖戦士)は、ドイツで100万ドル近くの生命保険に加入し、見せかけの交通事故で一人の死を演出し、イラクでの自殺作戦の資金調達を目論んだ」とマスコミは報じている。保険詐欺はテロリストが働く数多くの詐欺計画の一つに過ぎない。2005年、国土安全保障政策研究所(Homeland Security Policy Institute)とワシントン研究所(Washington Institute)の上級研究員マシュー・レビット氏は、上院国土安全保障政府問題委員会(Senate Committee on Homeland Security and Governmental Affairs)で、個々のテロリストたちがクレジットカード詐欺や福祉詐欺、クーポン詐欺、粉ミルクの窃盗と転売、食糧配給券(フードスタンプ)詐欺から活動資金を得ていたことを示唆する証拠があると証言した。証言でレビット氏は「中東のテロリスト集団が調達したおよそ何百万ドルという資金の『相当な割合』が、米国の不法な詐欺産業から捻出された年間2,000万から3,000万ドルのカネからもたらされているというのが、米国当局の見解です」と語った。
移民詐欺
ある種の文書不正は偽造、虚言、虚偽の陳述、またはビザの悪用を通じ移民手続の段階で発生し得る。多くのテロリストにとって、移民詐欺は犯罪活動を始める第一歩なのだ。移民研究センター(Center for Immigration Studies)の研究員マイケル・カットラー氏は、外国人が不正やごまかしを通じて移民資格を得た場合、制度の安全は侵害され、犯罪者とテロリストに制度の抜け穴を狙われてしまうと述べている。
対米テロを計画する個人や、テロ組織の資金調達を行う個人は、移民法違反に関与してきた。世界貿易センターが最初に攻撃された1993年の事件の首謀者ラムジ・ユセフがその一人だ。ユセフは偽造したパスポートと書類を使っていた。9・11委員会の前顧問ジャニス・ケファート氏は『Immigration and Terrorism』と題した報告書を執筆し、1990年代初頭から2004年に米国で活動した外国生まれのテロリスト94人の過去を考察した。報告書でケファート氏は「約3分の2(59人)がテロ活動への参加以前または参加に際して移民詐欺を働いていた」と結論付けた。
不正との闘いに充てられる資源 (RESOURCES DEVOTED TO FIGHTING FRAUD)
米国同時多発テロ捜査の初期段階において、財政面での証拠からハイジャックの犯人と共謀者と特定された犯人との関係が急速に確立された。同事件のテロリストは大胆にもアメリカの銀行口座を開設し、海外から電信送金を受け取っていたため9・11委員会は攻撃に使われた資金を突き止めることができた。
FBIと米司法省(DOJ, U.S. Department of Justice) は、テロリストの財政に関してより包括的で中央集約的な対応の必要性を認識した。しかし前述したように、大規模な組織的捜査が必ずしも差し迫った攻撃の証拠を掴むとは限らない。半自治的なテロ集団は、それがいかに小さなものであったとしても、自身の不法な資金集めを通じて目的達成のための十分な資金を捻出できる。今後攻撃の防止に努める者たちにとって警戒すべきは、ホーリーランド財団の事例のように、少額の資金ほど大金と比べ追跡が困難であることだ。
同時多発テロ後、FBIは国家安全における役割を拡大するために犯罪捜査に係る要因を大幅に削減し、犯罪プログラムの捜査官1,800人以上をテロと諜報に係る職務に動員した。元当局者と現当局者は、こうした削減の結果、FBIはホワイトカラー犯罪のような捜査領域において無防備な状態になってしまったと話す。財務省検察部(Secret Service)や米国郵政公社(U.S. Postal Service)など他機関の事例を含んだDOJのデータがその影響を明らかに示している。
2000年から2007年の間に金融機関を狙った不正の起訴件数は48%減少、保険詐欺事件では75%激減し、証券詐欺事件では17%低下した。シラキュース大学(Syracuse University)の取引記録アクセス情報センター(Transactional Records Access Clearinghouse)研究グループが若干異なる方法を用いてFBIに対象を絞った統計は、同期間のホワイトカラー犯罪全体の起訴件数が50%近く減少という、より急激な落ち込みを示している。
