ガソリン代の乱高下、厳しさを増す家計などの状況が、様々な手口による従業員の着服の誘因となっている。新手の不正の被害に遭わないよう、内部統制システムの見直しをせよ。
一部の市職員が、市が所有する給油用クレジットカードとそのパスワードを友人や家族に渡し、燃料費節約と収入の補てんをするという不正の手口を思いついた。
市側では、ガソリン代の高騰および経済状態の悪化が、職員による不正を誘発しやすくなっているとの認識の下、積極的な監査を実施した。その結果、疑わしい行為が複数発見されたため、詳しい調査が開始された。警察の捜査により、多くの職員がガソリンカードを違法に使用して、その額は、わずか2ヶ月の間に5万ドルに上ることが判明した。監査を行っていなければ、市は巨額の損失を被っていたであろう。このケースでは2人の職員が5人にカードを横流ししており、その結果7人が逮捕された。
燃料費および交通費の乱高下の影響は、すべての組織に及ぶ。そして、誰もがガソリン代の負担を軽くする方法を探し求めている。主な燃料費節約の対策としては、車の相乗りや燃費向上などがあるが、燃料費、交通費の不正に走る者も増えてきている。
燃料費が安かった頃は、そのような不正のリスクは相対的に低かった。しかし、当然のことながら、過去4年の間に状況は一変した。米国エネルギー省のエネルギー情報局(www.eia.doe.gov)が保有するガソリン価格データによると、米国におけるレギュラー・ガソリンの価格は、2004年9月には1.83ドル/ガロンであったが、4年後には2倍以上に跳ね上がった。(しかし、世界同時不況により、最近では大幅に下落した。)
2008年6月、ニューヨーク・タイムズが、米国民の個人所得の2%から16%がガソリン代に充てられていることを示すグラフを掲載した。従業員の家計への影響は大きく、彼らの中には不正な手段を用いる者も出てくるであろう。
不正検査の専門家は、組織のどこで不正の機会やプレッシャーが高まっているか、また、不正を正当化しやすい状況が生じていないかどうかを見極める訓練を受けている。組織が国内、国際経済において活動範囲を拡大することにより、不正の機会は高まっている。
従業員の出張が増えれば、燃料費、交通費の精算制度を安易に悪用し、それを正当化してしまう者も増えてしまうかもしれない。
自組織においてそのような不正が発生するリスクを評価する際には、次のような点を検討するとよい。費用精算に関する完全かつ正確なデータを、必要に応じてすぐにアクセスできる状態で保存しているか。経費精算制度の利用記録をモニタリングする単一もしくは複数の部署が定められているか。実際にモニタリングはなされているか。経費不正のリスクは相対的に低いとの先入観によりレビューの正当性が認められないという事態は生じていないか。
一定の不正リスクがあると判断したら、詳細な調査を行い事実を確認しなければならない。本稿は、以下のような燃料費精算不正の手口に着目する。
- 給油用クレジットカード
- マイレージ償還プログラム
- 社有車の「持ち帰り」
- 燃料貯蔵所
- 上記の手口の組み合わせ
給油用クレジットカード (FUEL CREDIT CARDS)
通常の給油用クレジットカードは、シェルやエクソンなど特定の給油所で使えるガソリン代決済用のカード、もしくはFleetまたはFuelManなどの全社的な制度に基づいて発行されるカードである。会社によっては、通常の会社払いのクレジットカードでガソリン代も支払うようになっている場合もある。
必要なデータ(Data Needed)
効果的な検証を行うためには、次のデータへのアクセスが必要である。
- 取引日時、購入額、給油量、給油場所などに関する詳細な情報
- 当該車両の燃料タンクの容量
- 当該従業員のタイムカード(勤務時間記録)および(または)業務スケジュール
- 走行距離日誌
- 1ガロンあたりの平均走行距離(全組織的な経営システムから情報を得るか、走行距離記録の保持を義務づけている組織であれば、その記録から逆算することが可能)
想定される不正スキーム(Possible Fraud Schemes)
- ある日の業務終了時に自分の車に給油し、翌日の朝に社有車に給油する。またはその逆。
