ロバートはインターネットでコニーと知り合い、その後すぐにドラマ続きの彼女の人生に巻き込まれていった。苦悩を抱えた乙女を演じるコニーは、ロバートの優しい性格に付け込むため、インターネット上の架空の人物から成る巧妙なネットワークを作り上げたのだ。最終的には、入念な手口によりロバートの退職金口座は枯渇し、キャリアを台無しにさせ、信用を失った。この種のサイバー・サイコには特に気を付けなければならない。
コニー・デルヴェッキオは、ペンシルバニア州の石炭地帯にある小さな町で両親に育てられた。弟と姉の3人兄弟で、姉とは部屋を共有していた。コニーは社交的な子供であると同時に、恐ろしく反社会的な性癖を持ち合わせていた。率直に言って、家族はコニーを気味の悪い問題児と見ていて透明人間のように扱うこともあった。
小さい頃はよく姉の洋服を盗み、そのうちに親戚のカネを盗むようになったが、コニーは決して自分の仕業だと認めなかった。生来のものなのか幼少時から平気で嘘をつき、成長すると共に精神病質者的な行動がより顕著で恐ろしいものとなっていった。コニーは自身の悪事に罪や深い後悔の念を見せるどころか、自身の行為から喜びを得ていたようだ。
コニーは16歳にならずして、誰とでも性関係を持つようになった。高校のバスケットボールで州警察との試合に参加した後、2倍も年の離れたマックスという名の既婚の警官と性行為に及んだ。彼をいとも簡単に誘惑し性行為に及んだことで、コニーは恐喝の材料を手に入れた。二人の人生はその後25年間絡み続けることとなる。
コニーは頭の回転が速く利口だった。多くの人は、コニーを問題のある不安定な人物と見て取ったが、良く知る人にとって彼女は恐ろしい悪魔だった。高校卒業後すぐに結婚し、20歳で初めての子クラリッサを、25歳で2番目の子アンを出産、30代半ばには准看護師の資格を取得した。地域病院で初めての仕事に就いて2週間で、コニーはデメロール入りの注射器数百本を盗み、逮捕された。同僚によると、コニーは患者の麻酔薬も盗んでいたという。コニーは解雇され、免許は剥奪された。
コニーは麻薬中毒者だった。彼女は生涯を通じて、偏頭痛を理由に精神異常行動を隠そうとした。頭痛を理由にコニーは2つのもの手に入れていた。ヒステリックな愚行を頭痛のせいにし同情を買い、通常偏頭痛の応急処置に使用されないデメロールも得ていたのだ。
近隣の病院はどこもコニーを警戒していたため、彼女は何度となく運転免許のない未成年のクラリッサに無理やり運転させ、深夜早朝に遠く離れた緊急外来に連れて行かせた。
「麻薬に完全に酔っていたから、私に運転させたのよ」とクラリッサは言っている。たいていは盗んだ身分証明書を使い、コニーは自身の医療知識を利用して、高用量のデメロールを注射するよう医師を説得した。「本当にうまくごまかしていたわ」とクラリッサは言う。クラリッサは薬物で意識朦朧としたコニーを車の後部座席に乗せて家まで運転して帰っていた。
一人、そしてまた一人と、家族はコニーを見捨てていった。25年間の嵐のような結婚生活はついに終焉を向かえ、前の夫は遠くへ引っ越した。クラリッサは住居を移し、コニーとは家族の縁を切った。「母は死んだも同然よ」とクラリッサははっきり言い切っている。アンは、コニーが重罪を犯し執行猶予規定を破って刑務所に入るまで、母親の強固な保護下に置かれ続けた。その後、一緒に暮らすため父親の元に送られ、母親と会うことは二度となかった。
兄弟でさえもコニーとの縁を切っている。姉のバービーは、コニーはいつも信用できない泥棒だったと若い頃を振り返り、父親が死の床に就いていた時は、「父親の死が近づくにつれ家の物が消えていった」と回想している。コニーが父親の死を早めたと言う者さえいるがコニーは、「苦しみから解放してあげたのよ」と言ったのだ。
危険への飛行 (FLYING INTO DANGER)
