脅しや恐怖心を利用して組織を運営するマネジャーは、従業員に最大限の力を発揮させず、不正、浪費、乱用を助長する。そのようなマネジャーの手法に対抗し、不正を阻止するための枠組みについて以下に述べる。
本記事は、スリモD.ワリゴン(Slemo D. Warigon)氏およびベッツィー・バウワース(Betsy Bowers)氏により執筆され、「大学、監査人ジャーナル(College and University Auditor Journal)」2006年夏号に掲載されたものを改編した。
CEOのゼロ氏は、従業員が賢く効率的で、理解が早いことを望んでいた。また彼は、従業員に販売ノルマを達成するよう求めた。ここまではよくある話だ。しかしゼロ氏の手法は古典的な教科書に載っているような伝統的な経営スタイルに沿ったものではなかった。従業員のサムは、四ヶ月間優秀な販売成績だったにも関わらず、ひと月成績が悪かっただけで「首になるのは時間の問題だろう」と忠告された。ベティーは、労働条件について苦情を述べたために叱責された。ヒラリーは、ゼロ氏の言動に異議を唱えたため解雇された。さらにゼロ氏は、取締役会のメンバーを常に自分の都合のいいように選んだ。彼の言動は従業員の勤労意欲を低下させ、ストレスを与え、重大な不正事件の温床を作った。
「目標による管理(“management by objectives”)」や「経験と感覚による管理(“management by the seat of your pants”)」などのキャッチフレーズはよく知られているが、陰険な「脅しによる管理(“management by intimidation”、以下MBI」型マネジメントについて知識のある人は少ないだろう。
ここでは、MBIが従業員にどのような悪影響を及ぼし、組織を不正、浪費、乱用の危険性にさらしうるかを説明する。また、組織のリスク軽減を可能にする従業員管理の体制も紹介する。以下に挙げるMBI型マネジメントの特徴は、高等教育分野での15年以上の経験を含む、内部監査人としてのキャリアの中で見てきたことをもとに、MBI型マネジメントの被害者との話し合いを通じて選び出したものである。
MBIとは、恐怖心に基づいて人々を管理、統治することである。コストは上がり、生産性は落ち、収益は下がる。MBIはさらに、従業員の勤労意欲や組織の倫理環境に悪影響を及ぼす。誰もが、MBI型マネジメントを利用して自分の思い通りにする上司を知っている、もしくはもったことがあるだろう。しかし、そのような手法はW.エドワーズ・デミング(W. Edwards Deming)氏の、経営に関する八番目の原則と矛盾する。同氏によると、マネジャーは従業員が安心して意見・質問をできるよう、「恐怖心を取り除く」べきだという。デミング氏は、従業員が最大限の力を発揮することを阻止する恐怖による管理は、組織の長期的健全性にとって逆効果であると確信している。
MBIの兆候 (WARNING SIGNS OF MBI)
長年のコンサルティングや経営のレビュー(management reviews)の中で、MBIを特徴づける行動の傾向を発見した。読者の組織でも、次のようなMBIの代表的特徴が見られるだろうか。
脅しの使用(Use of thereat):
MBI型マネジャーは、業績を上げるよう従業員を脅すが、彼らが最大限の力を発揮できるよう鼓舞することはしない。よく使われる手法は、警告書・非公式の解雇の脅し・非公式の退職要求である。MBI型マネジャーの仕事に対する哲学とは、絶対的な権力(unchecked power)を見せつけることである。
無力な監視機関(Ineffective oversight body):
MBI型マネジャーは、取締役会などの監視機関のメンバーに、常に自分の言動を疑問視しない者を注意深く恣意的に選ぶ。そして取締役会は、MBI型マネジャーに絶対的権力により管理する無条件の許可を与える(ここでまたあの「絶対的」という言葉が登場する)。その結果、取締役会は不正検査士や監査人を、役員が責任をもって組織を監督できるよう援助するパートナーとしてではなく、必要悪として見なすようになる。役員は、従来、傍観者的な監視方針をもつ言い訳として、マイクロマネジメント(部下に権限を委譲せず細かく管理すること)を避ける必要性をあげていた。仲間内で役員を選ぶことは、監視機関が機械的に承認印を押すだけという悪習慣を助長する。加えて役員は、マイクロマネジメントに関わりたくないという理由で、しばしば組織がMBI型マネジメントに蝕まれるのを放置してしまう。
コミュニケーションの検閲(Censored communications):