- 社有車に給油している間に別の車にも給油する。
- 社有車に給油した直後に別の車にも給油する。請求が重複したと見せかけるために、給油額を同額とする。
- 同じ日に少量ずつ複数回の給油を行い、不正を隠ぺいする。
- 通常の給油時に、ポリタンクを持参して余計に購入する。
- 不正を隠ぺいするために、走行距離記録を改ざんする。
- ガソリンスタンドで別の車に給油し、ガソリン代を現金で受け取り着服する。
不正の識別方法(How to Identify Fraud or Theft)
ガソリンの給油量と燃料タンクの容量を比較し、20ガロンしか入らない車に32ガロンを給油したなどの矛盾がないかどうかを確認する。
1ガロンあたりの平均走行距離(燃費)を割り出し、一貫性をチェックする。平均値プラスマイナス10%を正常値の判断の目安とするとよい。燃費が24マイル/ガロンの車であれば、26.5超もしくは21.5未満の数値を異常値として精査する。
例えば、燃料タンクの容量が15ガロン、燃費が24マイル/ガロンの車について、以下のような走行距離が記録されたとする。
月曜日:24.1マイル/ガロン
火曜日:27.3マイル/ガロン
水曜日:16.8マイル/ガロン
木曜日:25.3マイル/ガロン
金曜日:22.9マイル/ガロン
この車は、満タンにすると約360マイル走行できるはずである。上記のデータの中では、水曜日の数値について詳細に点検する必要があるだろう。余分なガソリンを不正に購入して流用すると、計算上の燃費は悪化する。
高い燃費を示している時は、不正が行われていないと考えられる。従業員が日々の走行開始時と終了時のマイル数の入力・記載を間違えることにより、日々の燃費が大きく異なる可能性もある。燃費の数値をグラフ化した時に上下に突出している箇所は、不正の危険信号をみなすべきである。不正が行われている場合、燃費のグラフは乱高下を示すであろう。
給油がされた日時とタイムカードの記録および業務スケジュールを比較する。従業員が勤務予定時間外に給油している場合は要注意である。
例えば、タイムカード上は金曜日は出勤していない、または週末にかけて出張したことになっている従業員が、金曜日の午後に給油し、さらに日曜日の夕方または月曜日の出金途上にも給油している場合には、2回目の給油は正当なものではない可能性がある。
給油回数や頻度も調べ、1日に複数回給油している場合は注意が必要である。特に、燃料タンクの容量の半分しか給油していない場合は、疑わしい行為として給油時間と場所を精査する。
給油量を点検し、二重購入の有無を確認する。二重購入の指摘を受けた従業員は、給油所がクレジットカードを2回機械に通したために二重請求されたのだと言い訳するかもしれない。しかし、そのようなことはめったに起こらないため、二重購入の記録は不正の危険信号として検討する。
走行距離日誌を付けている場合には、日誌上の記録と実際の走行距離(メーター)を比較する。日誌上の最新数値と車両のメーターに大幅な不一致が認められる場合には、従業員が不正を隠ぺいするために日誌を改ざんしている可能性がある。
従業員に支給しているカードを点検する。1枚のカードを複数の従業員で共同利用させている場合には、不正の発見が難しいかもしれないが、不正の兆候を察知した場合には、疑わしい行為が発生したときにどの従業員がそのカードを使用していたのかを特定する。
管理および報告体制の改善(Control and Reporting Improvements)
組織のニーズや事業環境は様々であるため、残念ながら、あらゆる組織にあてはまる万能な燃料費精算管理方法はない。しかし、不正を最小限に止め、危険信号を早期に察知するための統制手続や報告機能を導入することはできる。
可能であれば、業務用車両管理および(または)燃料購入管理用のソフトウェアを導入し、日常の報告やデータの分析を行う。複数の会社がこのようなサービスを提供している。導入が不可能な場合には、善後策として会社が支給する給油用クレジットカードの使用を義務づける。そうすることにより、会社として、クレジットカード会社から利用状況を直接入手する権利を得ることができる。