ロバート・フリードマンはニューヨークの主要空港の近くで2人の兄弟と安定した温かな家庭で育った。ロバートの母親は教養ある教師で、父親は小さな事業を経営していた。ロバートはパイロットが人々を救済する様子を描いたテレビ番組に夢中で、スーパーマンやその他飛行に関する番組をよく見た。バルサ材で小さな飛行機を作ったり、空飛ぶ鳥を眺めたりするのが好きな子供だった。
部屋の窓から外をじっと眺めているうちに、ロバートは飛んで来る飛行機の経路パターンを解読するようになった。14歳の時にはグライダー飛行に挑戦した。その後、パイロットになろうと決心し、16歳になる頃には一人で飛行するようになり、17歳で自家用機パイロット免許を取得した。ティーンエイジャーの多くが車を運転するようになる前に、ロバートは小さな飛行機を操縦していたのだ。
その後もロバートは航空学の学位を取得するために大学に進んだ。小型機の操縦から飛行機関士としての仕事、そしてボーイング727といった大型民間航空機のパイロットへと昇進するにつれ、パイロットとしての彼の技術は上達していった。32歳で大手航空会社のパイロットに雇われ、究極の夢を実現した。
ロバートは健康的、ハンサムで、気立てが良く、周りの人によく気を配った。結婚相手として望ましい独身の彼は、可能性に溢れていた。人を信用し、自らを危険にさらしてまで他人を気にかける人物だった。
航空会社のパイロットとしての人生はやりがいがあり実りも多かったが、移動ばかりで家を留守にする生活はストレスも多かった。ロバートは完全に仕事に専念していて、彼の経歴には非の打ちどころがなかった。ロバートは人生を謳歌し、投資を積み重ね、将来を気楽に考えていた。40歳でフィラデルフィアに引越した彼は、そこに落ち着き新しい人々との出会いを期待していた。ロバートは、家庭でのインターネットが普及し始めたばかりの1995年に初めてコンピュータを購入した。フィラデルフィアの地元の人々と知り合うためにチャットルームに参加し、自分の名前の頭文字と「フィリー」という単語を組み合わせたスクリーンネームを使用した。
ロバートは、挑発的なスクリーンネームを使ったある女性から初めてインスタントメッセージを受け取るまで、その存在を知らなかった。後にその女性は、自分はコニーだと名を明かした。コニーはロバートのスクリーンネームから彼がフィリーズのファンだと思い、野球について聞いてきた。自身がアトランタ・ブレイブスのファンだったため、「私のブレイブスがあなたのフィリーズを叩きのめしているわよ」と書き、自分はペンシルバニア州西部の小さな街で看護師をしていると言った。メールやインスタントメッセージのやりとりを何度も重ねた後、ロバートとコニーは電話で話すようになった。コニーは小さな街に住む平凡で健全な、セクシー感をわずかに漂わせた女の子を装った。コニーは女子のソフトボールチームに所属していると言い、ロバートはそこに魅力を感じた。
数週間日常的な会話を交わした後、コニーは次第に複雑さと危険の帯びた自分の巻き込まれている状況について話し始めた。話が詳しくなるにつれ真実味は薄れていったが、彼女はそれをもっともらしく語った。コニーに対するロバートの関心は既に薄れていたものの、彼は彼女の身を案じた。コニーを助けたい気持ちから、ロバートは彼女の複雑な人生の物語に耳を傾けた。
脅迫といじめ (INTIMIDATION AND BULLYING)
コニーがロバートに悩みを打ち明け始めて間もなく、彼は見知らぬ人々からメールを受取るようになった。中にはコニーの故郷の法執行機関の職員だと言う者もいれば、一般の人もおり、有名人と自称する者さえいた。何ヵ月もの月日が経つにつれてロバートはますます多くの人からメールを受け取るようになり、送り主の中には政府職員と名乗る者もいた。コニーは彼らの犯罪捜査に仕方なく協力していると言った。
メールの送り主たちはロバートのことを良く知っており、そのことが彼を不安にさせた。ネットワークはますます広がり、コニーはフィラデルフィアを拠点とするヤクザ、ジョーイ・メリーノ率いる組織的犯罪集団の逮捕に協力しているのだと、彼らは口を揃えて言った。コニーは、自分がマークというメジャーリーグのピッチャーと友達だという理由で、ティーンエイジャーの頃に関係を持った警察官マックスから捜査協力を無理やり頼まれているのだというようなことを言った。
