厚生労働省が設置した「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議」は、7月上旬に報告書を取りまとめた。
「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議」報告書
有識者会議設置の動機となった AIJ 投資顧問による企業年金資産の消失事件に関しては、詐欺容疑で取り調べが行われているが、受託者責任に反し、運用成績を偽装し、資金を集めて、自転車操業するのは、日本だけではなく世界でも古典的に繰り返されてきたポンジー・スキーム(Ponzi Scheme)である。皮肉にも、2012 年の初頭に発覚したこの金融事件は、我々が目を背けていた企業年金制度のほころびに否応なしに取り組む機会を与えてくれたのである。
そもそも、退職金の受け取り方として企業年金が普及し始めたのは、50 年前の昭和 37 年に適格退職年金制度が生まれたことが一因である。制度導入企業には掛金に税制上の優遇措置が与えられ、生命保険会社や信託銀行などの金融機関には運用資金が集まり、従業員は年金資産を倒産リスクから守れるという「三方良し」の制度も今年 3 月で廃止となった。そもそも「退職金規程」や「退職年金規程」で約束した運用成績が長期間達成し続けられ るわけがなかった。それは、適格退職年金からの移行先のひとつである確定給付年金でも同じで、退職金給付の率そのものを見直すべきなのである。 さもなければ、運用成績が悪い年金資産から約束した高利率で年金受給者に給付するという、まるでポンジー・スキームであるかの様な状態に陥ってしまうのである。
退職所得には有利な税制が用意されているのにもかかわらず、受給者は何故、退職金一時金ではなく退職年金で受給するのだろうか。それは、退職年金規定が年金資産の運用に高い利率を約束していたからである。年金の受給者、受給予定者は、痛みではあるが、制度の持続性を考えて、給付そのものの大幅な見直しを受け入れることをせざるを得ない。いつまでも目を背けてはいられないのである。この問題は、金融行政の課題であるとともに、人事・労務制度の課題であり、ひいては賃金労働者の生活設計の課題なのである。
立教大学 大学院 ビジネスデザイン研究科 特任教授
The Japan Society of USCPAs(日本における米国行員会計士団体:JUSCPA)副幹事長
博士(経営管理学)立教大学、USCPA(イリノイ州)、公認不正検査士、公認内部監査人、米国公認管理会計士、米国公認財務管理し、サーティファイドフィナンシャルプランナー®
ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン副社長、ハリー・ウィンストン・ジャパン社長など外資系企業のマネジメントを歴任。