最後の手段は、従業員に経費報告書を作成・提出させる方法である。残念ながら、この方法が最も広く用いられているものである。従業員に給油時の領収書の提出を義務づける。特に、業務用車両を日常的に利用する者にはそのルールを徹底する。給油の頻度が高まるほど、不正のリスクも増大する。要件を満たさない経費報告書を提出した従業員には、走行距離日誌および(または)給油記録も提出させ、燃料タンクの容量、給湯量、給油日時、金額などの基本情報を精査する。
給油用クレジットカードの不正利用の発見に役立つ様々な基本データを整備しておくことも必要である。基本データには、車両の燃料タンク容量、1ガロンあたりの平均走行距離(燃費)、各従業員の典型的な利用パターン(利用時間帯、平均走行距離、平均的な費用、勤務地など)が含まれる。このようなデータが整備されていないと、給油に関する異常値を発見するのが難しくなってしまう。
走行距離に応じた精算プログラム (MILEAGE REIMBURSEMENT PROGRAMS)
自家用車の業務使用に伴う旅費精算の仕組みは、政府機関、非営利組織、公益/民間事業体それぞれに存在する。ガソリン価格の上昇に伴い、承認される支給額も1マイルあたり30セントから60セントにまで引上げられた。走行距離(マイル数)の不正申告は、不正実行者にとってはより旨みのあるものになったと同時に、組織にはより深刻な損失をもたらす。
経費の精算に関する方針が不明確または定められていない組織では、不正実行者は調査に対して、コミュニケーション不足だった、知らなかった、単純なミスだなどと言い逃れできてしまう。そのため、次のような点に留意する必要がある。精算対象となるマイル数は?通勤に要した走行距離は業務上の数値から控除すべきか?対象となるのは市外の走行距離のみか?上限は設けられているか?自家用車の業務使用を許可するかどうかについて費用対効果を検討すべきか?
精算状況レビューに必要なデータ(Data Needed for Reimbursement Review)
効果的な検証を行うためには、次のデータへのアクセスが必要である。
- 精算のために申告された走行距離
- 乗車開始、終了地点の完全な住所
- 社有車の使用目的を明記した書面
- 従業員のタイムカードおよび業務スケジュール
- 従業員の経費勘定の記録
- レンタカー、社有車および(または)給油カード関連記録の精査
- 走行距離を検証するためのオンライン地図ツール
- 現在適用されている1マイルあたりの支給額
- 過去の支給単価と変更日
想定される走行距離不正精算のスキーム(Possible Reimbursement Schemes)
- 支給単価が上がるのを見越して、精算を先送りする。
- 走行距離を不正に申告する。
- 自宅からの通勤距離を控除しない。
- 走行距離を水増しする。
- レンタカーまたは社有車を利用したにもかかわらず、自家用車使用と偽って精算する。
- 精算額を増やすため、不必要に遠回りをする。または遠回りをしたように報告する。
不正の識別方法(How to identify reimbursement fraud/theft)
支給単価の変更日と走行距離の申告日を比較することにより、単価上昇を見込んで申告を先送りしていた可能性がないかどうかを確認する。
走行距離申告書の内容と業務スケジュール、従業員の出勤日を比較することにより、休暇、研修などで明らかに不在の日に、業務上の走行距離が申告されているような矛盾がないかどうかを確認する。
通勤に要した走行距離を申告から控除するという規定になっている場合には、従業員の住所を確認し、自宅から勤務場所までの距離を算出する。申告書に記載された乗車開始、終了地点間の走行距離をオンライン地図などを利用して点検し、水増しがないかどうかを確認する。
従業員の経費報告書を精査し、自家用車を業務使用したと申告した日にレンタカーも使用しているなどの矛盾が生じていないかどうかを確認する。
社有車の使用記録簿もしくは「持ち帰り」車両の記録を点検する。社有車使用による走行距離を自家用車によるものと偽って申告しようとする不正実行者がいる可能性がある。