メリーノの犯罪組織は、プロ野球の試合中に特定の選手と共謀して賭博に関与しているらしかった。選手らはメリーノの指示に従ってプレーを変えていたのだ。マークは共謀している選手の中の一人だということだった。ロバートはコニーの話に親切に耳を傾けたが、どこまでが本当なのか疑問に思った。質問をすると、事態は悪化するばかりだった。
ロバートはなぜこれほど多くの見知らぬ人々が、まるで彼を密かに調査しているかのように、個人的な事柄の細部まで知っているのか、そして誰もがコニーとつながっていることに当惑した。彼らはロバートにコニーとの連絡を絶たないよう圧力をかけ、それが捜査に役立つと言い張った。ロバートはこの状況から完全に抜け出したかったが、同時にコニーを助けたくもあった。彼にとってコニーは苦悩を抱えた乙女だった。そしてまさにそれが、コニーの意図したことだったのだ。
ロバートはインターネット上の知り合いから脅迫といじめを受けた。そして彼らからのメッセージは激しさを増していった。コニーはヒステリーを起こすようになり、ロバートを混乱させた。彼はますます逃げ場を失っていくようで、インターネット上の攻撃から自分を守る術を知らなかった。コニーはインターネット上の架空の人物から成る複雑なネットワークを作り上げ、それぞれ独特の個性を持つことで彼らは互いの話を裏付けた。ロバートは、すべてコニーの仕業とは知らず、それぞれの人物に対応した。彼らがロバートに自分の生活に関する個人的な情報を明かしたことで、この陰謀は真実味を増していった。
ロバートはインターネットという新しい世界に存在する紛争やドラマに圧倒された。フライトスケジュールをなんとかして守り、たいていはコニーと仕事を両立しなければならなかった。心配で眠れず、心底悩んでいた。
住居侵入 (HOME INVASION)
マックスは、コニーをロバートのアパートに同居させるよう圧力をかけてきた。ロバートとコニーが恋愛関係にあるかのように見せかけ、マークと犯罪組織のボス、メリーノと接触するためにも、コニーはフィラデルフィアにいる必要があると話した。マックスはこの案がメリーノ逮捕計画の一部であるかのように語った。ロバートとコニーが恋人同士ということにしておけば捜査にも役立ち、協力すればロバートは現況から解放され平穏無事な生活に戻れると言った。ロバートの許可なしに、気付かぬうちに彼の銀行口座からカネが定期的に引き落されていた。そのため状況はますます現実のように思われた。
ロバートはこの要求に恐れをなし、断固として断った。メールで、お遊びがあまりに過ぎていることと、マックスと彼の勤務する機関に対して「地獄に落ちろ」と告げた。既に人生の一年が無駄にされ、現況から解放されたかった。ロバートはマックスと彼が所属するとされる機関とは一切関わりたくなかったのだ。
マックスからの返事はすぐに届いた。コニーをすぐにでもフィラデルフィアに連れて来い、さもなければ、ロバートの人生に関わり続け、経済面でも仕事面でも彼の人生は徐々に破壊されるだろうと、きっぱりと告げた。脅迫は過激且つ露骨で、ロバートはこれを深刻に受け止めた。そして要求に屈し、1、2週間限りとの条件付きでコニーをアパートに住ませることを承諾した。マックスはそれで十分だと約束し、ロバートに礼を述べ、後悔はさせないと言った。
6月上旬、ロバートはコニーの住む街へ飛び、レンタカーを借りて彼女を迎えに行った。洋服を車に積み込み、フィラデルフィアに向かった。ロバートは絶望的な気分だったが、「これ以上事態が悪化するはずはない」と考えていた。
インターネット上の多数の人物がコニーの滞在は数週間だけだと約束したにも関わらず、彼女は1年以上も住み続けた。その頃には、インターネット上の人物らによる様々な要求と強奪でロバートの貯金は枯渇していた。ロバートはまた、彼の名義でクレジットカードが作られていることを発見した。その大半が限度額まで使い切られ、彼の信用は失墜した。ロバートは真実を突き止めようと、コニーの言う複雑な情報を必死になって整理した。