MBI型マネジャーは、従業員が組織について公然と率直な意見を述べることを好まない。彼らは従業員が外部に対して組織のいい点だけを伝えるように、コミュニケーションを操作する。MBI型上司は、労働条件に関して自分に都合の悪い考えを述べる従業員を、日常的に叱責する。真実へのこだわりはない。MBI型マネジャーは真の組織環境や文化を隠すために、役員・CFE・外部監査人・規制当局とのコミュニケーションを検閲したり、都合の悪い部分を削除したりする。
自己中心主義(Self-centeredness):
MBI型マネジャーは、たいてい自分自身やお気に入りの部下・友人・取引仲間にとって都合の良い決断を下す、自己中心的なリーダーである。私事をあたかも組織の問題であるように見せかけるのである。
揺ぎない権力(Unchallenged authority):
MBI型マネジャーは、自分の権力に抵抗したり異議を唱えたりする従業員を、常に排除する。
説明責任の欠如(Lack of accountability):
MBI型マネジャーは組織においてもっとも説明責任を果たさない類の人間である。彼らは取り組みが成功すればすぐに自分の手柄にし、失敗すれば他人を非難する。また彼らは、使い捨ての従業員やスケープゴートに不利な材料を事細かに集める。説明責任の文化が存在しないため、多くの組織においてMBI型マネジャーがはびこることになる。
透明性の欠如(Lack of transparency):
MBI型マネジメントは、直接的もしくは間接的に影響のある人以外には見えにくい。そのような部外者は、被害者の同僚から聞き知るだけである。MBI型マネジャーは監査証跡を残すことを非常に恐れているため、自分の言動は記録せず、部下にもそうするようそれとなく指示する。
問題のある雇用慣習(Questionable hiring practice):
MBI型マネジャーは優れた人事ポリシーを無視し、えこひいきや縁故主義に頼る傾向にある。彼らは密かに仲間や親族が優遇されるように仕組み、法的要件を満たすためだけに、策略的な面接を行うこともある。
多様性の欠如(Lack of diversity):
MBI型マネジャーは、多様性の尊重を唱えるが実践はしない。彼らは多様性の美徳を称賛するポリシー・手続き・計画を作り、組織において多様性の価値が信じられていると錯覚するようなイベントを開催する。しかしよく見てみると、彼らの付き合う主要リーダーらは多様性に欠けている。そのようなリーダーらは、概して自分と外見・考え・行動が似ている者に、有利な地位・契約・賞与を与える。
ダブルスタンダード(Double standards):
MBI型マネジャーには、他の従業員には認められないような言動が許されてしまう。MBI型マネジャーは、私利私欲や気まぐれな思いつきのためなら規則を曲げるが、他の従業員が同じ事をすると解雇される。
独立した評価者の蔑視(Disdain for independent reviewer):
MBI型マネジャーは、不正検査士・内部監査人・外部監査人・その他の独立審査機関を公然と蔑視する。彼らは、自分や「信頼を置く」従業員の行動を調査・批判されることを嫌う。彼らは、自分の言動は非難・監査の対象にならないという錯覚のもとに行動する。代わりにMBI型マネジャーは、足かせになっている従業員やマネジャーを排除して、自分が特定の行為を容赦しないことを見せつけるために、「その他の人間」が監査・調査されることを好む。MBI型マネジャーにとって、「信頼せよ、されど、検証せよ(trust by verify)」という考えは無関係なことなのだ。
先見の明のないマネジメント(Management myopia):
MBI型マネジャーは元来受身の人間である。彼らは現状維持を好み、波風を立てたり既存の枠からはみ出したりする者を嫌う。また彼らは、自分の考えをはっきりと明確に伝えることをほとんどしない。自分の気分によって従業員の正式評価を下し、嫌いな従業員は厳しく非難し、「信頼を置く」従業員には褒美を与える。MBI型マネジャーは、組織の長期的健全性のためではなく、自分を大きく見せるためにできる限り長く生き延びる。
知らぬ存ぜぬ(Bliss in feigned ignorance):
MBI型マネジャーにとって、組織の問題点は知らないに越したことはない。彼らは、内部告発者や「悪い知らせ」の使者と考える従業員を心底憎む。彼らは自分にとって不都合な知らせが聞こえてこないよう、組織内に障壁を構築する。そして現実に直面した時には、すぐさま「知らなかった」、問題やそのリスクについて「気付かなかった」、などという定番の言い訳を使う。
従来のマネジャーも、ストレスがたまっている時や、精神的に不安定な時、もしくは発見されることを恐れている時に、上記のMBI型手法を少なからず使用する。