捜査により企業の不正行為が発見された時でさえ、過去4年間の多くの事件でDOJは企業が刑事起訴を免れる代わりに罰金を支払う「起訴延期(deferred prosecutions)」を容認した。アルベルト・ゴンザレス司法長官の下で司法次官を努めたポール・マクナルティー氏は、「司法省が資源一般に関してぎりぎりの状態であるのは間違いありません。そして結果としてさまざまな領域でホワイトカラー犯罪に対する法の執行に影響が出ているのです」と語る。幸運なことに、行政管理予算局(Office of Management and Budget)が2011年のFBIの対ホワイトカラー犯罪予算を1億400万ドル引き上げたことを受けて、FBIは最近になって住宅ローン詐欺とその他のホワイトカラー犯罪の捜査に携わる捜査官を増員した。
しかし、だからと言ってこれが実際の増加を意味するのか、こうした増加が大きな変化をもたらすのかは定かではない。なぜならこうした予算の引き上げ額は、予算削減前に本来FBIの対ホワイトカラー犯罪に充てられるべきものだったからだ。例えば2001年から2007年までに、FBIは国家安全に係る捜査とは別に、ホワイトカラー犯罪などの犯罪捜査に1,100人を超える捜査官の増員を求めた。しかしFBIによると、当局は132人の捜査員の減少を被ったという。同データはまた、625人の捜査員削減、2001年比で36%の減少と、住宅ローン詐欺などのホワイトカラー犯罪における人員の削減が深刻であることを示した。
合法企業のテロとの係り (LEGITIMATE BUSINESSES INTERACTING WITH TERRORISM)
慈善団体やその他類似の非営利団体はテロリストにとって優れた隠れ蓑となるが、国際的なテロリストを直接支援する営利法人がテロリストによって利用されていることも明らかになった。こうした営利法人は、さまざまな営利事業(不動産取引やインターネット・ベンチャー、その他表面上は無害なビジネス取引)からの利益が世界的なテロの資金調達に使われていることを隠すため、貸借対照表や財務報告書を改ざんすることができる。テロリストが一般社会や政府の監視の目にほとんど触れることなく資金を移動できるのは不正会計を伴うこうした企業モデルが存在するからだ。
テロ組織に代わって事業を営む企業がある市場や国への潜入を目論む時、通常はその市場で評判が高く既に確立された企業の中から加担者を捜し求める。ソマリアの巨大な電子通信市場シェアを誇るアル・バラカットの子会社、バラカット・テレコミュニケーションズの場合がそうだ。
同時多発テロ後、米国政府は2001年11月7日にアル・バラカットの巨大複合企業の資産を凍結し、アル・バラカットとその子会社を特別指定国際テロリスト(Specially Designated Global Terrorist Entities)に指定した。ソマリア全土の通信を支配することで、バラカットはインターネットや安全な電話回線を通じたテロリスト同士の連絡手段を確保することができたのだ。
ソマリアには正式通貨がないため、バラカット・テレコミュニケーションズは、たいてい湾岸諸国の銀行を通して資金を世界各地のテロリストに配布する役割を果たしていた。興味深いのは、バラカットは既存の電気通信網を拡大するためにインターウェーブ(InterWave)という名の米企業と提携を結んでいたことだ。同ケースで、テロリストは米国内で効果的に活動し、同時多発テロのために直接資金を調達・消費していた。
もう一つの事例では、欧州委員会(EC, European Commission)がレイノルズ・タバコ・カンパニー(RJR, RJ Reynolds Tobacco Company)の親会社、RJRナビスコ(RJ Reynolds Nabisco)に対し、タバコの流用・密輸の際にRJRがマネーロンダリングと詐欺行為を働いたとして訴訟を起こした。
RJRはタバコをイラクに直接売り込み販売することができなかったため、キプロスに拠点を置く企業を利用してこうした制約を回避しイラクでタバコを販売していた―『International Journal of Comparative and Applied Criminal Justice』2008年春号に掲載された記事『The Nexus of Organized Crime and Terrorism: Two Case Studies in Cigarette Smuggling』で、ルイーズ・I・シェリー教授とシャロン・A・メルツァー教授は述べている。
長期にわたる欧州委員会の捜査の結果、同委員会は米国裁判所において、米国の主要企業が自国の法律とイラクへの販売を禁ずる国連の禁輸措置の両方に違反し、さらにテロ組織として知られる団体と共謀してこうした違反行為に及んだという、重要な証拠を提示した。こうした違反行為の結果、ECは税収を失うこととなったのだ。
同タバコ密輸犯罪は、文書不正、偽造請求書、マネーロンダリングといったその他の不法行為を伴うもので、RJRは巨額の売上達成のためにテロ集団に賄賂を支払っていたと伝えられている。