ある日の午後、コニーが心底恐怖に怯えた様子でロバートのアパートに戻ってきた。彼女はメリーノのギャング2人にリムジンの後部座席に押し込まれ、太ももの内側をタバコで焼かれたと言った。FBIの捜査に協力するのを止めさせるためだと、コニーは言った。「10回か15回くらいタバコを押し付けられたの」と彼女はヒステリックに訴えた。コニーは本当にショックを受けているようだったが、ロバートは火傷の跡を見せて欲しいと頼んだ。彼女の嘘をようやく見破ることができると思ったのだ。ロバートに疑われて傷つくそぶりを見せた後、コニーは複数の真新しい火傷の跡を見せた。「私にこんなことをするんだから、あなたやあなたの家族はどうなるのかしら。あなたの小さな甥っ子は?」と、コニーは泣きながらロバートを脅した。もはやロバートにとって現実を超えていた。誰を信じていいのか、誰に助けを求めていいのか分からなかった。
ロバートは政府の捜査と組織犯罪と思われる奇妙な世界に徐々に深く嵌っていった。組織犯罪が現実のものだと思う一方、ハッカーとストーカーの標的にされているのではないかという疑念にかられた。そして彼が最も恐れていたことを裏付けるかのように、地元ニュースは警察の汚職の話題に溢れていた。
頭がおかしいのは誰? (WHO’S CRAZY HERE?)
ロバートはついに出来事を通報しようと決心した。父親と共にFBIのオフィスに行き、苦情申立書を提出した。その際には、パイロット免許を含む身分証明書の提示が求められた。コニーが彼のアパートに入居して1年以上が経過してようやく、2人の若い捜査官がロバートの話を聞いてくれることになったのだ。
ジョンソン捜査官とデクスター捜査官はロバートの話を聞いた後、裏付けとなる書類をすべて持って翌日また来るよう言った。ロバートは75ページほどもある脅迫メールやメッセージ、不正口座の存在を示唆する銀行明細を持って行った。書類に目を通した後、2人の捜査官はロバートの申し立ての裏付けを取るためにコニーに電話で連絡した。しかしコニーは、「ロバートは作り話をするのが好きなんです。犯罪などまったく行われていません」と話した。ロバートは精神的に病んでいる恐れがあると言って、捜査官を納得させたのだ。
2人の捜査官はコニーの犯罪歴を調べる代わりに、彼女の話を信じ、ロバートは虚偽の通報をしているのだと考えた。彼らは連邦航空局(Federal Aviation Administration, FAA)に連絡をし、ロバートの心理学鑑定を提案した。FAAは心理・精神鑑定中、ロバートの第一種航空身体検査証明書を一時的に停止し、ロバートは医療上の理由で飛行できなくなった。
ロバートはこの事実に打ちのめされた。司法心理学者の鑑定後、コニーとロバートの両親のインタビューが行われた。ロバートの両親が息子の話をすべて裏付けたにも関わらず、コニーはロバートの話を全面的に否定し、司法心理学者はロバートには妄想癖がありパイロットに復帰すべきではないとの診断を下した。これは事実上ロバートのキャリア終焉を意味した。ロバートには、司法心理学者が作成・提出した報告書を確認する時間、また苦情を裏付ける追加資料を提出する機会与えられなかった。
全貌解明 (PIECING IT TOGETHER)
ロバートはコニーが最初に連絡を取ってきた頃からの出来事をすべて振り返ってみた。人生は台無しにされたが、ロバートはいったい誰の仕業なのか、なぜ自分が犠牲になったのか、突き止めようと決意した。コニーをフィラデルフィアのアパートに残し、ニューヨークのクイーンズに引っ越した。コニーは近いうちに出て行くと約束したが、最終的にはロバートが電気やガス、水道を止めるとコニーを脅し、ようやくアパートから立ち退かせることができた。彼がアパートを売却すると、コニーとインターネットの人物たちからのメールは徐々に止んでいった。ロバートは保存したメールと印刷物の分析に時間を費やした。幸運にも、彼には初めから情報の大半を保存する先見の明があったのだ。その結果、コニーとインターネット上の人物が特定の単語の綴りを何度も同じように間違えていることに気が付いた。これはコニーが陰謀の黒幕ではないかというロバートの疑いを裏付けるものとなった。