申告された乗車開始地点と終了地点のおおよその距離を計算し、経費報告書上の申告距離と一致しない場合は、申告者に説明を求める。
同じ目的で複数の従業員が社用車を使用した場合には、該当者各自の申告内容を比較し、不一致がないかどうかを確認する。乗り合いをしなかった場合にはその理由を聴取する。
自家用車の業務利用の申告日と自席のパソコンへのログイン記録または会社の建物への入退館記録を比較し、例えば、200マイル走行したと申告した日に本人は1日中社内にいたというような矛盾がないかどうかを確認する。
管理および報告体制の改善(Control and Reporting Improvements)
自家用車の業務利用に係る走行距離に応じた経費精算プログラムを管理するうえで最も重要なのは、精算に関する方針と手続を明文化し、その内容を従業員に確実に周知することである。この点は、監査や不正検査担当者の管轄外かもしれないが、明確なルールが社内に徹底されているかどうかを確認し、不備がある場合には経営者と協力して改善を図り、不明確なルールの濫用を防止しなければならない。
プログラムの有効性を高めるためには、申告書上に乗車開始、終了時点の住所を番地も含めてすべて記載するよう義務づけなければならない。目的地の都市名のみを記載させるだけでは、走行距離を正確に検証できず、不十分である。
また、1日に複数の目的地を訪問する場合には、各訪問地到着時、出発時のマイル数の記載を義務づける。最初の出発地点と最終的な到着地点を記載するだけでは、双方が同じ場所である場合もあり、走行距離の不正申告を発見するための細かい情報を得られない。また、記載内容の簡略化は、不正の隠ぺいを助長してしまう。
従業員が申告する走行距離が一定の範囲に収まっている場合には、精算対象とする走行距離の上限設定を検討する。しかし、上限を設定する場合には、その制度を悪用して常に上限ギリギリで申告する従業員がいないかどうかを注視しなければならない。
社有車の「持ち帰り」 (TAKE-HOME VEHICLES)
社有車による通勤を制度化している組織の多くが、その不正リスクを見過ごしている。制度に関する方針と手続を整備し、従業員に明確に伝達しなければならない。さもなければ、不正もしくは重大な誤りが指摘された従業員が「誤解していた」と主張する事態を招いてしまう。
通勤用社有車利用状況のレビューに必要なデータ(Data Needed for Take-home Vehicle Review)
効果的な検証を行うためには、次のデータへのアクセスが必要である。
- 社有車通勤に関する方針
- 制度利用者に関する明細(使用する社有車のナンバー、従業員名、自宅住所)
- 社有車の整備報告書、走行距離日誌、燃料タンクの容量、1マイルあたりの平均走行距離
- 給油用カードを支給している場合はその明細
- 給油状況に関するデータ(給油日時、購入額、給油量、給油場所など)
想定される不正スキーム(Possible Fraud Schemes)
- 通勤用の社有車を業務以外の私的な目的で利用する。
- 社有車を副業に用いる。
- 社有車を家族や友人に利用させる。
- 社有車を相乗り通勤(カープール)に使用し、相乗り者から現金を徴収する。
- 社有車通勤を行う従業員が共謀し、密かに相乗り通勤をして、浮かせたガソリン代を自家用車に充てる。
- 社有車給油用のクレジットカードを使って自家用車に給油する。(前項を参照)
不正の識別方法(How to Identify Take-home Vehicle Fraud/Theft)
1ガロンあたりの平均走行距離の点検、燃料タンクの容量と給湯量の比較など、給油用クレジットカードの項に記載した点検、検査の多くを活用できる。
社有車通勤制度利用者の利用状況を相互比較し、走行距離などが突出している従業員の有無を確認する。
維持費に関する報告を精査し、同車種を利用する他の従業員と比べて維持費や修理代が増加傾向にある場合には、私的利用の可能性がある。
社有車の実地検査を実施する。この点検方法の効果は見過ごされがちだが、関連情報を収集することができる。
管理および報告体制の改善(Control and Reporting Improvements)