MBI型マネジメントが及ぼす悪影響 (CONSEQUENCES OF MBI PRACTICES)
監査人や不正検査士として、我々はMBI型マネジメントが組織の従業員に及ぼす影響を数多く見てきた。それらについて、経営のレビュー(management reviews)や監査の中で何度報告したことか。
従業員のモチベーション低下(Unmotivated employees):
従業員が最大限の力を発揮し、より熱心に、必要であれば規定の八時間を超えて働くためのモチベーションがなくなる。やる気のない従業員は、MBI型上司の顔をつぶすために非生産的になり、仕事をサボるようになる。
従業員のストレス悪化(Overstressed workforce):
従業員は膨大なストレスを抱えて働いている。彼らはいつもMBI型上司に脅え、生産性を維持できなくなる。ストレスの悪化は、彼らの健康・家族・仕事態度にも影響を及ぼす。
従業員の積極性の低下(Non-enterprising employees):
従業員は自分に創造的に考える権利がないと信じ、何事もMBI型マネジャーの承認なしには考えたり、達成したりできなくなる。彼らは会議で率直な意見を述べたり提案したりすることを恐れ、従業員への権利付与に関する組織の姿勢について懐疑的になる。やがて彼らは、組織のシナジー向上への取り組み(synergistic corporate initiatives)に参加するため、という言い訳を見つけるようになる。
離職率の上昇(High employees turnover):
有能な従業員、中でも中間管理職や最前線の従業員は去っていく。中にはMBI型マネジャーにスケープゴート(身代わり)にされた従業員もいる。残りの者は、ただ、自分の誠実性・健康・精神的健全性・キャリアを守るため、組織の不健全な文化から去る決心をする。
不公平な処遇(Inequitable compensation):
MBI型マネジャーは常に、犠牲にできると見なした従業員より、「お気に入り」や「信頼を置く」従業員に多く報酬を与える。経験や資格は無関係になる。一部の人間はより平等である(ただし、より優れているとは限らない)という考え方は、次第に浸透し、恨みや不和を生み出す。
不信感の蔓延(Climate of distrust):
従業員とMBI型マネジャーは、互いに信頼しなくなる。不信の風潮は高まり、職場環境は乱れ、不健全になる。
悪意に満ちた環境(Climate of vindictiveness):
執念深いMBI型マネジャーは、既存の枠からはみ出て考えたり、不満を抱いたり、内部告発をしたりするような従業員を、罵りやさらにひどい方法で罰する。抑制と均衡の制度の欠如が事態を悪化させる。
紛争解決機能の低下(Ineffective dispute resolution):
従業員の苦情や問題が増大する。雇用機会均等法・労働法遵守のため設けられた問題解決機関は、彼ら自身が苦情の対象であるMBI型上司に報告することが通例のため、満足な解決法を見出すような効果を得られない。従業員は、狼が鶏小屋の番をしているようなものだと感じ、やがて苦情を正式に申し立てても無意味だと信じるようになる。被害を被った従業員の唯一の頼みは訴訟を起こすことであり、訴えられた組織はたいていの場合、金のかかる示談による解決をとることになる。
「火消し」型マネジメント(Fire-fighting management):
MBI型マネジャーは常に火消しに追われ、緊急事態から抜け出せなくなるが、いずれは再発火し大火傷を負うことになる。
敵対的な監査環境(Hostile audit environment):
MBI型マネジャーの行動を監査することについて、内部監査人の中には自分の職が危うくなると感じる人や、また外部監査人の場合ビジネス契約を危険に晒していると感じる人もいる。品質保証の作業になると、環境は明らかに敵対的になる。MBI型マネジャーは頑強に作業を妨害し、非協力的になる。監査証跡はほとんど残っておらず、監査は困難を極める。またMBI型マネジャーは、監査委員会のメンバーとの接触を制限しようとする。
既存の統制の軽視(Disregard for established controls):
MBI型マネジャーは、不正予防策や発見のための規制を、自分の都合に合わせて曲げられるためだけに確立されたものと考えている。彼らは既存の規制を常に無視もしくは軽視し、自分の仕事を危うくする。職業上の不正行為の機会が増え、不正対策の定着しにくい環境になる。
非倫理的な文化(Unethical culture):