ロバートは私立探偵を雇い、コニーが社会復帰施設に住んでいるのを突き止めた。コニーとの複数回に渡る詳細なインタビューに加え、探偵は彼女に金銭的損害賠償を求める訴訟の呼出状を送達した。探偵とのインタビュー中にコニーは、話の信憑性を高め「ロバートを操り、不安にさせるために」タバコで自身に火傷を負わせたと明かした。
私立探偵はFBIに宛てた自白書を書くようコニーを説得した。ロバートはFBIにその手紙と、コニーの犯罪歴を含むその他の裏付けとなる証拠を提出し、彼に関する記録を訂正しFAAへの緊急警告を撤回するよう求めた。しかし理由不明のまま、彼の要求は無視された。
心理学鑑定の後、ロバートの航空会社は彼に精神障害者年金の受給資格を与えた。年金手当を受け取るために、ロバートは心理療法を受けなければならなかった。セラピストはすぐに、ロバートは妄想などにはまったく駆られていないと確信した。しかしロバートは、FBIと司法心理学者の行為が直接の原因となって、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っていると診断された。ロバートにとって不運なことに、治療に当たったセラピストは違法行為を犯し、患者のメディケア口座からカネをだまし取っていた。この不正行為とその他多数の患者に対する同様の行為が原因で、この心理学者は保険詐欺の捜査を受けた。彼は投獄され、専門家としての免許を失った。
遅すぎた答え (OVERDUE ANSWERS)
こうした出来事の数年後、ロバートは確定申告の依頼で私に連絡してきた。当時、私は会計事務所の共同経営者をしており、税金の話をするためロバートと会うことになった。ロバートはコニーの強奪で被った金銭的損失を何とかしようとしていた。ロバートは自身の身に起こったことすべてを私に説明し、前の会計士は確定申告の際に盗難で被った損失を単に無視したと語った。説明を聞き終えた後、私は彼の話に興味を抱き、犯罪科学の腕を持ってロバートを助けたいと思った。私とロバートは信頼関係を築き、その後私が犯罪科学調査官としての役割を担うようになってからも互いの信頼感は深まっていった。
ロバートの人生は逆転してしまった。彼はこれまでの出来事を熱心に語り、必死で助けを求めた。臨床心理学の博士課程3年目だった私は、その詳細に興味を持った。ロバートの情報は実質を伴う系統立ったもので、彼は信用できそうだった。それでも私は彼の主張を受け入れる前に、すべての資料に徹底的に目を通した。結果、ロバートは巧妙なインターネット強奪スキームの被害者で、FBIの浅はかな捜査と無能な司法心理学者によってさらなる被害を被ったと確信した。
私はロバートがカネを取り戻し、誤って停職処分を受けた汚名を晴らすため、科学捜査に乗り出した。ロバートと彼の家族、参考人、ロバートの前後にコニーの被害者となった人々と幾多ものインタビューを重ねた。被害者らの話から、私は彼女が性格異常の犯罪者だという見解を深めた。被害の遭い方はそれぞれ異なっていてが、被害者は皆一様にひどく打ちのめされていた。
コニーの娘アンは、私がコニーと直接連絡を取れるよう計らってくれた。アンは母親に、私が被害者学を勉強しており彼女のことをもっとよく知りたがっていると説明した。コニーと対話を始め、ロバートの無実を晴らす供述書を書いてくれるよう説得するのが私の目的だった。コニーはアンに、「メールを送るように言って。まあ、向こうにそんな勇気があればだけれど」と言った。