走行距離に応じた精算プログラムと同様、社有車通勤に関する会社の方針と手続を明確に定め、従業員に周知し、厳格に管理しなければならない。利用状況を正確に報告させ、その内容を精査することにより、不正を抑止、発見できる。社有車の整備担当者を訓練し、不正の兆候に対する認識を高めさせることも検討する。また、整備担当者による不正のリスクも見過ごしてはならない。
燃料の一括購入および燃料貯蔵庫 (BULK FUEL PURCHASES AND FUEL DEPOTS)
燃料を一括購入している会社は、支払額と購入量の整合性をチェックする。燃料の卸売り会社の多くは、配送を他社に委託している場合が多い。受託会社と良好な関係を維持している場合でも、日々の配送担当者は異なるかもしれない。燃料費精算の管理が甘い会社では、配送業者の担当者によるスキミング、配送量のごまかし、低品質の燃料へのすり替えなどの不正リスクが高まる。従業員がスキミングを犯している可能性もある。
燃料大量購入不正のレビューに必要なデータ(Data Needed for Bulk Fuel Fraud)
効果的な検証を行うためには、次のデータへのアクセスが必要である。
- 卸売価格、注文書の金額、燃料の品質等級などを明記した契約書
- 燃料貯蔵タンクの容量
- 貯蔵タンクの利用状況報告(タンクへの燃料注入量、タンクからの給油量の明細)
- 燃料配送、受領に係る納品書、領収書
- 配送会社に関する情報(会社名、運転手氏名、配送車両のナンバーなど)
想定される不正スキーム(Possible Fraud Schemes)
- 配送会社または運転手が、会社が発注した量よりも少ない燃料を納入し、残りを割引価格で他社に売る。
- 受注した品質等級よりも低い等級の燃料を納入する。
- 卸売業者が、燃料の単価上昇を見越して請求時期を遅らせる。
- 卸売業者が、契約よりも割高な単価で請求する。または、契約書には記載されていない様々な燃料サーチャージを上乗せする。
- 従業員が燃料貯蔵庫から無断で給油、販売する。
不正の識別方法(How to Identify Bulk Fuel Purchase Fraud/Theft)
燃料購入量と使用量の比較を行う。燃料を受領する前にタンク内の残量を記録し、基準レベルとする。燃料はタンクの容量一杯まで購入し、注文量と実際に受領した量が一致しているかどうかを確認する。そして、次の燃料受領日まで、すべての給油状況を記録に残す。次に燃料を受領する時に、タンクへの注入量を各給油量の合計と比較する。一致しない場合には、その理由を検討する。貯蔵庫の管理者によるスキミングや配送車の運転手による配送量のごまかしなどが想定される。燃料を地下倉庫に貯蔵している場合は、タンクからの漏れによる減損の可能性を考慮しなければならない。
燃料費の上昇局面では、卸売業者が意図的に請求を遅らせて単価をつり上げることのないよう、請求書の発行時期に十分注意する。
契約時の単価と実際の請求書に記載された単価を比較し、一致していることを確認する。
社有車の燃料タンクの容量を把握し、最大容量を上回る給油記録がないかどうかを点検する。
受領した燃料のサンプルを定期的に検査に出し、注文したとおりの品質であることを確認する。燃料貯蔵庫からの給油動向を把握し、異常な時間帯の利用がないかどうか点検する。
配送車両から燃料貯蔵庫への給油量を明記した、配送会社からの証明書類を確認する。
管理および報告体制の改善(Control and Reporting Improvements)
最低限、貯蔵庫の警備、利用状況の追跡と報告に関する十分な仕組みを整備する。警備に関しては、残念ながら、入口での物理的なチェック以外には何も行われないケースが多い。一括購入の配送、使用、請求記録の日常的かつ徹底的な精査を実施する。計算、追跡、報告のためのソフトウェア導入も検討するとよい。
燃料タンク、配送業者、使用報告、関連する購入データに関する所定の監査、検査も忘れてはならない。場合により、社内の様々な部署からこれらの情報を集約し、全データを一括して精査することもできる。
燃料費および交通費不正の組み合わせ
(FUEL AND TRANSPORTATION FRAUD COMBINATIONS)