最終的に、RJRは利益と市場シェアを獲得するために電子通信詐欺、偽造書類の作成、脱税、禁輸措置を故意に破り、テロリストと知りながらも彼らと協力していたことが分かった。シェリー教授とメルツァー教授によると、これらの行為は全て、犯罪組織に共通する特徴だという。しかし、米国裁判所は同訴訟を却下した。それは、RJRに対する申し立てが真実でなかったからではなく、外国の税法執行は管轄外と判断したためだと、米国裁判所は意見書で説明している。同裁判所の意見によると、RJRの活動の結果ECが税収の損失を被ったか否かに関わらず、米国裁判所による紛争解決において外国の税法を承認すべきか否かの決定を下すのは、司法機関ではなく行政機関の任務であるとしている。
裁判所の意見はともかくとして、同事件で興味深いのは、欧州側の捜査によってRJRが米国と国連によるイラクへのタバコ販売禁止措置を犯したことを示す決定的な証拠があったにも関わらず、米国側の独立捜査がなんら行われていなかったことだ。多くの面で、刑事処分の可能性が低く金銭的な見返りが多大であるという企業による費用便益分析結果から、企業とテロリストとの繋がりをリスクのないものに見せている。
考察 (CONSIDERATIONS)
「1995年、世界貿易センター・ツインタワー爆破事件の犯人ラムジ・ヨセフの逮捕後、FBIがヨセフを移送するためヘリコプターでマンハッタンの上空を飛行中、FBI捜査官はユセフの目隠しを引っ張り上げ、世界貿易センターの照明が今尚明るく光り続ける様子を指差した。捜査官が『ツインタワーを爆破できなかったな』と言うと、ユセフは『十分なカネと爆発物を持っていればできたはずだ』と返答したという。」
―クリストファー・ディッキー(『Securing the City: Inside America’s Best Counterterror Force-The NYPD』)
不正とテロの繋がりに触れた文献に目を通すと、改善点として複数のテーマが一貫して浮かび上がってくる。包括的な対テロ金融捜査は、FBIやCIA、米財務省などの機関による情報共有の拒否といった一連の要因により阻害されているのだ。
この問題は、連邦機関が州政府と情報を共有しない可能性があるという事実によってさらに悪化している。同時多発テロ事件後の今日でさえ、州と地方の法執行機関が連邦機関から実質的な情報を得るのは、不可能ではないにしろ非常に困難なのだ。
ここで問題が生じる。DOJ(司法省)は自身が拒否するホワイトカラー犯罪の捜査を、これまで以上に州・地方当局に頼っているからだ。各機関同士の協力と情報共有は、相乗的な解決策の構築に不可欠だ。なかには、機先を制することなしに同時多発テロが起こったのは、FBIとCIAがテロリストの情報を共有しなかったからだと考える者もいる。機関の整合性を保ちつつ各機関同士の協力を促進するために、機関間の覚書が必要かもしれない。
州・地方レベルでの問題の一つは、検察側がテロと繋がっている可能性のある不正に適切に応じるための資金、訓練、捜査のサポート陣を持ち得ていない点だ。不正がいかにして行われるか、他の犯罪と合わせて実行されたときの不正が果たす役割の重要性について、認識、教育、そして経験が欠如しがちだ。例えばアリゾナ州では、テリー・ゴダード検事総長が住宅ローン詐欺とその他のホワイトカラー事件を追っていたが、資源の限界により、州予算削減のために今年に入って49の職を削除した。
州レベルでは、ホワイトカラー犯罪と闘うための検察官の訓練は不可欠で、検察側は、テロリストの観点から不正を理解する不正検査士、法廷会計士、法廷監査人を活用できなくてはならない。
ホワイトカラー犯罪は特別な捜査能力を必要とし、優先度の低い任務と見なされるべきではない。特に同種の犯罪がテロ行為の実現に果たす役割の重要性を考えればなおさらだ。ホワイトカラー犯罪の捜査と起訴は専門知識を必要とするため不正対策に特化した増資は州・地方レベルの機関にとって有益となる。
州・地方レベルにおける適切な訓練がなければ、不正とテロの融合を示す危険信号と思われる活動を見逃しかねない。前述したように、テロ攻撃にはさほどの資金は必要ない。そして、テロ行為の機先を制するかは小さな不正事件における地方と州捜査官の連携にかかっているかもしれないのだ。
法執行機関の職員もまた、ビジネス部門との仕事上の関係を深めるべきだ。これまで、民間企業や銀行の顧客の中に存在し得るテロ資金調達問題の認識があまりにも不足していた。官民パートナーシップの精神の下、企業と銀行は不正とテロの繋がりを特定する義務を怠たらず、疑わしい取引報告(Suspicious Activity Report)を金融犯罪取締ネットワーク(Financial Crimes Enforcement Network)に提出し、適切な法執行機関に警告しなければならない。