上記のような環境は、何でもまかり通るような企業文化を育成し、非倫理的行為が広く許されるようになる。歪んだトップの姿勢を見て、信頼を置く従業員の中には、殺人以外であれば何をしても咎められないとさえ考える者もでてくるかもしれない。非倫理的行為や違法行為で捕まり、起訴された従業員は、MBI型上司も同様の悪事を働いていたと自分を正当化する。もちろんこのような言動は、やがて地方・国家・連邦規制機関の鋭い目にとまることになる。
たいていの場合、組織は新聞の一面記事にならない限り、その文化を変えMBI型マネジメントを廃止する必要性を感じない。変えようとする姿勢が誠実であるケースもあるが、単に表面的なものであることもある。重大な企業不祥事の事例を見ても、MBI型マネジメントが21世紀の管理のベストプラクティスに反するということは確かである。MBI型マネジメントから得られる利益は、絶対に長くは続かない。
MBI型マネジメント対策法 (TIPS FOR DEALING WITH MBI PRACTICES)
リーダーシップについて書かれた文献によると、優れたリーダーシップは科学より芸術と言えるようだ。重要なことは、仕事や学ぶことを愛し、可能性を試し、私心をなくして他人のために尽くし、潔く変化に適応し、効果的に問題を処理し、望みどおりの結果をあげられるよう、教養や経験をもとに人々を鼓舞することである。また優れたリーダーシップとは、複雑な人的管理上の問題を、思いやりの心を持って対処することでもある。
以下のような優れた経営方針があれば、陰険なMBI型マネジメントに立ち向かうことができる。
- 組織の第一の目標は、従業員のために毎日の出勤が楽しみになるような環境をつくり、維持することである。
- 人には誠実性と価値観がある。組織およびその従業員の誠実性を保つことは、非常に重要なことである。
- 従業員は一人ひとり異なる。それぞれ違った経歴・趣味・能力・技術・家族への責任がある。一人ひとりの特徴を認めることで、有効な人的管理が可能になる。
- 従業員の能力を尊重することは、上司が彼らの短所を許す絶え間ない努力をすることを意味する。優秀な能力に焦点を置けば、上司はグラスに水が半分も入っていると考えるが、欠点に注目すれば水は半分しか入っていないと捉える。
- 仕事・達成感・チームワークを楽しめる人間だけを採用する。年齢・人種・ジェンダー・出身国・障害の有無・結婚歴・性的指向に関わらず、誰もが成果・貢献・可能性を最大限にする機会を与えられる。
- 全てのやりがいのある試みにおいて、チームワークは成功の鍵である。成功するために必要なスキルを全て持ち揃えている人間はいない。異なる能力や考えを持った人々が集まって力を合わせ、組織のシナジーを確立するのだ。例えば、カリスマ的な管理者はほとんどの時間を顧客対応に費やすが、一方で、創造力を持った者は時間をかけて斬新で巧妙な問題解決法を考案する。
- 理想的には、組織・経営者・従業員・クライアントの功績や目標のために常に積極的に働く人が、尊敬され、適切に報いられるべきである。
- 経営者の第一の目標は、従業員の長所および能力を発見・育成・開発することである。優秀な上司は、この目標の達成を軽視するようなことはしない。
- 経営者の第一の責任は、全ての問題について、大事にならないうちに取り組み解決することである。優秀な上司は、この責任を放棄または回避しない。
- ステークホルダー(外部の顧客・従業員・納入業者)の満足が、組織の未来の礎となる。企業の成功は、そのようなステークホルダーのニーズの満足度によって測ることができる。
- 組織の存続に、シナジーは不可欠である。組織は最低二人の責任者を要し、(1)管理事務、(2)起業活動、(3)コミュニケーション強化、(4)生産性向上という4つの主要役割がある。
組織が成功するためには、上の全ての役割が円滑に果たされる必要があり、そのためには複数の人員を要するのである。管理事務の責任者が創造性豊かな起業家の役割も担うことは、日々の管理事務があるためほとんど不可能なのだ。
- ビジネスや経営をする上で一番困難なことは、優秀な人材を見つけ、うまくいかない場合には手放すことである。手放す決断を下すことは概して容易だが、正当な理由の有無に関わらず、そのことを告げることは非常に困難である。
優れたリーダーは、通常全てのステークホルダーが入手できる「価値記述書」(“statement of values”)のなかで、上記の経営方針を用いている。これらの方針は、21世紀における組織の有効な人的資本管理に関する枠組みの基本要素となる。
不正検査士、監査人にとっての重要性
(IMPLICATIONS FOR FRAUD EXAMINERS, AUDITORS)