通常、組織が大きくなればなるほど、従業員が利用できる経費精算の仕組みは多岐にわたる。統制手続が厳格でなく、精算システムが一元管理されずに複数の部署で処理される場合には、不正の問題は起こりやすくなる。従業員個人のクレジットカードによる立替払いは極力禁止すべきである。なぜならば、会社がカードの利用記録にアクセスできないからである。そのため、会社によっては、経費報告書に必ずカードの利用記録を添付するよう義務づけているところもある。
想定される不正スキーム(Possible Fraud Schemes)
- 社用車もしくはレンタカーを使用した従業員が、(自家用車利用を装って)走行距離分の燃料費を請求する。
- 会社の燃料貯蔵庫から給油できる従業員が、私用のガソリン代をカードで払い、その分を経費として精算する。
- 通勤に使用している社有車からガソリンを抜き取り、自家用車に給油する。そうすると、当該社有車の1ガロン当たりの走行距離は、同型の他の車両と比べて短くなるはずである。
- 業務でレンタカーを利用した従業員が、満タン返しをしたように偽って、自家用車に給油したレシートを経費報告書に添付する。(レンタカー会社のレシートを必ず精査し、返却日時と給油日時の整合性を確認する。)
データを蓄え従業員の言い訳に備える
(GET THAT DATA AND BE READY FOR EMPLOYEE RESPONSES)
電子データか領収書その他の書面かを問わず、できる限りのデータを入手する。
不正を疑われた従業員の常套句に備えなければならない。準備をしないまま調査に臨むと、調査対象者にうまく言い逃れをされて、調査結果に確信が持てなくなり、経営者が早々に監査や調査の終結を決断してしまうかもしれない。
燃料費や交通費の精算手続がある限り、不正は必ず起こる。不正リスクへのエクスポージャーや会社が被る損失額を低減できるかどうかは、統制手続の整備状況、精算の仕組みの多様性、そして不正発見に向けた積極的な報告や分析にかかっている。
ライアン・C・ハブズ(CFE, CIA, CCSA, PHR, CFS)
ルイジアナ州ニューオリンズに本社を置くエンタジー社の主任内部監査人/不正調査担当であり、ACFEニューオリンズ支部の支部長を務める。
コラム1
会社のトラックへの給油を少し余計に・・・
(A FILLUP FOR THE COMPANY TRUCK AND A LITTLE EXTRA)
ブランドンは地元の運送会社で運転手をしていた。運送の仕事が休みの日は、家族が所有する農場の管理をしていた。燃料費が上昇により、農場の車両すべてに給油するのが経済的に厳しくなった。その負担を和らげ、農場の運営を安定させるため、彼は、勤務先のトラックに給油する際に、自家用車を運転する妻を伴い、同じノズルから自家用車にも給油した。同じ給油機の反対側に停めた自家用車にノズルを移し変えるのは簡単なことだった。会社側は、週次、月次で各運転手から給油報告を受けていたが、中身を注意深く点検していなかった。ブランドンの不正は、内部通報により会社が気付くまで何ヶ月も続いた。
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コラム2
ガソリンスタンドに燃料を届け、現金をポケットに
(DELIVERING FUEL TO GAS STATIONS AND CASH TO THEIR POCKETS)
ボブ、ミッチ、レビの3人は、燃料運送業者の従業員として、地元のガソリンスタンドに燃料を配送する仕事をしている。ガソリンの需要が高まる中、彼らの周りには、割引価格で現金購入をしたがる個人や会社がたくさんいた。そこで3人は共謀し、燃料の納品書を改ざんして、多数の社有車をもち大量のガソリンを購入する会社に実際よりも多くの燃料を届けたように偽装し、その分を自分たちで売りさばいて代金を着服した。その会社は、購入してもいないガソリン代を支払わされていることに気づかなかった。3人の不正は匿名の通報によりようやく発覚し、彼らは不正請求により告発された。
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