コニーに初めてメールを送り率直に話がしたいと伝えると、「お互いスクリーンの後ろに隠れるのがこれほど得意だから、メールを介してだけなら」と返信してきた。コニーとは約50通ものメールとインスタントメッセージを交わし、その中で彼女は、自身がロバートやその他の被害者にしたことをあっさり認めた。「人々をひどく傷つけてきたわ。間違った決断をしてきた。自分の人生をいろいろな形で台無しにしてきたし、同じ過ちを何度も繰り返してきたの」と自分の悪事をおおっぴらに語った。コニーは自身の問題を認めたが、被害者も責め、自身の犯罪行為の責任を薬物中毒のせいにしようとした。しかし彼女は、ここでも精神病質を隠そうと努めていだのだ。
多数のインタビューから得られた話とコニー自身の幼少の頃の話は、彼女の大人になってからの性格異常の犯罪者というプロフィールと一致する。子供の頃、コニーは家族の物を盗んだ。「最初の記憶はアイスクリームサンドを買うのに母の引き出しから小銭をかすめたこと。ばれないかどうか試すためにどうでもいいものを盗んだの。盗む行為それ自体が快感で、たいていは物が欲しかったわけじゃなかった。私が本当だと言うことはたいていかなり歪んだものだったわ。子供の頃からいつも、真実と自分が信じたいと思うこととの区別がつかなかったの」と彼女は言った。
ロバートのことに話を戻すと彼女は、「ロバートはクレジットカード詐欺の被害者だってだけよ」とあっさりしたものだった。自分が彼のキャリアを台無しにしたことには全く無関心だった。
私に対するコニーのふるまいは、温和で協力的な態度と怒った態度の間で変化した。彼女の言うことの大半は真実を歪曲したものであり、私の追求をかわすことが目的だった。協力的な時には、インターネット上の人物を使ったことを認めた。「本物のマックスに手伝ってもらってマックスという架空の登場人物と関わるようになっていったの。そんなつもりはなかったのに、マックスがいつもやって来て、インターネットでたくさん遊んだわ。誰かが傷つくなんて全然考えなかった。そうしたらロバートが偶然現れたの。マックスはロバートが私にメールするのを嫌って、彼にいろいろちょっかいを出し始めた。私もそれに続いたわ。その後、ワシントンDCに住む古い友達に成り済ましたの。そうやって始まっていったのよ。誰も傷つけるつもりなんてなかったわ。でも傷つけてしまったのね」。しかし、彼女の話を全面的に信じるわけにはいかない。他人に心底共感できないのも、精神病質者の特徴である。
正義の在り処 (WHERE’S THE JUSTICE?)
ロバートの民事訴訟は成功し、盗んだ5万7,000ドルを損害賠償として支払うようコニーに対して判決が下った。累積利子を合わせて未払総額は10万ドルを超えた。しかし今日まで、コニーはそのごく一部さえも支払おうとしていない。ロバートは幾度かにわたって法的手段を使ってコニーの収入源や資産を探り当てようと試みたが、彼女は窃盗の責任に問われることなく借金から逃げ続けている。
この仕事を通じて、私はコニーがいかにしてインターネットを使った不正スキームを画策していったのか理解を深めていった。コニーはまたしても執行猶予違反を犯し、私はその裁判に出席した。彼女は6ヵ月の禁固刑を言い渡された。ロバートの件で捜査を進めていくうちに、コニーが年配の男性に対し類似の犯罪行為を働いていたことが分かった。彼女は現在もまた別の、生命にかかわる肺疾患を患う年配の男性と暮らしている。男性の親戚と連絡を取りコニーの素性を説明したが、男性は家族と疎遠であったため、話をした親戚も男性の生活にあまり関心はないようだった。
ロバートは徐々に自分の身に起こった複雑な出来事の紐を解いていったが、FBIに精神障害者の烙印を押されるのは避けられなかった。その後、FBIの判断ミスが証明されはしたものの、この履歴のせいでロバートは他機関を通じて犯罪を通報できなくなった。信用に傷が付いたため、誰もロバートの声に耳を貸そうとしなくなったからだ。
私はロバートの金銭的損失を計算し、確定申告と共に被害損失請求を申請したが、拒否された。そこで、国税庁(Internal Revenue Service, IRS)へ出向いて事情を説明した。職員を納得させ被害損失を認めてもらった結果、ロバートは巨額の税金払い戻しを受けることができた。
