内部統制ブームというと、いわゆるJ-SOX(金商法上の内部統制報告制度)の施行前後の時期、つまり2005年から2010年ころまでを指 すものであろう。当時は書店に「内部統制関連コーナー」が設置されていたものだが、最近は「開示すべき重要な不備」を公表する企業も少なくなり、 J-SOXが話題に上ることもめっきり減った。
しかし20年ぶりのCOSO報告書の全面改訂、リーマンショック以降の世界の企業観や規制手法の変遷、そしてアベノミクスよる成長戦略の方針といった企業を取り巻く経営環境のなかで、ふたたび内部統制ブームが到来する兆しがある。それは、以下のような理由からである。
第一に、国税庁が今年から大企業向けに進めている「税務に関するコーポレートガバナンス充実に向けた取り組み」である。企業が税務処理に関する内部統制を整備することによって税務調査の期間頻度が長くなる(たとえば3年ごとの調査が5年ごとの調査になる)、というのは適切な税務処理を企業に促すインセンティブとしては大きい。
第二に、今年 8 月 9 日に施行された東京証券取引所の有価証券上場規則の改訂である。粉飾決算の疑いが強い企業に対して、監査法人が「おかしい」「あやしい」(不適正意見、意見不表明)と、監査意見を出しやすくするための取引所ルールが改訂された。監査人の不適正意見が出たらすぐに上場廃止になるのではなく、原則として特設注意市場銘柄に指定され、そこで上場廃止にすべきかどうか、慎重に取引所が判断する、というもの。指定された企業の内部管理体制が有効か否かによって上場廃止か上場維持かが決まるわけであるが、これまで3年だった審査期間が1年に短縮されている。つまり目に見える形で内部統制が変わらなければ廃止になってしまう可能性が高いということである。
そして第三に消費者庁の動向である。消費者集団訴訟制度の策定がひと段落となった今、消費者庁の制度対応としては、企業コンプライアンスの向上による消費者被害の防止ということになりそうである。当然のことながら、公益通報者保護法や企業の内部通報制度の制度運用に関心が向くことになるので、こういった施策に熱心な企業に対して何らかのインセンティブを付与する方向性も考えられる。
そして最後になるが、監査における不正リスク対応基準の施行によって、内部統制報告制度(J-SOX)の評価方法が見直されることである。株主が短期的利益よりも持続的成長を重視するようになったことから、コーポレートガバナンスの議論は「企業と株主との対話」に焦点があてられる。そしてリスク管理の方法も株主の対話項目のひとつとされている。そもそもJ-SOXは企業のリスクを開示するための制度だったはずである。本来の制度趣旨を思い起こし、経営者と株主とのコミュニケーションツールとして内部統制報告制度が活用されるようになることが期待され る。
不正調査の現場でも、不正の未然防止や早期発見のためには内部統制のチェックは欠かせない。業種・業態を超えて、多くの実務家の人たちが内部統制を語ることは、よりよい不正調査のための知恵も生まれるきっかけとなるので、このたびの内部統制ブームの再来は大いに歓迎したい。
山口 利昭 法律事務所 弁護士
公認不正検査士
ACFE JAPAN 理事