法執行機関のアナリストは、企業と緊密に連携し、組織犯罪とテロ関与の可能性を示す動向を理解すべきだ。そして最後に、不正とテロの繋がりがいかに重要かというメッセージを発信するために、政府と法執行機関はテロ資金調達に特化した専門家を育成すべきだ。
テロリストを阻止するための協力体制 (TEAM UP TO STOP TERRORISTS)
「20世紀では冷戦が、19世紀では植民地主義がそうであったように、国境を越えた犯罪は政策立案者にとって21世紀を特徴付ける問題だ。テロリストと国境を越えた犯罪集団は急増するであろう。なぜなら、こうした犯罪集団こそがグローバリゼーションの恩恵を受けているからだ。彼らは移動、貿易、速やかな資金移動、電気通信、コンピューター・ネットワークの拡大を巧みに利用し、発展に優位な状態に身を置いているのだ。」
―ルイーズ・I・シェリー(『Methods and Motives: Exploring Links Between Transnational Organized Crime and International Terrorism』)
数多くの不正がテロ資金調達に悪用され得る。しかしCFEは、テロの資金調達手段を評価する上で、危険信号に注目すべきだ。というのもテロリストは資金調達の方法において順応性があるため、米国同時多発テロ以前と手段を変更しているかもしれないからだ。
アジアのバンクオブアメリカ・メリルリンチ、マネーロンダリング・リスク管理部門主任でテロ資金調達の専門家ローハン・ベディ氏は、テロ集団は分散した小規模集団に移行する傾向にあるという。そのため、テロリストは資金ネットワークを必要とするという前提自体がもはや時代遅れかもしれない。
CFEは普段とは違う疑わしい取引への注意を保つとともに、金融制度の犯罪的悪用とテロ資金調達との相違を認識しなければならない。危険信号を常に再調査し、金融機関によるテロ資金調達対策の強化を確実にすることが重要だ。以下の危険信号には特に注意が必要である。
口座
- 最小限の預金しか預けられていない休眠口座に突然、一括または複数の入金があり、その後、振り込まれた額がなくなるまで預金の引き出しが絶えず続く。
- 口座開設の際に、顧客が金融機関の求める情報提供を拒否する、提供する情報を最小限に抑えようとする、または誤解しやすく照合が困難な情報を提供する。
- 口座の署名権限が複数名であるにも関わらず、権限者間の係り(家族関係やビジネス関係のいずれか)が見られない。
- 同一人物が開設した複数口座に小額の預金が幾度も行われ、預金の合計額が顧客の期待所得に相当しない。
預け入れと引き出し
- 企業への預金がその事業に関連した普通の活動とは異質の通貨代替物の組合せでなされる(例えば、業務用小切手、給料小切手、社会保障小切手の組合せによる預金。)
- 通常は現金取引とは関係のない法人口座から多額の現金が引き出される。
- 金融機関の同じ支店で一日に複数の取引が行われているが、異なる窓口係を利用しようとしているのが明らかである。
- 現金の預け入れや引き出し額が、身元確認または報告義務を要する限度額を常にわずかに下回っている。
電信送金
- 明らかに身元確認と報告義務を避ける目的で、小額の電信送金が依頼される。
- 電信送金に送受信者の情報が含まれていない。
- 非営利団体や慈善団体の複数の個人及び法人口座に資金が預金された直後に海外の少数の受取人に送金されている。
- 顧客の代わりに第三者が外国為替取引を行い、その後当該資金が顧客と明確なビジネス関係のない場所や特に懸念される国に電信送金される。
顧客または顧客の事業活動の特徴
- 現金取引に係る複数の個人が住所を共有、または住所が事業所の場所であることや、本人が主張する職業(学生、無職、自営業など)と一致しない。
- 取引の程度や種類が当事者の主張する職業に適合しない。例えば、学生や無職の個人が多数の電信送金を送受信している、または1日あたりの現金引出限度額を広域の複数の場所で引き出している。
- 非営利団体や慈善団体の金融取引に論理的な経済目的が見られず、また、団体の主張する活動と当該取引に係る相手との間に何の関係も存在しない。
- 顧客の事業活動が不明にも関わらず営利事業のために貸金庫が開設される、または、顧客の事業活動が貸金庫の使用を正当できるものでない。
犯罪学者レオン・ラジノヴィッツの言葉を引用すると、犯罪者はグローバリゼーションに順応し、その変化を犯罪計画に取り入れてきた。しかし、テロリストが相乗的な成果を上げるために能力と資源を共有するのと同様に、不正とそのテロとの潜在的な繋がりとの闘いに直接または間接的に携わる全ての関係者と政府機関も、その能力を共有し、テロリストの非人道的な行動に対抗しなければならないのだ。
フランク・S・ペリ(J.D., CFE, CPA)
イリノイ州で弁護士を務める。