ロバートの治療に当たった心理学者に対する訴訟に加え、いくつかの法律事務所がくだんの司法心理学者を相手に取った訴訟の可能性も模索したが、出訴期限切れでロバートを弁護することはできなかった。結果、この司法心理学者は責任を逃れた。
教訓 (LESSONS LEARNED)
インターネットほど影響力を持つツールは、性格異常の犯罪者が操ると、とてつもなく危険だ。インターネットを使った不正行為の蔓延には、ネット上のメッセージ、広告、勧誘に対する注意深い優れた判断力が求められる。インターネット上で行われる様々な不正行為の知識があれば、その犠牲者を少なくすることができる。今日では、サイバースペースに潜む危険な犯罪者に関して多数の警告が発せられており、ロバートもこれを読んでいれば災難から逃れることができたはずだ。幸運にも、インターネットを介した犯罪に対する法執行機関の捜査は、ロバートが最初に届け出た頃と比べかなり積極的に行われるようになってきている。
自身の脆弱性をきちんと自覚することで、人をだまし弱みに付け込む詐欺師の攻撃からしっかりと身を守ることができる。しかし、高い分析力は不正行為を見抜く能力の過大評価にもつながり、こうした自身過剰が災難の元となるのだ。
誤った犯罪科学レポートも有害となりうる。やぶ医者の被害にあった人々のための裁判所があれば、彼らは自身の記録を訂正し、人生をやり直すことができるかもしれない。例えば、ロバートの司法心理学レポートを再審議する上訴委員会があれば、彼は自身の潔白を証明できたかもしれないのだ。
インターネット上の不正行為に巻き込まれた場合の防犯手段
(RECOMMENDATIONS TO PREVENT FUTURE OCCURRENCES)
見知らぬ相手からのメッセージは疑ってかかる。インターネット上の不審な行為に引きずり込まれた場合は、その後不正が発覚した場合に証拠となり得るため、全メッセージのバックアップを取っておく。
犯罪が発覚したら、徹底的に捜査すべきである。被害者の報告書は裏付けを取り、入手可能な文書はすべて再検討する。初動捜査で被害者の報告の信憑性が立証された場合は、被害者が盗まれた資産を取り戻し身の潔白が証明されるよう、不正検査士が手を貸すべきである。
この種の不正行為では、捜査の際にできる限り多くの参考人から話を聞くべきである。参考人は、被害者の話を裏付け、加害者を理解する上での手掛かりとなる。警察は彼らの証言から犯罪性を判断することができる。
本物であることを証明し、ファイルや文書を裏付けるために、参考人から関連書類を手に入れる。こうすることで、証拠に含まれる情報の信頼性が増す。
損失を取り戻せる可能性が一番高いのは、実証済みの手順を踏んで捜査を行うことだが、残念ながらこれが必ずしも成功するとは限らない。ロバートの場合、書面上、そして裁判所の決定上では名誉を取り戻すことができたが、彼の評判、キャリア、財産は取り返しが付かないほどの損害を被った。
エリック・A・クルーター(Ph.D., CFE, CPA, CMA, CFM, CFFA, SPHR)
ニューヨークにあるコンサルティング会社、BST Valuation & Litigation Advisors, LLCの共同経営者で、犯罪科学捜査を行うほか、専門家報告や証言など訴訟のサポートを提供する。
本記事は、Dr. Joseph T. Wells(CFE, CPA)編集『Internet Fraud Casebook: The World Wide Web of Deceit』John Wiley & Sonsから、出版社の許可を得て抜粋、採用したものである。
“Internet Fraud Casebook: The World Wide Web of Deceit,” edited by Dr. Joseph T. Wells, CFE, CPA c2010 John Wiley & Sons Inc. (ACFE本部ウェブサイトで販売中)