不正検査士や監査人は、MBI型マネジメントは組織の有効性に深刻な悪影響を及ぼすということを認識しなくてはならない。彼らが実施するリスクベースのレビューは組織内におけるそのような悪習を見つけ出し、なくしていくのに役立つであろう。保証やコンサルティング契約を履行するためには、独立性と客観性を確保しなくてはならない。監査基準や職業倫理規範の順守は、職の確保よりも優先されるべきである。
不正検査士や内部監査人は、相手方との対立など厳しい環境で業務をこなさなければならないため、やむをえない場合には、職を辞してでも自らの意見を内外のステークホルダーに伝える覚悟が必要である。もちろん、監査委員会のメンバーと良好な仕事上の関係を構築することは、蔓延するMBI型マネジメント対策を進めるうえでの最重要課題であるといえる。
同様に、外部監査人も、クライアントとの契約や報酬の問題が自らの独立性や専門家としての判断力を曇らせることがないように十分留意しなくてはならない。外部監査人は、MBI型マネジメントの横行による内部統制の弱体化は財務諸表不正を招き、他の職業上の不正行為の機会をもたらしてしまうということを知るべきである。
加えて、内部監査人、外部監査人ならびに不正検査士は、内部統制のレビューを実施するに際して、自らがMBI型マネジメントに陥ったり、他者のそのような言動を見逃したりして、信頼性を失わないように注意すべきである。したがって、レビューの客観性やMBI型マネジメント対策の効果を高めるためには、自己評価を行うことが重要なステップである。信頼が欠如した状況下では、質の高い監査業務は履行できないのは周知の事実である。
最後に、エンロンやワールドコムの事件が明らかにしたとおり、監査可能な範囲(auditable areas)において危険信号(red flags)を察知したにも関わらず適切な措置を講じなかった場合には、監査人は大きな代償を払いうるのである。
現状認識のためのチェック (REALITY CHECK)
MBI型マネジメントは、自己中心的なリーダーに利益をもたらす一方で、組織の有効性を低下させる。自組織の現状を点検するには、次の簡単な質問に答えるとよい。
(1)自組織では、MBI型マネジメントが横行しているか?
(2)我々自身がMBIを助長していないか?
(3)組織にとって有害なMBI型マネジメントを撲滅するために、我々には何ができるか?
MBIがもたらす害悪(MBI evils)は、従業員はそれぞれ個性と感情をもった一人の人間として扱われたいと思っているという大前提を否定し、政府の規制の網を掻い潜る。組織の好業績、倫理的な組織文化、そして社会的責任を重視する内外のステークホルダーが手を携えて、MBIの防止、撲滅に積極的に取り組むべきである。そして、もし従業員が「上司は口では高尚なことを言っているが、MBI型マネジメントをやめようとしない」と感じるような組織は、何も変わらないであろう。
MBIの撲滅に毅然かつ積極的に取り組む組織こそが、適者のみが生き残れる21世紀の世界的な競争環境において、強固な基盤を築けるのである。
本稿において議論された有効なマネジメント実践の枠組みは、従業員のモチベーション向上、説明責任の履行、倫理的な意思決定、ガバナンス・プロセスの共有、積極的な問題解決、そして顧客満足の向上に資するものである。これらの構成要素の強化は、不正や浪費、乱用の減少につながり、活力ある企業文化を醸成して、最終的には組織の健全な経営成績(bottom line)の維持向上をもたらすのである。
Slemo D. Warigon氏、CIA, CISA, CICA, MBA
ワシントンDCにあるギャローデット大学(Gallaudet University)の監査&マネジメント・アドバイザリー・サービス担当のダイレクターである。情報システム管理やセキュリティに関する著作が多数あり、彼の「データウェアハウスの管理とセキュリティ(Data Warehouse Control and Security)」という記事は、内部監査人協会(IIA)の1999年の優秀賞(Outstanding Contributor Award)に輝いた。
Betsy Bowers氏、CFE, CIA, CGFM
フロリダ州ペンサコーラ(Pensacola, FL)にある西フロリダ大学(University of West Florida)の内部監査&経営コンサルティング担当のAssociate Vice Presidentであり、大学監査人協会(the Association of College and University Auditors)の会長(the president)も務めている。